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27 王への謁見
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ルラは父親を通じ、王への謁見に成功した。父親にも、もちろん王にも、俊也を隠すつもりでいたが、方針を変更したのだ。
俊也が言うように、王都から離れ、地方でひっそり暮らしたら問題は少ないだろう。
その場合、猫又ナイトの存在は、大いにアピールした方が得策だ。
王の名前はヨハンブルグ・光りと影と五大精霊に祝福を受け、麗しきかなイスタルトの地を、あまねくしろしめす……。
正式な名前は、本人も覚えていないほど長い。
王の名前を呼ぶ時には、正式名称で呼ばなければ、不敬にあたる。
側近は皆、正式な名前を覚えているから始末が悪い。だから皆は「王」としか呼ばない。
その単純な呼称で呼ぶときは、彼が唯一無二の王である敬意の証しだから、不敬にはならない、ことにしている。
俊也が王の名前を聞いたとき、ルラは五分かけて名前を言った。
俊也は大爆笑。そして「寿限無(じゅげむ。落語のネタ。超長い名を持つ子供の噺)」より明らかに長い、王の名前を正確に復唱し、様によろしく伝えて、と付け足した。
俊也の記憶力はあきれ返るばかりだ。
王のそばで間違えでもしたら、まずいことになる。ほとんどの貴族は、覚えようともしない。逆に勇気を持ってその名前で呼んだら、王の機嫌はたちまち良くなる。
ルラは恭しくその正式名で呼んだ。王は左右の側近に確認すると、相好を崩した。
こいつ、やっぱりバカだったと思いながら、リラはこう続ける。
「王、わたくしは珍しい客人を招いております。
すでに父より、その話はお耳にはいっておられると、拝察いたします」
「おう、聞いておるぞ。なんでも転移魔法で失敗し、異世界の者を召喚したとか。
どのような者なのだ?」
この王はバカだけど、好奇心は強い。
「一言で言えば、超魔導師です。
畏れ多いことですが、ポナン・ウオール様を、はるかにしのぐ実力を持っております」
「ほ~、ポナンをはるかにしのぐとな?
苦しゅうない。
その超魔導師を呼べ」
「それが、そういうわけにいかないのです。
異世界の方ゆえ、こちらの人間と姿形が全く違うのです。
さらに言えば、世に二人といない女好き。
それほどの実力者、他国に渡すわけにまいりませぬ。
わたくしと、わたくしが信用する、合わせて十名が交替で伽を務め、それでその方を引きとめております。
それほどの価値がある方だとご賢察下さい」
「う~む……。十名とな」
「ここに控えがございます。まずこの十名を、その方の巫女としてお認め下さいませ」
側近がルラの書類を受け取り、王に差し出す。王はとたんに不愉快な表情になった。
「ならん! これは絶対ならんぞ!」
予想通りの反応だった。ルマンダを除き、全員王があわよくば側室に、と狙っていたことが想像される。
なにせこの王は、俊也に負けないほどスケベなのだ。
王妃が怖くて、こっそり下級貴族の子女を囲っている。高位の貴族には簡単に側室に加えると、言い出せない弱みもある。
高位の貴族や正妃が怖いから。だから密かに狙うことしかできない。
そのターゲットの娘が婚約したら、この王が怒り狂うというのは、もっぱらの噂だ。
王としての立場があるから、いくら不本意でも「王の許し」を、与えなければならないからなおさら。
はっきり言ってこの王は、貴族たちのなさけがあるから、王として威張っていられる。
「お言葉ではございますが、あの方は大変な面食いです。
今お渡ししたリストのレベルでなければ、断固として認めません」
「三十そこそこの娘もおるではないか!」
王は怒りのままの言葉をぶつける。
「左様でございます。いわゆるロリコンの性癖もございますから。
しかしながら、そのお方は、すでに喜悦の味を全員に味わせております。
すなわち、そちらの方面でも、大天才なのです。
三十そこそこの二人も含めて」
「ううむ……」
低く唸りながら、王の顔は赤くなった。王の怒りはもうすぐ頂点に達しそうだ。
「冷静にお考え下さい。その方の力を知ったなら、国によっては、二十人でも三十人でも美しい女を捧げるでしょう。
