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49 誰に聞いたんですか
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キキョウは、レミのついでにライラックへ転移してもらった。
ケーンのテントには、およそ三日置きに通っているが、自宅へ帰るのは二週間ぶりだ。
家の掃除やら、レミの伯母のご機嫌伺いのため、キキョウとレミはたまに来ている。
キキョウはレミから、伯母に薬類を届けるよう頼まれている。レミが夜の王宮で作った薬類を、保存用とお届け用を仕分けする。
現在ケーンのパーティは、ケーンのイズムに従って、レミが作った薬を使っている。
テレサの魔法が上達し、ほとんど消費されなくなったが。
レミは順調に薬師としての腕を上げ、錬金術にも手を伸ばし始めた。戦闘はいっこうに上達しない。
それにしても、とキキョウは思う。
ケーン様にしては信じられない。
今まで手を出さなかったこと。
私やレミさん、出会って即だったもんね。
ユリさんは、けっこうこじれてたけど、事情が事情だから。
この世界で、一夫多妻に抵抗を抱く女は、ほとんどいない。出生率は女性が高いし、魔物との戦いや魔族との戦争で、若い男の死亡率もひどく高い。
キキョウは、ケーンが新しい嫁を得たことに抵抗はないが、テレサは特別扱いされているようで、なにかひっかかる部分がある。
出会って即、じゃなかったからだ。
キキョウは、そう思いなおす。
テレサの仕事が、仕事だったこともあるだろう。
人間関係は不思議なものだ。タイミングがずれたら、すれ違ったまま縁が切れてしまうケースもままある。
あのとき、何も考えずケーン様のパーティに入った。
大正解だった。
嫁が四人…か。次もあるかな?
あるだろうね……。キキョウは深く考えることを放棄した。
その方が絶対幸せだ。
キキョウは、家の清掃を終え、レミの伯母の家へ出かけようとした。
「キキョウ。ずいぶん探したぞ」
白銀色の全身鎧に身を固めた、たくましい男が、出待ちしていたようだ。
後ろに男女二人の戦士と、魔導師です、という感じの女が控えていた。
「ムサシ殿、なんのご用でしょう?」
キキョウは幾分表情をこわばらせ、そっけなく聞いた。
「もちろん俺のパーティへの勧誘だ。
ニンジャスキルを持つお前の力が是非欲しい。
俺たちの実力も十分ついたと自負している。
それに、このところ魔王軍の動きがほとんど見られない。
弱体化していると見るべきだろう。
バックアップも充実している。
今が魔王に迫るチャンスだと判断した。
頼む。仲間に入ってくれ」
ムサシは深く頭を下げた。
「申し訳ありませんが、お断りします。
私は身も心も捧げられる夫を得ました」
「ケーンとかいう、わけのわからん男か?
別れていると聞いたが」
「どこで聞いたんですか?
別れてなどいません」
キキョウは憤慨して、ムサシをにらみつける。
「ここのギルドでもっぱらの噂だが。
ケーンはクオークで……」
「いつ得た情報ですか?
今はライラックに帰る途中です。
シャドーは、肝心の情報を伝えていないようですね。
ケーン様は夜の女王様と、ケンイチ様のご子息です。
夜空城では、距離などあって無きがごときもの。
私、三・四日に一度は、ケーン様のお情けを頂いています。
どいていただけますか?」
うざい、と内心鼻じろみながらも、キキョウは穏やかな語調で言った。
「永遠隠居ババアと腑抜け元勇者が、なんぼのもんじゃ~!」
突然戦士の一人がキレた。
「その暴言、絶対許せません!
ムサシ殿、その男との決闘を所望いたします!」
キキョウもぶちキレた。
「ライアン、控えろ!
すまない。
供の者の無礼は詫びる。
悪い男ではないのだ」
ムサシは蒼白になって頭を下げた。彼は内心、夜の女王とケンイチの名前にびびっていた。
光の女神にも、召喚時念を押されていた。
『夜の女王と彼女の眷族に、絶対関わってはなりません。
敵対しない限り害はありませんが、倒すことは誰にもできません』
かなうわけないじゃん! 彼はそういった計算ができる男だ。
だが、それはキキョウが物足りない、と感じる部分でもある。
「十分力がついたと、さっきおっしゃいましたね?
