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129 アリスパーティのお仕事

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 ジャスミンは、ケーンと共に冒険者ギルドへ向かう。装備の詳細を説明され、彼女は卒倒しそうになった。
 どれもこれも国宝級、あるいはそれ以上。……多分としか言えないが。

噂に聞いたことがあるのは、ドラゴンバスターぐらいだ。超一流冒険者でも垂涎(すいぜん)の的。

アルティマソードって何? そんなの、聞いたこともない! 直剣では、この世界最高の武器らしい。

ファンタジー級って説明されても……、なんだそれ?

なんでも、刃筋が正しければ、衝撃波だけで、オーガでも真っ二つにできるとか……。

そんなの、おっかなくて使えないよ~~~!

それに、なに? 魔法のバッグ? ケーンの最高傑作らしい。

容量無制限、時間停止、オートソート機能。念じるだけで利用可能?
ふざけんな、と言いたい。

もっとも、キキョウさんとユリさんは、夜の王宮倉庫と互換性がある不可視のアイテム庫を、与えられているらしいけど。
かの有名なミレーユ様の、最高傑作らしい。

とにかく、ジャスミンは落ち着かなかった。彼女はBランクの冒険者だが、クエストはCランク相当を選んでいた。仲間の安全を考えて。

したがって、経済的にゆとりがあるとは、決して言えなかった。高額所得者には、Bランク以上のクエストを、マメにこなしたらなれる。
仲間を守りながらだから、せいぜい平均的サラリーマン程度の収入だった。

「先に市場で食料品買い込もう。
そのバッグに入れておいたら、新鮮そのものだから。
一月分ぐらい大人買いしよう」
 ケーンは、隣を歩くジャスミンに言った。

「はい。喜んで」
 完全にあきらめたジャスミンだった。ケーンに合わせるしかないよね?
 とんでもない男の、嫁になっちゃった……。


 ケーンとジャスミンは、ギルドに到着。
 朝、メアリーに念話を飛ばしていたので、彼女とアリスのパーティがギルドで待っていた。
 ジャスミンとアリスを引き合わせ、メンバーとの顔合わせをさせる。
その間、メアリーに、ドラゴンに関する情報収集を依頼。

メアリーは快諾。不良ドラゴン等の討伐は、本来勇者パーティの仕事だ。元勇者パーティだったメアリーは、自分たちの怠慢を恐縮していた。

 さてと……。ケーンは教会に向かうメアリーを送り、お食事処のコーナーへ。

「アリス、午前中は君たちの仕事、見学させてもらうから。
査定、厳しいぞ」
 ケーンは、アリスの肩をポンポンとたたいた。

「はい! まだまだ頼りないと思いますが、頑張ります!」
 アリスは元気よく答えた。他のメンバーも力強くうなずく。

 若いって、いいよね!


アリスをリーダーとするパーティは、彼女の他、槍使いのミントとダン、それに弓使いのナーラで構成されている。

中衛と後衛に偏った、ややいびつなメンバー構成だ。もちろん、高ランクのクエスト以外なら、大きな問題はない。

だが、ヘイトを稼いで、弓使いに余裕を与える、前衛がいた方が望ましい。
戦士のジャスミンが加わることは、その意味でも大きな意義がある。


 一行は黄の森に到着。

「ジャスミンさん、隊列はどうしますか?」
 アリスがそう聞いた。

「あんたがリーダーだろ?
指示に従う」
 ジャスミンはそう答えた。

「でも……」
 アリスは若干とまどう。

「しっかりしろ! ケーンの嫁になれないぞ!」
 ジャスミンは、半笑いで檄を飛ばす。ケーンの女に関する趣味は、実に幅広い。私のようなオバサンや、平凡そのもののイモ娘まで……。

 もっとも、筋は通っている。他の嫁を阻害するような、性悪の女は一人もいない。
 
「はい!
ジャスミンさんが慣れるまで、いつものようにいくよ。
ダンが先頭、次いでミント。
ナーラは私の後で。
ジャスミンさんは、しんがりをお願いします。
慣れてきたら、前衛をお願いすることになると思います」
 アリスは、現状ベストだと思われる指示を与えた。

