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3 妖力「艶風」発動

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 ナイトが意識を取り戻した時、ルラは周章狼狽していた。

「ナイト、大丈夫? 
また殺してしまった、なんてことナイト思うけど」
 また…殺した? 

ナイトは開けかけた目を固く閉じた。お嬢様のダジャレらしき言葉には、気づかないまま。

「ごめんなさい。好きすぎるのがいけないのよね。
プリンを強く抱きしめすぎて……」
 ナイトは背筋に悪寒が走った。

このお嬢様、ヤバすぎる! 

ナイトは即身を起し、猛然と脱出。

ソファーの下にもぐり込み、身を隠す。

「あっ、元気そうに走った~! 
ナイトは頑丈なんだ。
よかった~」
 ルラは床にペタンと座りこむ。

「頑丈なんだ、じゃね~だろ! 
お花畑見ちゃったよ~! 
真っ白な美人猫が、おいで~、おいで~と誘惑してきた」

「ああ、それは多分プリンよ。
最高にエレガントで、最高にわがまま。
いつもいっしょに寝てたんだけど、朝気づいたら硬くなってた。
プリンは十八で、超若く見えたけど、寿命だったのかもしれない。
だけど、私がとどめ刺したのかもしれない」

「ちょっとだけ希望が湧いた。
言っておくけど、俺は同衾しないから」
 ナイトはソファーの下から這い出してきた。

「いくつか聞きたいことがあるの。おいで」

「ヤダ!」
 ナイトは再び逃げ出そうとした。

「フフ、起きているときは大丈夫よ。だからおいで」

「ヤダ! さっきは大丈夫じゃないすれすれだった」

「じゃあ、触らないから」

「ヤダ! ちょっぴりなら接触を許す」
 ナイトは欲望に負けて、ルラの膝に飛び乗った。

だって、居心地抜群なんだもん!

「もう……。へそ曲がりなところはプリンと同じ。
じゃ、質問に答えて」
 ルラはナイトの喉の下をくすぐりながら言う。

「許す。なんでも聞くがよい。ゴロゴロ……」

「あなた、向こうの世界でも王国語…イスタルト語が話せたの?」

 はて~? そういえば、この凶悪なお嬢様と、普通に話している。

ナイトの頭が混線。自分が考えているのか、俊也が考えているのかわからなくなった。

だが、落ち着いて考えてみる。

この少女の太もも、やっぱ気持ちいいんですけど!

頭を動かして秘密の……、

じゃないだろうが! 

俊也に意識が持っていかれそうになった、ナイトの灰色の脳細胞がはっきりしてくる。

「俺は猫又、つまり妖怪猫だ。
現在三百と十七歳」

 え~! そうだったんだ! 

ナイトの中で意識が確立した俊也は驚く。

「生まれつき、言葉や魔法は使えたの?」
 えっ、このお嬢様、妖怪という言葉、平気で流したぞ。

つまり、この世界では、モンスターの類は普通なのか。ナイトの中の俊也はそう理解した。

「猫又はそういうふうにできている。
何語であろうがすぐに順応できる。
妖力も使えるが、お主の世界の魔法と同じかどうかは、正直わからぬ。
めんどくさいことになるので、普段は使わなかった。
…ほら尻尾が二本あるだろ? 
猫又のシンボルだ」
 ナイトは妖力で隠していた、自慢の長い尻尾を二本振る。そしてピースサインを作った。

ルラはその意味に気付かなかったようだ。ナイトは恥ずかしくなって、尻尾をだらんとさせた。

「妖力? ちょっと使ってみて」
 ルラは目をキラキラさせて頼む。

「よかろう。立て」
 ナイトは俊也の願望を汲むことにした。

「はい」
 ルラは素直に従った。

ナイトは尻尾を一本立て、空中に魔法陣を描く。

ペタン。魔法陣の中に猫スタンプ。

「艶風!」

「きゃっ!」
 足元で小さな竜巻がおこり、ルラは慌ててスカートを押さえた。
ルラのスカートの中身は、一瞬もろにさらされていた。

ナイトの中の俊也は叫ぶ。ナイスジョブ!

