檻の中

Me-ya

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「…遥香、来て」

放課後、蓮と一緒に寮へ帰ろうと教室を出たところで勇士に呼ばれた。

蓮が不安気に俺を見上げる。

最初は勇士が俺を呼んでもあまり気にしていなかった蓮も、最近は何か思うところがあるのか、不安そうな顔を見せる。

「………大丈夫ですよ、すぐ戻ってきますので寮に戻っていて下さい」

「…………………………うん、分かった」

俺の言葉に何か言いたそうな顔をして………結局、何も言わずに俺の手から自分の荷物を受け取り、とぼとぼと廊下を歩いて行く。

その後ろ姿を見送っていると、いきなり腕を掴まれて教室の中に押し込まれた。

「…そんなに熱~い視線でボク以外の人を見詰めるなんて…焼けちゃうな~」

「…ふざけ……っ」

パンッ!!

(…………………………あ?)

右頬に激しい衝撃が襲ってきたと思うと俺の身体は机に当たり床に倒れ、綺麗に列んでいた机の列を壊した。

一瞬、何がおきたのか分からなかった。

勇士に頬を叩かれた事に気付いたのは、床に倒れた後。

今までは蓮にバレないように、見える場所を殴るなんて事はした事がなかったのに………。

だんだん大胆になってきている。

(……このままでは………)

蓮にバレるのも時間の問題………まさか、蓮にバレてもいいと思っているのか。

それとも………。

感覚がマヒしてきて、分からなくなってきているのか。

いずれにしても………。

(このままじゃマズい)

俺も………勇士も………。

いや、勇士はどうなろうが構わない。

しかし、俺はバレたら確実に蓮から離される。

それは駄目だ。

バレないようにしないと………。

勇士の命令に従い、勇士を刺激しないようにしないと………………。

-後に俺はこの判断を悔やむ事になる。

たが、この時の俺は蓮にバレないようにする事だけを考えていた。

この事が蓮の家にバレたら、勇士はもちろん、勇士の家だって確実にヤバくなる。

それが分かっていたから、勇士も蓮にバレないようにしていたはずなのに。

元々、我が儘だった勇士。

だんだん大胆になってきて、前は気をつけていただろうやっていい事と悪い事の区別がつかなくなってきていた。

直人は勇士の命令通りに動き勇士を止める事はしない為、あてにならない。

だから俺は勇士の命令に従い、なるべく勇士を刺激しないようにした。

蓮と話す時間がなくなっても、蓮と一緒にいる時間がなくなっても。

仕方がないと思っていた。

俺が蓮の側にいる為には仕方がないと。

学園を卒業すれば、ずっと一緒にいる事ができるからと。

蓮と俺の為に仕方がない事だと。

だから。

勇士さえ抑えていれば大丈夫だと思っていた。

でも。

俺は重大な事を忘れていた。

重大な………一番大切な。

蓮の気持ちを……………。

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