失礼ですがその力、試させていただけますか?」
怒りがまだ鎮まらないキキョウが、悪い顔で言う。
「試す、とは?」
ムサシが聞く。
「四対四で模擬戦をしましょう。
こちらはガーネット様、バイオレット様、ミレーユ様。そして私。
皆様、暇を持て余していらっしゃるから、私がお願いしたら、きっと喜んで引き受けて下さいます」
「あの伝説の三人も…ご健在?」
ムサシは、いっそう顔をひきつらせて聞く。伝説のあのパーティは、ほとんど楽勝で魔王に迫ったと聞いている。
ただ、女魔王の魅了魔法で、ケンイチが戦闘不能になったという、笑える伝説も残っているが。
「もちろんです。
私はまだですが、お三方は夜の女王様の力で、不老不死になっています。
殺すことが可能な魔王とは、わけが違いますよ」
キキョウはドヤ顔で言う。
キキョウの家のドアが、突然開いた。
「キキョウ、おもしろそうな話ですね。
亜空に戦闘フィールドを設けます。
当代の勇者パーティの力、見せてもらいましょう」
ミレーユが聖女の笑顔で言う。後ろにはバイオレットとガーネットが、にやにやしながら控えた。
「おもしれ~! やったろうじゃん!」
戦士ライアンがしゃしゃり出た。
ムサシをはじめ、仲間三人が、すかさずボコボコにした。
「数々のご無礼、誠に申し訳ない。失礼する」
ムサシは気絶したライアンをひきずって、風のごとく去っていった。
「キキョウ、あのパーティに入らなかったのは正解です。
せっかくいいとこだったのに……。
みんな、帰りましょう」
ミレーユは、いざ三発目、というところで、バイオレットに呼びつけられた。
「生意気な現勇者たち、ボコってやろうぜ!」
よって、ムサシの判断は、きわめて妥当だった。聖神女の、目が笑ってない笑顔は、バイオレットやガーネットのガンとばしより、はるかにおっかないものだと、キキョウは知っている。
キキョウは、レミのついでにライラックへ転移してもらった。
ケーンのテントには、およそ三日置きに通っているが、自宅へ帰るのは二週間ぶりだ。
家の掃除やら、レミの伯母のご機嫌伺いのため、キキョウとレミはたまに来ている。
キキョウはレミから、伯母に薬類を届けるよう頼まれている。レミが夜の王宮で作った薬類を、保存用とお届け用を仕分けする。
現在ケーンのパーティは、ケーンのイズムに従って、レミが作った薬を使っている。
テレサの魔法が上達し、ほとんど消費されなくなったが。
レミは順調に薬師としての腕を上げ、錬金術にも手を伸ばし始めた。戦闘はいっこうに上達しない。
それにしても、とキキョウは思う。
ケーン様にしては信じられない。
今まで手を出さなかったこと。
私やレミさん、出会って即だったもんね。
ユリさんは、けっこうこじれてたけど、事情が事情だから。
この世界で、一夫多妻に抵抗を抱く女は、ほとんどいない。出生率は女性が高いし、魔物との戦いや魔族との戦争で、若い男の死亡率もひどく高い。
キキョウは、ケーンが新しい嫁を得たことに抵抗はないが、テレサは特別扱いされているようで、なにかひっかかる部分がある。
出会って即、じゃなかったからだ。
キキョウは、そう思いなおす。
テレサの仕事が、仕事だったこともあるだろう。
人間関係は不思議なものだ。タイミングがずれたら、すれ違ったまま縁が切れてしまうケースもままある。
あのとき、何も考えずケーン様のパーティに入った。
大正解だった。
嫁が四人…か。次もあるかな?
