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160 ヤンデレはとことんデレる

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 ケーンは自分の寝室へサーシャをいざなう。

 さて、どう料理されよう? ベッドに座ったサーシャは、ロングドレスの足をゆったり組む。

 さて、どう料理しよう? ベッド際に立って、ケーンは、ヤンデレタイプ攻略法を考える。
 サーシャは何度かいただいたが、従順そのものだった。その点、多少物足りないものをケーンは感じていた。

魔王の娘感が、全然感じられないというか。

だが、今のサーシャは別人と考えるべきだ。おそらく、プライド三倍マシマシ?

今の自分の能力なら、屈服させることも十分可能だ。おそらくサーシャも、その路線を予想しているに違いない。なぜなら魔族は力がすべてだから。

だが、力で女の子をねじ伏せるのは、超不本意。

ならば……。

「王女様、ケーンは王女様の下僕にございます。
なんなりとお申し付けくださいませ」
 ケーンは片膝をつき、深くこうべを垂れた。

「な、なにを考えてるの?
あなた、今は父親より強いんでしょ?
おそらくこの世界で一番」
 サーシャは、面食らってたじろいだ。ケーンは閨(ねや)でひたすら優しかった。それは自分が従順にふるまったからだと考えていた。

 魂が完全体となった今は、魔王の娘として扱われることを予想していた。
 つまり、「やだ、乱暴なんだから」という、セリフを用意して、この場に臨んだ。
 そして、男としての力を内心待ち望んでいた。

「王女様は、勘違いなさっているのでは?
男の強さは、力だけではありません。
現に、少し前まで、わたくしめは、キキョウよりはるかに弱かった。
それでもキキョウは、わたくしと共に生きることを選んだ。
それは、わたくしの弱さを知っているから。
弱い部分を補って助けたい。
そう願ったから。
わたくしは、そう想像しております。
王女様の魂の半分は、父の魂と同居しておられました。
自分をなくすことをひたすら恐れる、弱虫魂と」

 ケーンの言葉に、サーシャはうなずく。たしかにケンイチの魂は、臆病だった。だからこそ、「人間」というものをサーシャに見せつけてくれた。
 史上最強の勇者と呼ばれる存在でも、ひどくもろい部分。

「わたくしはこう考えます。
家族の弱い部分を、補って助けられる者こそ真の強者。
わたくしは、あなたの家族になりたい」

 ケーンはサーシャの靴を脱がせた。そしてサーシャの足の甲にキスをする。

「王女様の弱さとは、おそらくプライド。
異国の作家が、こんな言葉を残しております。
『臆病な自尊心』(※中島敦 『山月記』より)。
わくしめを、いかようにでも扱ってください。
あなたの弱さを、わたくしめは受け入れます」

 あっけに取られていたサーシャは思った。

 完敗だ。

「サーシャこそ、旦那様のしもべです。
好きにして!」
 サーシャはケーンに抱き付いた。サーシャが「臆病な自尊心」という虎の皮を、完全に脱ぎ捨てた瞬間だった。


 時間的には翌朝。夜の王宮だから、残念ながら朝チュンはない。テントでも朝チュンは聞こえないが。
 気候の良い時期に、屋外ノーマルテントで泊るかな……。

 一度朝チュンとやらを体験してみたい。

 フフ、ういやつよ……。サーシャはケーンを抱き枕にし、幼女のように体全体でしがみついている。

 本当は幼女なんだけど……。だけど、さすが母ちゃん、いい仕事してる。お体はエロボディーそのもの。反応も大いによきかな。前よりはるかに。
 攻撃的な姿勢、さすがは魔王の娘。あんなことやらこんなことやら……。経験が浅い女性だとは思えなかった。
ヤンデレは、いざというとき、とことんデレることを知らしめてくれた。

ケーンは、サーシャを腕枕しながら考えた。

 後一年少々。地上でやり残したことはないのか? 朝チュン体験実現では、寂しすぎるでしょ?

 嫁探しは、もういいだろう。想定できるかぎりのタイプを、攻略できている。
攻略しきれていないのは、エルフのエミリーだけだが、宇宙旅行のつれづれに、じっくり近づけばいい。

 マリアとアリスは、彼女たちの休日に鍛える。後はジャスミンにお任せ。

 ケーンは、彼がこれまで読んできた参考書(チーレム小説)を思い出す。

 内政チートはパス! 

後は……。

 そうだ! 忘れてた。あの王道路線があるじゃない!

 ケーンの方針は固まった。


 夜だけど朝の食卓。ケーンとサーシャ、それに妊娠が発覚した五人の嫁が一堂に会した。

「ケーン、まずはお礼、言うとくわ。
黙ってはらませてくれてありがとう。
たしかに子作り云々とは言うたけど。
さっそく四人全員仕込まれてるとは思わんかった」
 ユリがわざと険しい顔を作って言う。

「どういたしまして!
初産だから、母ちゃんとミレーユがいる、夜の王宮で過ごした方が安全だろ?
俺は万全の状態に還っているし、ハードな戦闘をするつもりもない」

「みんなわかっていますよ。
ありがとうございます。ケーン様。
新しい命を、私たちに授けてくださり」
 正妻のキキョウが、威儀を正して礼をする。

「ありがとうございました!」
 他の嫁も倣う。

「で、バトルせんのやったら、出発まで何するつもりや?
またオタク趣味?
嫁を増やすんだけは、今度こそもう勘弁やで」
 ユリが聞く。

「安全な競技会!
その名も、天下一料理コンテスト!
メシテロ案件が残ってた!」

 ふ~~~。

大きなため息をつく嫁たちだった。

まあ、安全なことは間違いない。ケーンだから仕方ないと、達観の境地にある嫁たちだった。
 

 翌日、光の神殿ライラック分院の最高責任者に、光の女神から神託が下った。

その神託にいわく、

『現在人族と魔族の関係は安定しております。
この機会に、食文化を振興させる競技会を開催しなさい。
光の女神杯、ライラック料理コンテストと銘打ち、有志を大々的に募りなさい』

 ヒカリちゃんは、ケーンの言いなりだった。ただし、大人の見識を持つヒカリちゃんは、「天下一」を「ライラック」に限定縮小させた。

 いくら夫の願いでも、こんなバカバカしいイベントに、転移魔法をフル活用できない。
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