上 下
85 / 170

85 鬼になってもいいよ

しおりを挟む
 翌日の早朝、ケーンはブラックの背にまたがった。

ゆうべ全部の嫁にこう宣言した。しばらく一人旅に出る。

「ケーンさん! 
兄者が死んだのは、全部ケーンさんが悪いんですよね!」
 必死の形相のメイが、ケーンの行く手をさえぎった。

「そうだよ。全部俺の責任だ」

「卑怯です! 
ケーンさんが悪いなら、最後まで責任を取って下さい! 
一人ぼっちになった私を、置いて行くんですか!」

「だけどさ……」

「だけど?」

「俺を許せる?」
「何をとがめたらいいんですか? 
ケーンさんは、兄者と私の関係に危険を感じたんでしょ? 
それで兄者の性欲を解消しようとした。
兄者がおぼれたのは、バンパイア族の魅了魔法にかかったからだと、キキョウさんから聞きました。
それもケーンさんの責任ではありません。
ケーンさんは…あの方々のご子息。
バンパイアの女が、兄者を殺して、泡を食って逃げだした理由も、キキョウさんから聞きました。
……お願いですから、私を見捨てないでください!」
 メイはひざまずいて泣き崩れた。

「ケーン! 男として責任果たさんとどうすんねん!」
 ユリがケーンを叱責。

ケーンはブラックから降りた。

「本当に、いいの?」
 メイはこくんとうなずき、ケーンの胸に飛び込んだ。

ケーンに、また新しい嫁が加わった。


 ケーンとメイは、例のテントへ。もちろんメイは初めて。おなじみのリアクション後、ケーンはメイをそっとハグ。

 ケーンには、抱きしめることしかできなかった。

 ケーンは、身近な者の死が実感できない。両親をはじめ、父ちゃんの愛人たち、そして母ちゃんの眷属。みんな母親の能力で、不老不死の存在となっている。
 オートマタたちも、不具合が少しでもあったら、修繕がすぐに可能だ。
 だからこそ、彼は嫁たちを完璧な装備で固める。

つまり、彼にとって、身近な者の死は最大の恐怖なのだ。しょっちゅう自分が、お花畑で「死」を実感していたから余計に。

 今、自分の腕の中で小刻みに震えるメイ。おそらく、彼女の胸の中は兄を失った恐怖でいっぱいだ。

 幼いころから自分を守ってくれた兄。

男爵の毒牙を逃れるため、いっしょに家を飛び出してくれた兄。

無理やり勇者ムサシに、弟子入りしようとしてくれた兄。

 そして、ケーンにすがり、結果、才能のなさを突き付けられ、冒険者をあきらめた兄。

 ある意味、エリックは、メイに人生の多くをささげたのだ。
 どれほど、抱擁は続いただろうか?

 震えがとまったと思ったら、不意にメイが体を離した。

「ケーンさん、どんなコスプレにしましょうか?」
 メイがにっこり笑って聞いた。はれぼったい彼女の目は、すでに乾いていた。

「どれでもいいよ」

「おやおや?
ノリが悪いですね。
ケーンさんらしくありませんよ。
竹筒、くわえちゃおうかな?」
 メイはコスプレ満載のクローゼットへ。

「竹筒くわえてる子、変身したら、セクシーで強くなれるんでしょ?
兄の大ピンチの時。
私、強く生きます!」

「俺、どっちかと言えば鬼よりだから。
滅ぼさないで」
 ケーンは、やけに古めかしくてやぼったい和風衣装を、メイのために整えた。

 ちなみに、竹筒は省略させた。はなはだチューに邪魔だし、メイは鬼になってもいいと思ったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...