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1話 心の支え
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-最近、会長の様子がおかしい。
いつもは完璧な書類の誤字、脱字が目立ち、その日していた約束を忘れたり遅刻したり…何より、心ここにあらずのうわの空、呼ばれても返事もなくボーッとしている事が多くなった。
そんな事は初めてで…生徒会役員は皆、心配しているが本人には訳を聞く事ができずに、遠巻きにして様子を見ているだけ。
そして、その役は当然のように会長の女房役である副会長の俺に回ってくる。
今も、書類に書き込んでいた手を止めて窓の外をボーッと見ている会長をチロチロと気にしながら、俺に向けてくる皆の視線が痛い。
溜め息をひとつ吐いた俺は席を立ち、給湯室で飲み物を用意する。
その間に皆は席を立つと部屋を出て行く。
ミルクをたっぷりと入れた紅茶に砂糖を添えて。
「………会長」
皆が部屋を出ていった中、会長に声をかけるが、ボンヤリと窓の外を見詰めたままの会長は気付かない。
多分、皆が部屋を出た事にも気付いていないだろう。
-いつもの会長なら考えられない事。
「………会長」
「…え…っ?…あ、ごめん…何?」
「…いえ、疲れたでしょう…紅茶をお入れしましたので少し休憩しましょう」
「…ああ…有難う…あれ、皆、どこへ行ったの?」
そこでようやく生徒会室には会長である己龍麗と副会長である俺、日向菜月の2人しかいない事に気付いたらしく、不思議そうな顔をして俺を見詰めてきた。
「…皆は……」
用事ができて………と言おうとして、首を軽く左右に振る。
「…何か心配事でも?…よければ話してみませんか?」
………心配事。
これ程、麗に似合わない言葉はない。
咄嗟に口に出してしまったが、それはないなと俺は心の中、自分で自分の言葉に突っ込みを入れる。
いつも自信に満ちあふれている麗。
即決、即断で俺達を導いてくれる麗。
俺は麗が今まで何かに迷ったり、悩んだりしているところを見た事がない。
だが。
すぐに否定するだろうと思っていた麗は一瞬、目を見開いて俺を見た後、何も言わずに目を伏せ自嘲するように口許を歪ませる。
「………それより、彼はどうなっている?」
-彼。
「…何回か呼びに行かせましたが…駄目ですね」
「……………そうか」
「………もう彼は諦めましょう……私達がいるからいいじゃないですか」
大体、俺は最初から彼を麗に会わす事には反対だった。
-彼…『眞司』と皆には呼ばれていたが…最初に見た入学式の時から気に入らなかった。
入学式の日、壇上に上がった麗を嘗め回すような眞司の瞳…まるで麗の全身を丸裸にして、値踏みするような…あんな瞳で麗を見詰める事は許されない。
その日から俺は眞司の動向に注意し、眞司が麗に近付く事がないように牽制する事にした。
だが、誤算がひとつ。
俺が思っていた以上に眞司の人気は高く、麗が眞司に興味を持ってしまった。
眞司が麗に近付かないように邪魔する事は簡単だが、麗が眞司に近付く事を止める事は、俺にはできない。
だが、幸いな事に…というか、入学式の日にはあんな目で麗を見ていたわりには、麗に呼び出されてのこのこと生徒会室に顔を出すのはプライドが許さなかったのか…眞司が麗の前に現れる事はなかった。
だから、少し安心していたのに。
麗が眞司を諦めてくれれば。
「………何、嫉妬?…止めときなよ、菜月に嫉妬なんて似合わないから」
麗は俺を上目遣いにチロリと横目に見る。
その視線に、ゾクリとした。
「…しばらくは皆、戻って来ないんだよね?」
-麗の手が俺を誘うように伸びてきた。
いつもは完璧な書類の誤字、脱字が目立ち、その日していた約束を忘れたり遅刻したり…何より、心ここにあらずのうわの空、呼ばれても返事もなくボーッとしている事が多くなった。
そんな事は初めてで…生徒会役員は皆、心配しているが本人には訳を聞く事ができずに、遠巻きにして様子を見ているだけ。
そして、その役は当然のように会長の女房役である副会長の俺に回ってくる。
今も、書類に書き込んでいた手を止めて窓の外をボーッと見ている会長をチロチロと気にしながら、俺に向けてくる皆の視線が痛い。
溜め息をひとつ吐いた俺は席を立ち、給湯室で飲み物を用意する。
その間に皆は席を立つと部屋を出て行く。
ミルクをたっぷりと入れた紅茶に砂糖を添えて。
「………会長」
皆が部屋を出ていった中、会長に声をかけるが、ボンヤリと窓の外を見詰めたままの会長は気付かない。
多分、皆が部屋を出た事にも気付いていないだろう。
-いつもの会長なら考えられない事。
「………会長」
「…え…っ?…あ、ごめん…何?」
「…いえ、疲れたでしょう…紅茶をお入れしましたので少し休憩しましょう」
「…ああ…有難う…あれ、皆、どこへ行ったの?」
そこでようやく生徒会室には会長である己龍麗と副会長である俺、日向菜月の2人しかいない事に気付いたらしく、不思議そうな顔をして俺を見詰めてきた。
「…皆は……」
用事ができて………と言おうとして、首を軽く左右に振る。
「…何か心配事でも?…よければ話してみませんか?」
………心配事。
これ程、麗に似合わない言葉はない。
咄嗟に口に出してしまったが、それはないなと俺は心の中、自分で自分の言葉に突っ込みを入れる。
いつも自信に満ちあふれている麗。
即決、即断で俺達を導いてくれる麗。
俺は麗が今まで何かに迷ったり、悩んだりしているところを見た事がない。
だが。
すぐに否定するだろうと思っていた麗は一瞬、目を見開いて俺を見た後、何も言わずに目を伏せ自嘲するように口許を歪ませる。
「………それより、彼はどうなっている?」
-彼。
「…何回か呼びに行かせましたが…駄目ですね」
「……………そうか」
「………もう彼は諦めましょう……私達がいるからいいじゃないですか」
大体、俺は最初から彼を麗に会わす事には反対だった。
-彼…『眞司』と皆には呼ばれていたが…最初に見た入学式の時から気に入らなかった。
入学式の日、壇上に上がった麗を嘗め回すような眞司の瞳…まるで麗の全身を丸裸にして、値踏みするような…あんな瞳で麗を見詰める事は許されない。
その日から俺は眞司の動向に注意し、眞司が麗に近付く事がないように牽制する事にした。
だが、誤算がひとつ。
俺が思っていた以上に眞司の人気は高く、麗が眞司に興味を持ってしまった。
眞司が麗に近付かないように邪魔する事は簡単だが、麗が眞司に近付く事を止める事は、俺にはできない。
だが、幸いな事に…というか、入学式の日にはあんな目で麗を見ていたわりには、麗に呼び出されてのこのこと生徒会室に顔を出すのはプライドが許さなかったのか…眞司が麗の前に現れる事はなかった。
だから、少し安心していたのに。
麗が眞司を諦めてくれれば。
「………何、嫉妬?…止めときなよ、菜月に嫉妬なんて似合わないから」
麗は俺を上目遣いにチロリと横目に見る。
その視線に、ゾクリとした。
「…しばらくは皆、戻って来ないんだよね?」
-麗の手が俺を誘うように伸びてきた。
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