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115 何か裏がある?

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 ケーンと女王の会話が途切れた時。

「ケーン殿! できればそれがしとお手合わせを!」
 女王の脇に控えていた騎士が言う。

なんか不機嫌そう。

「俺は現在、せいぜいSランクの実力。
全然かなわないと思いますが、よろしいですよ」 
 ケーンはニヤリとして応えた。

その騎士は見るからに強そう。人化しているとはいえ、トリプルSクラス相当だろう。

 久しぶりに超強敵と戦える! お花畑一直線だろうけど、ヒカリちゃんがついてるもんね!

 ケーンの、バトルジャンキーの血は、いかんともしがたし。

「お待ちください! ケーン様、私がまず手合わせいたします。
私はケーン様の盾ですから」
 キキョウが割って入った。

正直言えば、今のケーンなら惨敗必至。ケーンが傷つけられる様なんて、絶対見たくない!

「そんな~……。ちょっとだけ。だめ?」
 ケーンは、すがる目でキキョウを見つめる。

「だ、だめです……」
 キキョウは頑張って答えた。ケーンのあの目には、超弱いから。

「キキョウさん、私が殺(や)る。
ローレン、いい度胸してるじゃん!
私の旦那様が、そんなに気に食わない?」
 メイサの目がギラリ。

「とんでもありません!
失礼しました~~~!」
 ガクブルのローレンだった。

ローレンは、竜族一の強者だ。オスの中では……。

 そうです。竜族のパワーバランスは、圧倒的にメスが有利なのです。

戦闘能力もそうだが、ろくに生殖能力がないオスは、はなはだ存在感が薄い。

 不良ドラゴン三体は、すべてオスだという理由もお察しください。


 有能なメスは、種の繁栄のため、人族に配偶者を求める。メスとオスの竜口比は3対2だが、必然的にオスはあぶれるわけで……。


「ローレン、今の婿殿は、能力を抑えているようです。
夜の女王様は、やはり恐ろしい方ですね。
婿殿は、おそらく御父上に匹敵する強者であったはず……。
でも、伸びしろは限界近くまで達していた。
あえて力を落とし、修行を積ませる……。
婿殿の以前の力が解放されたら、間違いなく私でも勝てない」

「え~~~! かあちゃん、そんなこと考えてたの!」
 女王の分析にケーンはびっくり。

夜の女王が聞いたら、やはりびっくりするだろうが。

彼女的には、ケーンを退屈させないため、能力制限をかけたのだけの話。
限界突破に関しては、できたらいいな、程度の問題だった。ケーンは、夜空城を発った時点で、エルファード艦隊を迎え撃つという、真の目的を果たすには、十分に強かったから。


王女婿殿歓迎の祝宴。

ケーンはワイングラスを傾けながら、大広間を見渡す。

男、少ね~~~……。メイサから、ある程度状況は聞いてたけど。竜王国は女社会。

まさに……。

男は隅の方で固まっている。なんだかかわいそう……。男に対して無関心のケーンも、気の毒でいたたまれない。
体格も女性の方が、がっしりしている。なにより、両性を並べたら、明らかに強者オーラの輝きが違う。
修行中だった自分が、バイオレットとガーネットに挟まれていた時、きっとあんな感じだっただろう。

近衛騎士に抜擢されているローレンは、まだ優遇されているようだ。
比較的女王の席に近い。


「ケーン、どうかした?」
 隣席のメイサが心配そうに聞いた。

「いやね……。竜族の男、あっちの方はどうしてるの?」
 ケーンは小声で聞く。強いメスは、人族を配偶者に求めるという。メス、女性は、みんな超強そうに見える。
ということは、女性に相手にされない男性がほとんど、という気の毒な状況が、容易に想像できる。

「人族や獣人族が、出稼ぎで来てるの。
お色気のお店に。
もちろん、竜族の女と結ばれてる男も、少しはいるけど。
よほど幸運に恵まれない限り、子はいない。
竜族は長命種だから、大きな問題はなかったんだけど、国としての体裁は保てなかった。
王国がささやかなりにも成り立っているのは、人族のおかげなの」

