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幸せの記憶
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「…ただいま」
アパートの家のドアを開けると、何かが焦げたような臭いがした。
「お帰り~」
満面の笑みで夏樹が走って玄関に迎えにくる。
「………何の臭い?」
恐る恐る聞いた僕に夏樹は、下を向いてモジモジしている。
「…ヘへ…夕ご飯、作ったんだけど…ちょっと失敗しちゃって…」
夏樹は照れたような顔と落ち込んだような顔を同時にするという器用というか、複雑な顔をしてみせた。
「…へぇ~、楽しみ~」
「…いや、待って…やっぱり、外へ食べに………」
僕は玄関でオロオロしている夏樹を無視して、台所へと歩いて行く。
そこには無残な料理の残骸………コホン、失礼、真っ黒い炭の固まりが皿の上に乗っていた。
「………これは……コロッケ?」
「……ハ、ハンバーグ……」
僕の質問に、夏樹は蚊の鳴くような声で答える。
夏樹は俯いたまま、顔を上げない。
僕は椅子を引くと、そこに座り、箸を持つ。
「いただきます」
「…え…っ、待って、食べないで」
夏樹の叫びを無視して、ハンバーグを箸で切り分け口に入れる。
「…待って待って待って、駄目駄目駄目、出して出して出して」
僕がハンバーグ…を食べた姿を見て、オロオロアワアワし始めた夏樹の姿に笑ってしまった。
「大丈夫だよ。落ち着きなよ」
「ごめん…料理本見て…作れると思ったんだけど…」
「大丈夫…食べられるし…ほら、ご飯とサラダもあるし」
初挑戦のハンバーグを失敗したのがショックなのか、俯いて落ち込んでいる夏樹に笑ってみせる。
「大丈夫だって…最初はご飯も炊けなかったし、包丁の使い方も分からなかったのに、今はこうして美味しくご飯炊けてるし、野菜だって綺麗に切れてるじゃん…ハンバーグだってその内、上手に作れるようになるよ」
「…そうかな……?」
僕を伺うように顔を上げた夏樹にハンバーグを一口口に入れて食べる。
「うん…僕、ハンバーグ好きだし…10日くらいハンバーグでも、大丈夫」
「え、流石にそんなには食べられないでしょ」
(…やっと笑った)
僕が好きなΩの笑顔だ。
2人で住む事になって、夏樹の素の顔を知る毎にもっと夏樹を好きになる自分に気付く。
それと同時に今まで夏樹がどれ程、努力と苦労、我慢とプレッシャーに耐えてきたのか…その事に気付かされ、ますます夏樹に惹かれていく…いけないと分かっていても。
…分かっていても、制御できないのが恋愛感情だ…。
-夏樹はΩだった。
エリートでプライドの高いα一族の中に劣等Ωがひとり。
それも当主の長男として産まれてくる事がどんなに過酷な事か、βの僕にも想像できる。
本当なら産まれた時点でΩは国の保護下に入る事になるので、専用の保護施設に入らなければならない。
αからΩを護る為の保護施設といえば聞こえはいいが、実際はΩを管理する為の施設だ。
…Ωを護る代わりに、Ωに自由な恋愛は許さない…。
昔はΩも自由に恋愛ができたみたいだけど…ただし、襲われるΩも結構いたみたいだから、どちらがいいかなんて言えないけど。
そして何故、夏樹が保護施設に入れられる事なく、生家で育ったか。
それは単に、一族の中からありとあらゆる分野へエリートを輩出している一族の、嫡出として産まれてきたからに他ならない。
それも、その一族の当主の長男として。
幸いな事…かどうかは分からないが、αの一族の血を受け継いだ夏樹は見た目はαと変わりない。
そこで、一族と国との間で密約が交わされた。
-一族にとっても国にとっても疾風家の嫡男がΩと世間に知られるのは都合が悪い。
だから、夏樹がΩという事実は伏せられ箝口令が敷かれ、夏樹はαとして育てられる事になる。
通常、αは教えられなくても自然とαらしい仕草が身につくが、Ωである夏樹は違う。
だから、夏樹には物心がつかない頃から家庭教師がついていて、厳しく躾けられたらしい。
おまけに表向きはαな夏樹は、勉強もスポーツも全てにおいて当然のように上位が求められる。
それぞれの教科毎に家庭教師がついていたらしく、絵画の家庭教師や音楽の家庭教師、体操の家庭教師までいたと聞いた時には驚いた。
そんな素振り、学校では全然見せなかったから。
学校では努力なんて言葉とは無縁な、何でもそつなくスマートにこなす王子様だった。
αの仮面をかぶっていた夏樹も確かに格好よくて素敵だったが、Ωの夏樹の方がドジっ子で親しみやすくて可愛い。
αだった頃より今の夏樹の方が、幸せそうによく笑う。
夏樹が笑うと、僕も嬉しい。