それほどの力があるのです。
明日にでもその力を、お見せしてもよろしいですよ。
兵たちにもお見せなさいませ。
武人として、絶対見逃がしてはならぬ力です。
申し遅れましたが、その方にお情けをいただいたら、驚くほど魔力が上昇いたします。
どなたか魔力の高い女性に、わたくしの魔力を量らせなさいませ」
「引き受けました」
王の寵愛する第三妃スカーレットだ。彼女は魔法学校を優秀な成績で卒業した。
スカーレットはルラに歩み寄り、おでこをくっつけて魔力を図ろうとした。
驚いて一歩後ずさった。
「王、これは決して大げさではありません。
私の力では量り切れない、強大な魔力を感じました。
本当に、体を与えるだけで、それほど魔力が増えるのですか?」
「与えるではありません。
捧げるのです。
わたくしは四回捧げました。
エレンの魔力もお量り下さい。
彼女は二度情けをいただきました。
エレンはわたくしの半分ほどの魔力量でした。
エレン」
ルラは後方に控えたエレンを呼んだ。
スカーレット妃は、恐る恐るエレンのおでこに、おでこをくっつけた。
「前に一度、学長をなさっていたころ、ポナン様の魔力を量らせていただいたことがございます。それにほぼ等しいかと」
スカーレットは力なく応えた。
私もお情け頂きた~い! 本音を言えば、このスケベオヤジなんかに抱かれたくない。
「とにかく、その者の力とやらを見せろ」
王はそう言って、謁見の間を出ていった。
「リラーナ宰相、手配お願いします」
ルラは父親に向かって深く頭を下げた。
「万事引き受けた」
俊也の書いたシナリオは成功した。ルラは公爵であり、この国の宰相である父親だけには、すべて話した。
もちろん俊也にも会わせた。父親は実質この国を機能させている存在だから。
リラーナ公爵は、俊也と面会し、話を聞いた時点で娘をあきらめた。宰相としての彼は、娘を捧げるしか手がなかった。
宰相は思った。この男が異世界の人間でなかったら、安心してこの国を任せられるものを。とんでもない知恵者だ。四つ先の手まで読めている。
もちろん、チェスなどとわけが違う。複雑な要素をはらんだ大局を見通す力。要するに真の王と呼ばれる者の力。
この男は野放しにしていい男ではない。
ルラ、よくやった、と心から娘を褒め称えたい。
さて、デモンストレーションの大魔法とは、どのようなものか。
一野次馬として心躍る宰相だった。
俊也が言うように、王都から離れ、地方でひっそり暮らしたら問題は少ないだろう。
その場合、猫又ナイトの存在は、大いにアピールした方が得策だ。
王の名前はヨハンブルグ・光りと影と五大精霊に祝福を受け、麗しきかなイスタルトの地を、あまねくしろしめす……。
正式な名前は、本人も覚えていないほど長い。
王の名前を呼ぶ時には、正式名称で呼ばなければ、不敬にあたる。
側近は皆、正式な名前を覚えているから始末が悪い。だから皆は「王」としか呼ばない。
その単純な呼称で呼ぶときは、彼が唯一無二の王である敬意の証しだから、不敬にはならない、ことにしている。
俊也が王の名前を聞いたとき、ルラは五分かけて名前を言った。
俊也は大爆笑。そして「寿限無(じゅげむ。落語のネタ。超長い名を持つ子供の噺)」より明らかに長い、王の名前を正確に復唱し、様によろしく伝えて、と付け足した。
俊也の記憶力はあきれ返るばかりだ。
王のそばで間違えでもしたら、まずいことになる。ほとんどの貴族は、覚えようともしない。逆に勇気を持ってその名前で呼んだら、王の機嫌はたちまち良くなる。
ルラは恭しくその正式名で呼んだ。王は左右の側近に確認すると、相好を崩した。
こいつ、やっぱりバカだったと思いながら、リラはこう続ける。
「王、わたくしは珍しい客人を招いております。
すでに父より、その話はお耳にはいっておられると、拝察いたします」
「おう、聞いておるぞ。なんでも転移魔法で失敗し、異世界の者を召喚したとか。
どのような者なのだ?」
この王はバカだけど、好奇心は強い。
「一言で言えば、超魔導師です。
畏れ多いことですが、ポナン・ウオール様を、はるかにしのぐ実力を持っております」
「ほ~、ポナンをはるかにしのぐとな?
