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144 竜族オノコの純情

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別邸客間。

不良はぐれドラゴン、サーブは落ち込んでいた。その理由は言うまでもないだろう。

「玄関入って五秒で発射」

 齢(よわい)二百数十歳の彼は、なんとDTだった。

彼が竜王国から飛び出したのは、百二十三歳の時。不良仲間のフィリップと共に、人族領各地で大暴れした。

少しやりすぎたようだ。時の勇者ケンイチのパーティが、討伐に乗り出した。そんな噂を耳にして、フィリップと示し合わせ、魔族領に逃げ込んだ。

魔族領内では、人族領のように暴れることはできない。魔族は人族よりはるかに強い。
いくらドラゴンとはいえ、正規の軍なら中隊レベルの数でも、下手をしたら狩られてしまう。

そこでダテ角を偽装し魔族を装い、町や村を転々として生きてきた。本来の姿では目立ちすぎるから。

そして一週間前、この北の城塞の町で、サキュバスのレイサと出会った。

サキュバスの戦闘力は、魔族の中でも最底辺だ。しかしながら、サキュバス族は「魔眼」の特殊能力を持っている。魅了と鑑定の力は、他のどの種族より優れている。
サーブの真の姿がドラゴンであることなど、一目で見抜かれてしまった。

女慣れしていないサーブは、サキュバスのレイサが怖かった。彼は極端な女性恐怖症だったから。

女性恐怖症、というより、エッチ恐怖症、という言い方が妥当か。
その分野で、能力的に全然自信が持てない。真竜としてプライドだけは高い彼にとって、女性にバカにされるのは我慢できない。
そのため、本格的な叡智に及ぶまで、一週間の時間を要した。「なろう系」のヘタレ主人公並みだ。

本格的じゃなくても、サキュバスの体を張ったサービスはずいぶん濃い。

女日照りのサーブは、濃厚サービスに屈してしまった。
その結果が、「玄関入って五秒で発射」というわけ。

我ながら情けない……。


「サーブ様、お酒など召し上がりませんか?」
 レイサが客間に入ってきた。相変わらずのシースルーネグリジェ。

だが、生殖能力が退化したドラゴンジュニアは、十分反応できない。
やる気はあるんだけどね……。ジュニアがついてこない。多分明日にならなければ、戦闘不能だろう。

ドラゴンのオスは、悲しいほど恵まれなかった。


「一つ頼みがある。
ダチのドラゴン、呼んでいいか?」

「お友達の!
どうぞ呼んでください!」
 願ってもない展開。ドラゴン二頭、超強力な武器となる。

エッチの方も、少しは楽しめるだろう。二人がかりなら。

 レイサは内心舌なめずりした。


 魔王領、とある居酒屋。二人のドラゴンが、酒を酌み交わしていた。

「で、サキュバスって、そんなにいいのか?」
 フィリップが、鼻の下を長くして聞く。

「いいに決まってるだろ。
プロ中のプロだよ」
 サーブの言葉は、イマイチ歯切れが悪い。正直言えば、プロの技がどの程度のものかも知らない。
 比較の対象がなかったから、しょうがねぇだろ!

「で、待遇は?」
 フィリップは乗り気になった。人族領でずいぶん女遊びを重ねたフリップだが、魔族領ではままならなかった。

 第一に資金の問題。魔族領に冒険者ギルドは存在しない。体力だけはあるから、肉体労働で日銭を稼いでいたが、月一程度、娼館で遊ぶのが精いっぱい。

第二に、魔族の女は強い。もちろん一対一で負けることなど考えられないが、後ろに怖いお兄さんが、付いていたりしたらヤバい。
あまり目立つことはできないし、女をさらって、イケナイことを、などということはできなかった。

「スポンサーは魔王の息子だ。
悪いわけないだろ」
 それは自信を持って答えられた。カツカツの生活を続けていたころに比べたら、雲泥の差だ。

「いいね! そのサキュバスの記憶、念で流せ」
「えっ、うん……」
サーブは戸惑う。「五秒で発射」の記憶、デリート、できないよな?

「もったいつけてんじゃねぇよ!
まあ、お前、女は苦手だったから……。
ひょっとして、初めてだった?」

「頼むから触れないでくれ」
 テーブルに突っ伏すサーブだった。

「そうか……。まあ、誰でも『最初』はあるもんだ。
少々早くても仕方ないさ。
俺も二分もてばいい方だ。
ドラゴンの男って、つらいよな?」

「二分?
五秒の気持ち、わかるか?」

「五秒?
いや……、なんだ……。
最初は仕方ねえ……。
すまん!
もう触れない」
 サーブの滝の涙に、心揺さぶられるフィリップだった。

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