夏樹の幸せそうな笑顔を護る為なら、僕は何でもする。
………たとえ、僕が幸せにならなくても。
アパートの家のドアを開けると、何かが焦げたような臭いがした。
「お帰り~」
満面の笑みで夏樹が走って玄関に迎えにくる。
「………何の臭い?」
恐る恐る聞いた僕に夏樹は、下を向いてモジモジしている。
「…ヘへ…夕ご飯、作ったんだけど…ちょっと失敗しちゃって…」
夏樹は照れたような顔と落ち込んだような顔を同時にするという器用というか、複雑な顔をしてみせた。
「…へぇ~、楽しみ~」
「…いや、待って…やっぱり、外へ食べに………」
僕は玄関でオロオロしている夏樹を無視して、台所へと歩いて行く。
そこには無残な料理の残骸………コホン、失礼、真っ黒い炭の固まりが皿の上に乗っていた。
「………これは……コロッケ?」
「……ハ、ハンバーグ……」
僕の質問に、夏樹は蚊の鳴くような声で答える。
夏樹は俯いたまま、顔を上げない。
僕は椅子を引くと、そこに座り、箸を持つ。
「いただきます」
「…え…っ、待って、食べないで」
夏樹の叫びを無視して、ハンバーグを箸で切り分け口に入れる。
「…待って待って待って、駄目駄目駄目、出して出して出して」
僕がハンバーグ…を食べた姿を見て、オロオロアワアワし始めた夏樹の姿に笑ってしまった。
「大丈夫だよ。落ち着きなよ」
「ごめん…料理本見て…作れると思ったんだけど…」
「大丈夫…食べられるし…ほら、ご飯とサラダもあるし」
初挑戦のハンバーグを失敗したのがショックなのか、俯いて落ち込んでいる夏樹に笑ってみせる。
「大丈夫だって…最初はご飯も炊けなかったし、包丁の使い方も分からなかったのに、今はこうして美味しくご飯炊けてるし、野菜だって綺麗に切れてるじゃん…ハンバーグだってその内、上手に作れるようになるよ」
「…そうかな……?」
僕を伺うように顔を上げた夏樹にハンバーグを一口口に入れて食べる。
「うん…僕、ハンバーグ好きだし…10日くらいハンバーグでも、大丈夫」
「え、流石にそんなには食べられないでしょ」
(…やっと笑った)
僕が好きなΩの笑顔だ。
2人で住む事になって、夏樹の素の顔を知る毎にもっと夏樹を好きになる自分に気付く。
それと同時に今まで夏樹がどれ程、努力と苦労、我慢とプレッシャーに耐えてきたのか…その事に気付かされ、ますます夏樹に惹かれていく…いけないと分かっていても。
…分かっていても、制御できないのが恋愛感情だ…。
-夏樹はΩだった。
エリートでプライドの高いα一族の中に劣等Ωがひとり。
それも当主の長男として産まれてくる事がどんなに過酷な事か、βの僕にも想像できる。
本当なら産まれた時点でΩは国の保護下に入る事になるので、専用の保護施設に入らなければならない。
αからΩを護る為の保護施設といえば聞こえはいいが、実際はΩを管理する為の施設だ。
…Ωを護る代わりに、Ωに自由な恋愛は許さない…。
昔はΩも自由に恋愛ができたみたいだけど…ただし、襲われるΩも結構いたみたいだから、どちらがいいかなんて言えないけど。
そして何故、夏樹が保護施設に入れられる事なく、生家で育ったか。
それは単に、一族の中からありとあらゆる分野へエリートを輩出している一族の、嫡出として産まれてきたからに他ならない。
それも、その一族の当主の長男として。
幸いな事…かどうかは分からないが、αの一族の血を受け継いだ夏樹は見た目はαと変わりない。
そこで、一族と国との間で密約が交わされた。
-一族にとっても国にとっても疾風家の嫡男がΩと世間に知られるのは都合が悪い。
だから、夏樹がΩという事実は伏せられ箝口令が敷かれ、夏樹はαとして育てられる事になる。
通常、αは教えられなくても自然とαらしい仕草が身につくが、Ωである夏樹は違う。
だから、夏樹には物心がつかない頃から家庭教師がついていて、厳しく躾けられたらしい。
おまけに表向きはαな夏樹は、勉強もスポーツも全てにおいて当然のように上位が求められる。
それぞれの教科毎に家庭教師がついていたらしく、絵画の家庭教師や音楽の家庭教師、体操の家庭教師までいたと聞いた時には驚いた。
そんな素振り、学校では全然見せなかったから。
学校では努力なんて言葉とは無縁な、何でもそつなくスマートにこなす王子様だった。
αの仮面をかぶっていた夏樹も確かに格好よくて素敵だったが、Ωの夏樹の方がドジっ子で親しみやすくて可愛い。
αだった頃より今の夏樹の方が、幸せそうによく笑う。
夏樹が笑うと、僕も嬉しい。
夏樹の幸せそうな笑顔を護る為なら、僕は何でもする。
………たとえ、僕が幸せにならなくても。
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