苦しゅうない。
その超魔導師を呼べ」
「それが、そういうわけにいかないのです。
異世界の方ゆえ、こちらの人間と姿形が全く違うのです。
さらに言えば、世に二人といない女好き。
それほどの実力者、他国に渡すわけにまいりませぬ。
わたくしと、わたくしが信用する、合わせて十名が交替で伽を務め、それでその方を引きとめております。
それほどの価値がある方だとご賢察下さい」
「う~む……。十名とな」
「ここに控えがございます。まずこの十名を、その方の巫女としてお認め下さいませ」
側近がルラの書類を受け取り、王に差し出す。王はとたんに不愉快な表情になった。
「ならん! これは絶対ならんぞ!」
予想通りの反応だった。ルマンダを除き、全員王があわよくば側室に、と狙っていたことが想像される。
なにせこの王は、俊也に負けないほどスケベなのだ。
王妃が怖くて、こっそり下級貴族の子女を囲っている。高位の貴族には簡単に側室に加えると、言い出せない弱みもある。
高位の貴族や正妃が怖いから。だから密かに狙うことしかできない。
そのターゲットの娘が婚約したら、この王が怒り狂うというのは、もっぱらの噂だ。
王としての立場があるから、いくら不本意でも「王の許し」を、与えなければならないからなおさら。
はっきり言ってこの王は、貴族たちのなさけがあるから、王として威張っていられる。
「お言葉ではございますが、あの方は大変な面食いです。
今お渡ししたリストのレベルでなければ、断固として認めません」
「三十そこそこの娘もおるではないか!」
王は怒りのままの言葉をぶつける。
「左様でございます。いわゆるロリコンの性癖もございますから。
しかしながら、そのお方は、すでに喜悦の味を全員に味わせております。
すなわち、そちらの方面でも、大天才なのです。
三十そこそこの二人も含めて」
「ううむ……」
低く唸りながら、王の顔は赤くなった。王の怒りはもうすぐ頂点に達しそうだ。
「冷静にお考え下さい。その方の力を知ったなら、国によっては、二十人でも三十人でも美しい女を捧げるでしょう。
それほどの力があるのです。
明日にでもその力を、お見せしてもよろしいですよ。
兵たちにもお見せなさいませ。
武人として、絶対見逃がしてはならぬ力です。
申し遅れましたが、その方にお情けをいただいたら、驚くほど魔力が上昇いたします。
どなたか魔力の高い女性に、わたくしの魔力を量らせなさいませ」
「引き受けました」
王の寵愛する第三妃スカーレットだ。彼女は魔法学校を優秀な成績で卒業した。
スカーレットはルラに歩み寄り、おでこをくっつけて魔力を図ろうとした。
驚いて一歩後ずさった。
「王、これは決して大げさではありません。
私の力では量り切れない、強大な魔力を感じました。
本当に、体を与えるだけで、それほど魔力が増えるのですか?」
「与えるではありません。
捧げるのです。
わたくしは四回捧げました。
エレンの魔力もお量り下さい。
彼女は二度情けをいただきました。
エレンはわたくしの半分ほどの魔力量でした。
エレン」
ルラは後方に控えたエレンを呼んだ。
スカーレット妃は、恐る恐るエレンのおでこに、おでこをくっつけた。
「前に一度、学長をなさっていたころ、ポナン様の魔力を量らせていただいたことがございます。それにほぼ等しいかと」
スカーレットは力なく応えた。
私もお情け頂きた~い! 本音を言えば、このスケベオヤジなんかに抱かれたくない。
「とにかく、その者の力とやらを見せろ」
王はそう言って、謁見の間を出ていった。
「リラーナ宰相、手配お願いします」
ルラは父親に向かって深く頭を下げた。
「万事引き受けた」
俊也の書いたシナリオは成功した。ルラは公爵であり、この国の宰相である父親だけには、すべて話した。
もちろん俊也にも会わせた。父親は実質この国を機能させている存在だから。
リラーナ公爵は、俊也と面会し、話を聞いた時点で娘をあきらめた。宰相としての彼は、娘を捧げるしか手がなかった。
宰相は思った。この男が異世界の人間でなかったら、安心してこの国を任せられるものを。とんでもない知恵者だ。四つ先の手まで読めている。
もちろん、チェスなどとわけが違う。複雑な要素をはらんだ大局を見通す力。要するに真の王と呼ばれる者の力。
この男は野放しにしていい男ではない。
ルラ、よくやった、と心から娘を褒め称えたい。
さて、デモンストレーションの大魔法とは、どのようなものか。
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