「ローレンとは、どんな関係だった?」

「やだ! 旦那様、やきもち?」
 メイサの表情は、ふにゃ~と崩れる。

「じゃなくて……。いや、少しはあるかもだけど」

「ローレンは、王国武闘選手権者よ。男性部門のね。
やっぱり男も、少しは引き立てないと。
全然弱っちぃけど。
近衛騎士の裾の裾だけど、女ばかりだと体裁が悪いでしょ?
お母様の隣に置いてもらえて、あいつ舞い上がってたのね。
ホントごめん」
ケーンはなるほど、と納得。竜王国選手権者だから、あの位置なのか。
だだのお飾り、という裏事情が、なんだか涙をそそる。

「それはいいんだけどさ……。
ちょっと失礼」

 ケーンはワインの瓶を持って、隅の方へ。

なんか身につまされる。ケーンも圧倒的女系社会で、育ってきた。

なにせ、男は父親とケーンだけだったのだ。そして、父親は妻と側室以外、決して手は出さない。

夜の女王の眷属は、ただ一人の子供であるケーンが超かわいい。

ほとんど死滅していた母性がむくむくと。ケーンを寄ってたかってかわいがる。

ケーンがとしごろになって、母性は「女」としての意識に変質。女王も、レクリエーションとしての性に極めて寛大だった。

そんな環境で、やりまくりだったという一点、ケーンと竜族の男は、徹底的に違うが。


「ローレン、頼みがあるんだけど。
俺を二次会に連れてってくれ」
 俊也はローレンのグラスに、ワインを注ぎながらそう言った。

「二次会に? どうして?」
 ローレンは、けげんな顔をして聞く。

「たまには男だけで、はしゃぎたいじゃん」

「別にいいけど、いつも男だけではしゃぐ気持ち、わかるか?」
 ローレンは、顰蹙の目でケーンを見る。

 嫁が九人だとよ……。それも超粒よりがほとんど。極めつけは光の女神が憑依した聖神女。
 まぶしくてよく見えないけど、きっととんでもない美女だ。

「わかんないから連れてけ!」

「お前、絶対嫌いだ!」
 ローレンは、半分涙目で応えた。近衛騎士の立場がなかったら、きっと大泣きしただろう。

 悔しいです!


 ケーンは、嫁たちの席に帰った。

「いや~、ローレンがお詫びに、町を案内してくれるって。
やっぱ婿として、付き合わなきゃ、だろ?」
 ケーンは、しれ~っと嫁たちに言う。

「ケーン、何企んどるんや?」
 ユリが疑いの目で見る。どう見ても「お詫び」の雰囲気ではなかった。

「ユリ、いつも言ってるじゃん。
たまには男とも付き合えって。
ダメ?」
 ケーンは、きらきらお目々で言う。


『なあ、キキョウさん、どう思う?』
 ユリは念話で正妻にお伺いを立てる。
『何か裏があると思いますけど、大した裏でないと思いますが』

『まあ、せやろな……。
許可するしか、ないかな?』
『ですね……。男性の友達が、一人もいないのも事実ですし』

「ケーン、許可は出したる。
ただし、ハメ外し過ぎたらあかんで」
「もちろん! じゃ、ローレン、行こうか!」
 ケーンは目を、いっそうキラキラさせた。

『ケーン、絶対なんか企んどる。
嫌な予感しか、せんのやけど』
 ユリが念話でキキョウに語りかける。
『ですね……。だけど、竜王様に結婚を報告したばかり。
大したことはできないと思います』

『それもそうやな。せいぜい嫁を連れてくるぐらい?』
『竜族の女性なら、歓迎すべきでは?』 

『たしかに……』

 ユリとキキョウは、スキップでこの場を去る、ケーンの後姿を見送った。
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