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128 ジャスミンへの特効薬

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「ケーン、ここはどこ?」
 ジャスミンは見知らぬ街へ転移し、呆然とした。ピッコロよりはるかににぎやかな街だ。
「ライラック。アリス達、まだクエストの最中かな。
何か食べよう」
 ケーンはつないだままのジャスミンの手を引っ張った。
「あのね、ケーン……。
はぁ~~~」
 ジャスミンはそれ以上言葉がつなげず、大きなため息をついた。だが、伝わる。ケーンの優しさだけは。
 おかげで、ジャスミンの胸をふさいでいた重苦しさは、幾分晴れていた。

「そういえば、この街のレストラン、行ったことがないな。
どの店がお勧め?」
「ケーン、あんたね……」
 クククク……。ジャスミンは、笑ってしまった。

「この街、初めてじゃないんでしょ?」
 ジャスミンが聞く。
「かなり長く住んでるね。
とにかく何か腹に入れた方がいい。
ずいぶんやつれてるぞ」
 ケーンは、店名だけは知っているお高そうな店を目指した。ジャスミンはつくづく思う。
愛すべき変な男。

 昼食後、ギルドでアリスのパーティに伝言を残す。そしてジャスミンはもちろんお持ちかえり!
 エッチは心の傷をいやす特効薬! それがケーンの持論だった。


 翌朝。キキョウ宅。嫁たちもすでにベースキャンプを引き上げていた。

 キキョウの家は、それほど広くない。だが、例のチートテントは七つ張れる。少々嫁の数が増えても問題なし!

 ということで……。

 ケーンの隣では、裸のジャスミンが、やすらかな寝息をたてていた。
 あの事件以来、よく眠れなかったのだと想像される。

ケーンの独断専行は、少なくとも、ジャスミンの精神にプラスした。

 ケーンは、そっとベッドを抜け出し、ジャスミンの装備を用意する。

 ヘルスパイダーの経糸(たていと)に、ミスリル銀糸を織り込んだ下着上下。

急所に竜鱗を埋めたヘビモスの皮鎧。

嫁定番の天使の羽ブーツ。

イージスのチョーカーと指輪で、防御を超補強。

ジャスミンは前衛戦士タイプ。魔力補填は、大魔導師の指輪で、おつりがくるだろう。

 武器は……、ちょっと落ちるけど、普段使いはドラゴンバスターでいいか……。

いざというときのため、予備にアルティマソードを……。

高ランクの不死系モンスターに、遭遇したらやばいかな……。

ホーリーソードも……。

おっと、忘れちゃいけない。ミレーユ特製のポーション百セットも。

 食料は後で買い出ししよう。

 ケーンは、すぐ着せる予定の装備を除き、高性能魔法のバッグに色々詰め込む。

 うん、完璧だ!

 ケーンは、嫁の装備に気を使う。特にジャスミンとアリスは、自分の目の届かないところで活動予定だ。
 アリスに、もりもりの装備を渡したら、彼女のためにならないだろうが、ベテランのジャスミンなら問題なし!
 ジャスミンさえ無事なら、アリスが致命傷を負っても、ポーションで解決できる。

 ケーンは大いに満足し、テントから出た。


「おはようさん。ケーン、今日の予定は?」
 ユリがにやにや顔で聞いてくる。他の嫁は、笑いをかみ殺している。
あぶないかな、と思っていたが、案の定ケーンは、新規の嫁を、また連れこんでしまった。

「そうね……。アリスの成長を見たい。
午前中は各自自由行動。
午後は残りのドラゴンの情報収集」

「了解!
そやけど、ドラゴンの情報、ギルドでは、もうないんちゃう?」

「世界一の、情報機関があるだろ?
ヒカリちゃんに神託頼んだら、一発じゃない?」
 ケーンは、ゆうべ思いついた対策を語る。

「なるほど……。その線でいこか」
 ユリは快諾。

 ちなみに、ケーンの言う、世界一の情報機関とは、テレサが以前所属していた、シャドーと呼ばれる組織だ。
神聖テリーヌ帝国に本拠地があるが、ライラックの教会へ行けば、つなぎはつくはずだ。


「ケーン! 私の装備は?」
 ケーンが朝食の納豆を、ねりねりしていたところ、ジャスミンが飛び出してきた。ゆうべ使ったバスローブ姿だ。

 焦っていたのか、胸元がはだけ、雄渾なおっぱいが半分はみ出している。

「ずいぶん傷んでるから、暇なとき補修しておく。
代わりの装備、準備しておいたけど、お気に召さなかった?」
 ケーンは、とぼけて答える。

「あんな高そうな装備、もらえないよ!
いくらするの?」
 ジャスミンは、あきれ顔で言った。

「いくらって、多分値段のつけようがないやつやと思うで。
そんなもんやとあきらめ」
 ユリが苦笑を浮かべて言う。新規嫁定番のやりとりだ。

戦闘バランスを崩す武器は別として、嫁の身を守る装備に、ケーンは妥協しない。そのことを、ユリはよく知っていた。

 自分は、ぎりぎりのラインを選んでいたくせに。

ケーンは、ドラゴンとのバトル時、ずいぶんつまらなそうな顔をしていた。だが、いつもハラハラさせられる嫁としては、改心してくれてほっと一安心。

「値段のつけようがないって……」
 ジャスミンは、困惑の表情を浮かべる。自分にそれほどの価値があるとは思えない。
 嫁の中には、庶民派もいたが、なんといっても、自分はオバサンの域だ。ケーンの方が、ずっと年上らしいけど……。

「死なないことは、ケーン様の嫁の義務です。
それだけは、きちんと守ってください」
 正妻として、キキョウがぴしり。

「はあ……」
 納得しきれないが、ジャスミンは、うなずくしかなかった。
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