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38 神官風の女とお近づきになってみた

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 ケーンとユリは、ブラックとホワイトに騎乗し、拠点を移した。
そこは神聖テリーヌ帝国。聖神女が暮らす光の神殿が存在する。

情報収集のスタートは酒場。RPGのお約束だ。

ケーンはブラックをお供に、神殿近くの酒場へ訪れた。
いくらお約束とはいえ、酒場に来るような客から、聖神女の情報が得られるような者は、まずいないと思われる。
 聖神女は、対魔王戦において、絶対欠かせない戦力だ。したがって、そのガードは、王族よりはるかに固い。
だが、噂程度なら拾えるだろうという目論見だ。

 ユリは同行しているが、協力を望めない。聖神女略奪プランには、大反対だから。
 ケーンも、言われてみたら無理かも、とは思っている。だが、言い出した以上男の意地がある。
ずいぶん安っぽい意地だが、意地をなくしたら男じゃない、というのがケーンの美学。

「ケーン様、神官風の冒険者がいるパーティ、見当たりませんな?」
 ブラックが、ワインを一口。うん、ライラックに出回るワインとは一味違う。
 ごくり、ごくり……。もう一杯!

「別にいいんだけどさ、もう二本目だぞ」
 ケーンはあきれる。普段ドケチ馬なくせに、酒には目がない。

「いや、さすが光の女神が、えこひいきするテリーヌ。
ぶどうからして、違うのでしょう。
あ、おねえさん、もう一本!」
 ブラックは追加オーダー。

 別にいいんだけどね! お、女子オンリーのパーティ。しかも、神官くさいぞ。最後に入ってきた白ローブの女性。
 ケーンはすっくと席を立った。

「おめでとうございます!
あなた方は俺が目にした、ナンバーワンのパーティです。
テリーヌには観光できたんだけど、最初から決めてたんだ。
美形パーティになんでもおごるって!
ごちそうさせてもらえませんか!
ささ、こちらの席へ」

 女四人のパーティメンバーは、一瞬ひるむ。お坊ちゃま顔のくせにこのチャラさ。何者?

「俺の名前はケーン。
拠点はライラックなんだ。
一応Aクラス張ってる」
 ケーンは金色星が輝く、ギルドカードを見せる。Sクラスならプラチナ星。最高のトリプルSなら三個ほどこされる。

「どうする?」
 戦士風の女が神官風の女に聞く。
「別にいいんじゃないでしょうか?」
 神官風の女は、ケーンにほほえむ。

「いや~! 話わかるね~!
顔と鼻の長い連れがいるけど、ささ、ずずずぃ~っと!」
 ケーンは神官風女の手を取り、自分たちのテーブルへエスコート。

 ブラックは思う。さすがケーン様。その気になったら、とことん図々しい。


「でさ、やっぱりSランクのダンジョンは厳しいわけよ。
やっぱり回復役がいないとね。
ミルさんは神聖魔法使えるんでしょ?」
 ケーンのターゲットは、もちろん神官風の女性だった。光の神殿の神官を示す、太陽マークのネックレスはつけてないが、光属性独特の魔力オーラが感じられる。

「私たちはBランクですけど、まあ、ポーションの節約にはなりますね。
クオーク近郷は、なかなか厳しかったです」
 女神官崩れのミルは、ケーンが勧めたワインをぐびり、ぐびり。実は彼女、酒で失敗して光の神殿を追放された、輝かしい経歴を持っている。

 光の神殿の神官は、普段厳しい戒律に縛られている。彼女は休日に出身の村へ里帰り。幼馴染たちと同窓会を開き、はじけてしまった。

 幼馴染は、みんな男で冒険者。
 常に命を張って生活している。そんな飢えた狼たちの中に、ぐでんぐでんに酔っぱらった、世間知らずの子羊が放り込まれたら?

 ご想像通りの展開で、彼女は一児の母親となってしまった。
 父親は四人の幼馴染の誰か、ということしかわからない。

現在産んだ男の子は両親にあずけ、養育費を稼ぐため、彼女は冒険者を続けている。

「クオークですか!
出てくる魔物はみんな強烈だと聞きます」
 ケーンはさらに酒を勧める。他の女冒険者に、次々と酌をされ、ぐいぐいとワインを空けるブラックは、無視することにする。

「聞いた話によれば、Aランクのダンジョンに匹敵するらしいですね。
ダンジョンに、もぐったことはありませんが」
 ミルさん、案外ケーンがお気に入り。Aランクの冒険者ならお買い得!
 うまくたらしこんで、もっとうまくいけば、子供も押し付けて、悠々自適の主婦暮らし!
 そんなビジョンを描いていた。正直言えば、彼女は戦闘に倦んでいた。金になるということで、クオークへ行ったが、何度命の危機を感じたことか。

「そうそう……。この指輪、悪魔の洞窟で拾ったものです。
ミルさんに似合いそうだな」
 ケーンは光物を、マジックバッグから取り出した。

 冒険者たちの目が、ぎらりと光る。あの魔力の輝きは、魔法の指輪だ!

「こ、これは……、もしかして魔法の…いえ、魔導師の指輪?」
 ミルは指輪を摘まみ上げ、まじまじと見る。魔法の指輪でも、魔法使いにとって垂涎の逸品。

その上位互換魔導師の指輪ならオークション物。金貨数百枚でも落とせるかどうか。

「鑑定スキルを持ってるんですか!
その通りです。
よかったら、役立てください」
 
 商家出身のミルは、それほど高い魔力を持っているわけではない。魔法の威力と魔力を補える、魔導師の指輪があったら……。

「今晩暇です!
いっしょに飲みなおしません?」
 あっさり釣られるミルだった。

「いや、みんなで楽しく飲みましょうよ!
下心があって、誘ったわけじゃないですから」
 ケーンはあっさりかわす。彼の目的はあくまで聖神女。ゆきずりのワンナイトラブも、彼の美学に反する。

「そうですか……。ちょっと残念かな……。飲みましょう!」
 く、そ~~~! 振られちまったぜ!
 飲んでやる~~~!

 結果。ケーンは、普通の冒険者なら目を回すほどの大出費。その割に、得られた情報は皆無に近かった。
 ケーンがどんなに水を向けても、ミルは聖神女に関する情報を漏らさなかった。
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