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2 勇者二世降臨

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 ケーンは、夜空城のちょうど真下にあった、ライラック近郷に愛馬を下ろした。

彼が生まれたとき、母親から与えられた、その黒いペガサスの名はブラック。

おいおい紹介するが、超絶すぐれものの馬だ。


ブラックはケーンが降りると、人間の青年に姿を変えた。
身長は百九十センチを超え、筋骨も超たくましい。

黒の革鎧に身を包み、凝った意匠の長剣を、腰に帯びている。
容貌は細長く鼻も長い。だが、その目はお馬さんにふさわしく黒く澄んでかわいい。

「ケーン様、どうなさいますか?」
 ブラックは主人に聞く。

「う~ん……。ここはどこ?」
 夜でも真昼並に見えるケーンは、周囲を見渡す。

石畳が敷かれた街道の周りは、木々に覆われ、イヌ科の動物か魔物の、遠吠えが聞こえた。

動物と魔物の差異は、後者がこの世界に満ちた魔力の影響で、変種した生物を指す。

当然普通の動物よりはるかに強く、平気で魔法をかけてくる物もいる。

「リゾット王国の王都、ライラック近郷です」
 ブラックは慇懃(いんぎん)に答える。

「ふ~ん……。じゃ、ライラックへ行こうか」

「御意。馬に姿を変えましょうか?」

「歩きで。下界の空気ってやつに慣れよう」

「そうですな。
どうせ夜は、王都に入れません。
ライラックに着くころには、夜が明けるでしょう。
僭越ですが、装備を整えられた方が……」
 ブラックは遠慮がちに言う。ケーンはパジャマ姿だから。

「うん。じゃ、適当に」

「御意」
 ブラックは呪文を唱える。

ケーンは白銀色の鎧兜に、身を包まれた。

「なんか仰々しすぎねぇ? 
もしかして、父ちゃんのお古?」

「御意。
ケンイチ様が夜空城に来られた時の、勇者装備一式。
とてもお似合いかと」

「魔王討伐に行くんじゃないんだから。
俺はナンパしに降りたの」
 ケーンはあきれ顔でブラックに言う。

「な、なんと! 
てっきり魔王討伐のため、パーティを組まれるものと思い込んでおりました!」

「そんなメンドクセーことしない。
もうちょっと女の子が食いつきそうな、いけてるファッション希望」
 ブラックは、がっくりと肩を落とした。

我が主、ついに名前を挙げる時きたる!
 ケーンが下界へ降りると告げた時、彼は相当意気込んでいた。
だが、主の命令。仕方なく呪文を唱えた。

「ブラック、これは何かな?」
 ケーンは、ジト目でブラックを見る。

「白のタキシードと呼ばれる衣装です。
婦女子の憧れと言えば、古今東西結婚式かと。
ケンイチ様の母国では、この衣装が定番と聞き及んでおります」

 前言訂正。ブラックは案外使えなかった。


 主従は夜明け前に城門へ着いてしまった。

閉ざされた城門前には、衛兵が二人眠そうな顔で立っていた。

門が開く前に、主従は今後の方針について相談する。

「やっぱ冒険者かな? 
父ちゃんの世界では、ファンタジーの王道だってさ」

「私も読ませていただきました。
マリアンヌ様の魔法は大したものですな。
異世界の物まで、平気で取り寄せてしまう」

「異世界チートハーレム小説ってやつ? 
やっぱ男の子の夢だよね!」

「大体において、主人公は平凡な男子に決まっております。
ケーン様のように、最初から無双可能な状態では、婦女子も若干ひくかもしれません」

「だよね~……。父ちゃんも最初は、ずいぶんなめられたみたい。
こっちへ呼ばれたとき、光の女神にいっぱい注文つけて、あっという間に、勇者と呼ばれるようになったと聞いたけど」

「光の女神は、さまざまな特典をケンイチ様に与えました。
ですが、私に言わせれば、肝心な対策が抜けておりました」

「女に超弱い。俺も同じだけど」

「さようでございますな。
魔王に勝てるだけの実力はお持ちでした。
ですが……」

「夜明けだ。そろそろ城門が開くだろう。
俺、ギャップ路線で行くから。
俺の好み、超強い女だから、キミを守ってあげたい、みたいな? 
だけど、だけど、いざというとき超絶強い!」

「ケンイチ様が、女王様を落とした路線ですな! 
魔王に勝ちたいから、女に強い男に変えてくれ! 
ですが……私はあのみじめな御姿を拝見し、涙を禁じえませんでした」
 ブラックはどこか遠くを見る目でそう言った。

「そんなに?」

「はい。そんなにです。
魔王の間にたどりつくまでは、まさしく勇者だったそうです。
魔王と刃を交える直前、魅了魔法に屈し、腑抜け同然になって、パーティはあえなく撤退。
ミレーユ様の転移魔法がなければおそらく……。
夜空城で女王様の裾にすがりついた、あの時の御姿は……」

「母ちゃんに聞いた。
本能が命じるまま、母ちゃんのスカートの中にもぐりこんだ。
子として情けねぇ……」
「僭越(せんえつ)ですが、ケーン様も、ミレーユ様のスカートの中が大好物。
聖神女のスカートの中にもぐりこめるのは、ケンイチ様とケーン様だけかと……」

 ちなみに、ケンイチのパーティは、彼を除き三人の愛人女性で構成されていた。
三人とも今は、ケンイチの側室として夜空城で暮らしている。

パーティリーダーが、ケーンの母ちゃんに、メロメロになり、やる気をなくしてしまったのだから仕方ない。

ケーンのお気に入りは、神聖魔法の大魔導師ミレーユだった。

女戦士二人は、ひたすらおっかなかった。スカートなんてはかないから、近づきもしなかった。

向こうから無理やり近づいて、魔法やら剣技やらを超スパルタ方式でケーンに仕込み、ストレスを解消し続けたから余計に苦手。

苦手というものの、いじめられる快感はあったから、ケーンは強い女に憧れる部分もある。

つまり、ケーンの好みは、究極の癒し系と究極の強者。

ケーンはどちらのタイプも、ギャップ系は有効と読んでいる。事実、彼の父ちゃんの実績が証明している。

「じゃ、その線で。
俺は魔法も剣技も初心者。
そんな感じで冒険者ギルドの登録のとき頼む」

「心得ました。
ケーン様のプロフィールは、こんな感じで……」
 本当は使えるはずのブラックは、でっち上げのプロフィールを語った。
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