「も~……いやらしいんだから」
 ルラは苦笑してソファーにかけ直す。もちろんナイトは、膝に飛び乗る。俊也の意を汲んで、頭はヤバヤバのポイントに接近させる。

 猫形態、サイコー! セクハラも天下御免だ!

「魔法陣、超早く描いたね。私も風魔法使えるけど、今の速度では無理。
円を描いて、肉球を押しただけに見えた」
 猫形態は、やはり最高だった。猫の形に安心し、ルラはセクハラに気づかない。

 美少女の秘密の花園は、花園なのですよ!
 
断じて甘いのですよ!

 コホン……。俊也、いい加減にしろ!
 
ナイトは俊也のスケベ心を軽くしかりつけ、気を取り直す。気持ちはわかるが……。

「よくぞ気づいた。その通り。
ラノベでいうところの、簡略詠唱に近いだろう。
その時、どのような効果を狙うかイメージする。
気分に合った呪文を適当に唱える。
尻尾は二本あるから、別の妖力も同時に使える」
 ナイトは二本の尻尾を得意そうに立てた。

「簡略詠唱に並行詠唱? 
す、すごすぎ……」
 ルラは圧倒され、思わず体が震えた。

大魔導師ポナン様より上かもしれない。

「もっとほめてよいぞ」
 ナイトは気持ち良さそうに目を細める。

「さっきの艶風なら、どの程度の規模まで可能ですか?」
 ルラは慇懃(いんぎん)に聞く。魔力の器もそうだし、大魔導師以上の才能。
超尊敬しちゃう!

「そうだな。俺もやったことはないが、千年に一度の暴風程度なら可能ではないかな。
風速で言えば、百メートル程度? 
やってみようか?」

「おやめ下さい! 甚大な被害が起こります!」
 ルラは決してハッタリではないと直感した。なにせナイトの魔力…妖力は、自分程度の器で量り切れなかったのだ。

「ある事情があって、俺は向こうの世界でも異例の妖力を持っていた。
ただ、前以上に妖力を持った気がする。
この世界の空気なのかな。
地球割程度ならできそうなほど、妖力が上昇している感じだ」

「地球割? 
まさかあの伝説の……。
ほよよ、という掛け声で地面にパンチする……」

「ほほう~……。なぜ知っている?」

「ときどき変な夢を見るのです。
あれは帽子をかぶった丸眼鏡の少女が……。
ですが、幻惑魔法の類でしょう。
地球が割れた後も普通に生活してますから。
くぴくぴ……」

 ルラの言うその夢は、いわゆる「電波を拾う」という現象である。

実を言えば、地球とこの世界は、非常に近い次元にある。

魔力が異常に高いルラは、ときおり迷い込んでくる地球の電波を夢の中で拾っていた。

俊也とナイトがこの世界へ飛んできてしまったのも、決して偶然だけではなかった。

「ほよよ! 
そうだったのか。
俺は疑問に思っていたのだが、納得できた。
前の主人がいわゆるアニメオタクで……」

 ルラはアニメ談議に乗りかけ、踏みとどまった。
「ナイト様! もう一つ重要な質問があります。
俊也の布団に、転位魔法の魔法陣をお描きになりましたね?
なぜなのですか?」
 ルラは真剣なまなざしで聞く。

「中二病という概念は、ないだろうな。
俊也殿が、いまだ中二病だからだ。
現在は異世界チート物というジャンルにはまっている。
どこかのゲートが開いた気がしたんだ。
油断して俊也殿の布団で眠ってしまった。
まさか俺まで巻き込まれるとは思わなかった。
ハハハ……。
痛い! 何をする!」
 ナイトの中の俊也は、自分? の顔に思い切り猫パンチをくらわした。自分も痛かったので、それ以上の制裁はやめた。

何がハハハ、だよ! お前が主犯だったんだな。
『まあ、そう怒るな。結果オーライで、超絶美少女とお近づきになれた。
パンツも見られただろ?
花園に、頭ぐりぐりしようか?
ルラは油断しているぞ』
 ナイトが頭の中の俊也に語りかけた。そういえばそうだな。ハハハ、許してやる。

 頭ぐりぐりは…、追い出されたらヤバすぎる。次の機会に。

ちょろ過ぎる俊也だった。
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