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76 撤退

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 ケーンたちが参戦し、一週間が経過。その間、魔王軍は七度国境を越えた。いずれも惨敗。
 それというのも、最前線で戦う兵士が、ことごとく倒されてしまうのだ。
 名も知らぬ神聖魔法の使い手の光魔法。勇者ではない女の、獅子奮迅の活躍。
 その女が、先陣を切って駆け巡り、前進を止める。馬の足並みの早さ、女の剣技や魔法。バタバタと精鋭が斬り殺されていった。
彼女に続く勇者パーティーも、もちろんあなどれない。なんだか見覚えあるような戦士も強い。
古参兵は、憎むべき前勇者を、思い起こしたのはなぜだろう?

 そして、極めつけは神官風の女魔導師。光の槍が、信じられない精度、威力、本数で前線と後づめを寸断する。

 命知らずの魔王軍も、戦況が圧倒的に不利であること、認めざるをえなかった。
 この作戦のキモである「持久戦に持ち込む」ことは、不可能である。

「兵を退け!」
 先陣の総責任者、闇の将軍はそう命じた。今回の作戦は、失敗だと感じながら。

「いまだ! 攻め込め!」
 いつものように、ライアンが撤兵する軍に突撃。
「いつもの頼む」
 いつものように、ムサシが戦友に依頼。
 は~~と、ため息をつきながら、リンダとメアリーは、いつもの処理を行った。

「ライアン、今までよく生きてたな?」
 苦笑を浮かべたケーンがムサシに。

「あいつは俺より多くの敵をはふる。
まあ、あいつを生き延びさせる苦労で、トントンか?
ハハハ……」
 笑ってごまかすしかないムサシだった。

 それにしても、テレサとかいう女、何者?
 急に強くなったり、それほどでもなかったり……。

 なんだか光り始めたら無敵?

 テレサといいキキョウといい、……なんでなんだよ!


 魔王城。女魔王の片腕である闇の将軍が、魔王の前に片膝をついた。

「陛下、人族に思わぬ手練(てだれ)がついております。
かつてのケンイチのパーティに匹敵するか、あるいはそれ以上。
特に女ニンジャと、神聖魔法を持つ女が厄介かと」

「そうですか。何者でしょう?」
 魔王は眉をひそめて問う。

「わかりません。
例のバンパイアに探らせましょうか?」

「今クオークには、多くの神官が詰めています。
あの女の顔を知っている者も、いるかもしれません。
すでに通知は届いているでしょうし。
先の聖神女の暗殺に成功し、好機と思ったのですが。
飛竜部隊をさらに充実させましょう。
撤退しなさい」

「御意」
 闇の将軍は、ほっとして魔王の間から退出した。さすが魔王様。引くときは引ける冷静な判断力を持っている。
 魔王様が王位を譲られたら……。ぞっとするな。


「お母様、私がクオークに潜入しましょうか? 
私には角が生えてえてないし」
 美幼女が女魔王に歩み寄る。

魔王族と眷族には、小さな二本の角が生えている。人族と外見的な大きな違いはそれだけだ。

だが、ごく稀に、人族と見分けがつかない子どもが生まれるときもある。

魔王の子供に男子は大勢いる。だが、魔王が初めて設けたその女の子には、角が生えていなかった。

「あなたは、まだ幼すぎます。
もうちょっと城で大人しくしてなさい」
 魔王は、表情を崩して、その女の子を招き寄せた。女の子は魔王の膝に乗る。

「この言葉は兄たちに絶対内緒にしなさい。
あなたは私が産んだ最高傑作です」
 魔王は女の子を抱きしめた。

 魔族の世界は力がすべて。この女魔王は、多くの男性魔族を力で退け、魔王の座を勝ち取った。
 そして、多くの強い魔族の男と交わり、強い子をもうけてきた。

 結果、第一王子と第二王子という、傑出した男児も生まれた。

 だが、「傑出した」という評価は、「比較的」という修飾語がつく。女魔王に言わせたら、帯に短し、たすきに長し。望んで魔王位を譲る気になれない。

 女魔王は、気まぐれで人族の捕虜を、処刑前につまみ食いしたことがある。

魔族にも勇敢な人族戦士に対し敬意はある。処刑執行前に、一つだけ望みをかなえてやるという慣習があった。
処刑前夜、彼が望んだことは「一発やりたい」だった。その若い人族戦士は、DTだったらしい。
 魔王自らが、その望みを、かなえてやったというわけ。 

 けっこうおいしかった。

 魔王は誰にも話していないが、娘の種はその人族戦士だと確信している。

 皮肉なことに、娘の才能の器は、女魔王をしのぐほどのものだった。

 女魔王は、その娘を溺愛している。だが、周囲に気づかれないよう、細心の注意を払って過ごしている。

娘が魔王にふさわしい力をつけ、後継者として、周囲に有無を言わせない日がくるまで。
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