ジャスミンは、メンバーの特色を知らないし、メンバーも同じ。
 
 見守るケーンは、内心合格点を与えた。

「了解!」
 メンバー全員、力強く答えた。


 黄の森へ突入。アリスのパーティは、きわめて用心深く進んでいる。
ベテランのジャスミンが、先頭に立つようになったら、もっと効率的に狩りができるだろうが、仕方がないことだとケーンは思う。

長く冒険者をしていたら、自然と魔物の気配に敏感となる。それは教えようとしても、教えられない能力だ。
 冒険者には、戦闘力以外にも経験が、大きくものをいう。

 おっと、少しでかめの気配を、ケーンは感知。ジャスミンもまだ気づいていないようだ。

 ケーンは、教えたいという衝動をぐっと我慢。

メンバーは木々で覆われたけもの道をたどり続けた。

「あっ……」
 ジャスミンが気づいたようだ。さすがベテラン。

「ジャスミン、どうかした?」
 ケーンはとぼけて聞く。振り向いたジャスミンに、パチンとウインク。
 その心は、もちろん何事も経験、ということ。いよいよ危ないとなったら、今日は自分がいる。

ケーン、きびし~……。ジャスミンは、苦笑を浮かべて、かすかにうなずいた。

フー、フー、フー……。あの息遣いはイノシシのたぐいだ。足音から推定して、多分大牙イノシシ。

そろそろ気づけよ!

ケーンは少しいらつく。大牙イノシシが突進してきたら、やばいでしょうが!
 ジャスミンが、心配顔でケーンに顔を向ける。

辛抱堪らん! ケーンは、こくんとうなずいた。

「もうすぐ接敵する。各自武器を準備」
 ジャスミンが指示を飛ばした。

 メンバーに緊張が走る。槍士二人は、腰を落として身構え、弓士二人は矢をつがえる。

 ザッ、ザッ、イノシシは下草を踏み分け、ドドドドド!

 人間の匂いを感じたか、突進してくる気配。

見えた! 体長三メートルはありそう。

大丈夫? ケーンは、嫁たちの気分が痛いほどわかった。

ダンとミントが、突進をさっとよけ、槍を突き刺す。腰が十分入っていない!

イノシシは構わず猪突猛進。

すかさずアリスとナーラが矢を放ち、突進をかわす。

イノシシは、がくんと膝を屈する。

「ふんっ!」
 ジャスミンが、ドラゴンバスターを一閃。イノシシの首がふっとんだ。

「お見事です!」
 メンバーが、称賛の目でジャスミンを讃える。

「見事なのは、この剣だよ。
すげ~~~!」
 ジャスミンは、ドラゴンバスターを、うっとりと見つめる。

カ・イ・カ・ン……。

「ダンとミント、解体の間見張って。
ナーラ、大物だよ!」
 興奮気味に目を輝かせたアリスは、そう命じて解体にとりかかった。

 うん……。まだまだだね。戦闘も解体も。ジャスミンを加えてよかった!

 暖かい目で見守るケーンだった。


 なんとか解体を終え、アリスは肉の高く売れる部位と、牙をポチバッグにしまう。

うん。あのバッグ、大いに役立っているようだ。

普通大物を狩ったとき、換金部位をどう持ち帰るかが、大きな問題となる。
ポチバッグの容量は少ないが、彼女たちの獲物を収納するには十分だろう。今のところは。

だけど、甘やかしすぎてはならない。

『ジャスミン、そのバッグ、当分は秘密で』
 ケーンはジャスミンに、そう耳打ちした。

『あの子に優しいんだか、厳しいんだか、わかんないよ。
あの子が使ってるバッグも、魔法のバッグだね?』
 ジャスミンが小声で返した。

『あれは俺が修行のとき作った三級品だ。
そんなに入らない』
 ケーンの返事に、苦笑して肩をすくめるジャスミンだった。

 三級品? ケーン、魔法のバッグのお値段知ってる? 

あれだけ収納できるなら、金貨五十枚はするよ?

 ケーンの金銭感覚に、物申したいジャスミンだった。
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