あるだろうね……。キキョウは深く考えることを放棄した。
その方が絶対幸せだ。
キキョウは、家の清掃を終え、レミの伯母の家へ出かけようとした。
「キキョウ。ずいぶん探したぞ」
白銀色の全身鎧に身を固めた、たくましい男が、出待ちしていたようだ。
後ろに男女二人の戦士と、魔導師です、という感じの女が控えていた。
「ムサシ殿、なんのご用でしょう?」
キキョウは幾分表情をこわばらせ、そっけなく聞いた。
「もちろん俺のパーティへの勧誘だ。
ニンジャスキルを持つお前の力が是非欲しい。
俺たちの実力も十分ついたと自負している。
それに、このところ魔王軍の動きがほとんど見られない。
弱体化していると見るべきだろう。
バックアップも充実している。
今が魔王に迫るチャンスだと判断した。
頼む。仲間に入ってくれ」
ムサシは深く頭を下げた。
「申し訳ありませんが、お断りします。
私は身も心も捧げられる夫を得ました」
「ケーンとかいう、わけのわからん男か?
別れていると聞いたが」
「どこで聞いたんですか?
別れてなどいません」
キキョウは憤慨して、ムサシをにらみつける。
「ここのギルドでもっぱらの噂だが。
ケーンはクオークで……」
「いつ得た情報ですか?
今はライラックに帰る途中です。
シャドーは、肝心の情報を伝えていないようですね。
ケーン様は夜の女王様と、ケンイチ様のご子息です。
夜空城では、距離などあって無きがごときもの。
私、三・四日に一度は、ケーン様のお情けを頂いています。
どいていただけますか?」
うざい、と内心鼻じろみながらも、キキョウは穏やかな語調で言った。
「永遠隠居ババアと腑抜け元勇者が、なんぼのもんじゃ~!」
突然戦士の一人がキレた。
「その暴言、絶対許せません!
ムサシ殿、その男との決闘を所望いたします!」
キキョウもぶちキレた。
「ライアン、控えろ!
すまない。
供の者の無礼は詫びる。
悪い男ではないのだ」
ムサシは蒼白になって頭を下げた。彼は内心、夜の女王とケンイチの名前にびびっていた。
光の女神にも、召喚時念を押されていた。
『夜の女王と彼女の眷族に、絶対関わってはなりません。
敵対しない限り害はありませんが、倒すことは誰にもできません』
かなうわけないじゃん! 彼はそういった計算ができる男だ。
だが、それはキキョウが物足りない、と感じる部分でもある。
「十分力がついたと、さっきおっしゃいましたね?
失礼ですがその力、試させていただけますか?」
怒りがまだ鎮まらないキキョウが、悪い顔で言う。
「試す、とは?」
ムサシが聞く。
「四対四で模擬戦をしましょう。
こちらはガーネット様、バイオレット様、ミレーユ様。そして私。
皆様、暇を持て余していらっしゃるから、私がお願いしたら、きっと喜んで引き受けて下さいます」
「あの伝説の三人も…ご健在?」
ムサシは、いっそう顔をひきつらせて聞く。伝説のあのパーティは、ほとんど楽勝で魔王に迫ったと聞いている。
ただ、女魔王の魅了魔法で、ケンイチが戦闘不能になったという、笑える伝説も残っているが。
「もちろんです。
私はまだですが、お三方は夜の女王様の力で、不老不死になっています。
殺すことが可能な魔王とは、わけが違いますよ」
キキョウはドヤ顔で言う。
キキョウの家のドアが、突然開いた。
「キキョウ、おもしろそうな話ですね。
亜空に戦闘フィールドを設けます。
当代の勇者パーティの力、見せてもらいましょう」
ミレーユが聖女の笑顔で言う。後ろにはバイオレットとガーネットが、にやにやしながら控えた。
「おもしれ~! やったろうじゃん!」
戦士ライアンがしゃしゃり出た。
ムサシをはじめ、仲間三人が、すかさずボコボコにした。
「数々のご無礼、誠に申し訳ない。失礼する」
ムサシは気絶したライアンをひきずって、風のごとく去っていった。
「キキョウ、あのパーティに入らなかったのは正解です。
せっかくいいとこだったのに……。
みんな、帰りましょう」
ミレーユは、いざ三発目、というところで、バイオレットに呼びつけられた。
「生意気な現勇者たち、ボコってやろうぜ!」
よって、ムサシの判断は、きわめて妥当だった。聖神女の、目が笑ってない笑顔は、バイオレットやガーネットのガンとばしより、はるかにおっかないものだと、キキョウは知っている。
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