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改めて知る広さ

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SIDE セルシア

(結構出来る、雰囲気?)

「…………」

セルシアはティールたちから言われた通り、紫電崩牙を抜剣せず、普段使用している堅く鋭い扱いやすい細剣を抜剣。

対して、細マッチョ刺青コボルトが持つ得物はロングソード。

扱う武器の相性は決して悪くはない。
それは細マッチョ刺青コボルトも同じだが……両者、開戦状態になってから十数秒ほど動かなかった。

(仕方ない、かな?)

動かなければ勝負は終らない。

セルシアは臆することなく魔闘気、雷を纏い、強化アビリティも忘れずに使用して斬り掛かる。

「ッ!!!! ガゥッ!!!!!」

だが、表情から何を考えているか読みづらいセルシアから、細マッチョ刺青コボルトは身に纏われる戦意から直ぐに全力で斬り掛かってくると予想していた。

優れた観察眼を有していたこともあり、最初の連撃だけで勝負が終わることわなかった。

(むっ……やっぱり、結構、強い)

今ので終わればそれで良かった。

普段であれば、強敵との戦闘で得られるヒリつきを楽しむ場面だが……今はサクッと終わらすのが一番。

「ルルルゥアアアアアアッ!!!!」

だが、セルシアが相対する細マッチョ刺青コボルトは……セルシアにとって、それなりに厄介となりうる技量、戦闘力を有していた。

腕力は向こうの方がやや上。
魔力操作の技術はセルシアの方が上。
素早さも……セルシアの方が勝っているが、戦闘に関する技量は同格に近い。

(こんな、コボルトも……いるの、ね)

それなりに知ったつもりで、解ったつもりでいた。
世界は広い。自分より強い者などいくらでもいる。

それはラガスと出会った時から解っていた。
ただ……今、より強く世界は広いという言葉が身に染みた。

そして…………セルシアの顔から零れた薄っすらとした笑みに、細マッチョ刺青コボルトは気圧され……体から冷たい汗が流れる。

狂戦士? アマゾネス? ドラゴンの牙を振り回す野蛮人?
どれも違う。
細マッチョ刺青コボルトには……目の前の人間が死の鎌を持つ異質な狩人に見えた。

「ッ!!!!!!」

それでも、細マッチョ刺青コボルトに後退、逃走などの二文字はない。

刺青シャーマンコボルトに忠誠を誓っているから?
ムキムキ巨人コボルトも含めて、二体とも刺青シャーマンコボルトに忠誠など誓っていない。

ただ、その同族と共に居れば、己の欲を満たせると思ったから共に行動していただけ。

誰かに言われたわけではなく、脅された訳でもない。
細マッチョ刺青コボルトは自身の意志で予想外ではあるが、激闘を繰り広げるに相応しい人間との戦いに没頭する。

払い、斬り上げ、突く。
両者とも斬撃刃などの遠距離攻撃は使用せず、斬撃や刺突のみの接近戦を続ける。

(風、旋風……違う、嵐?)

このままではマズい。
久しぶりに頭の中に危機を知らせる警鐘が鳴り響く。

細マッチョ刺青コボルトはムキムキ刺青シャーマンコボルトとは違い、戦闘力は高くとも魔力量はそこまで多くない。
そんな中、魔闘気を纏い、強化アビリティを使用しながら更に風を纏えば……あっという間に魔力が切れ、ガス欠状態になってしまう。

モンスターが陥ってしまいやすい状態ではあるが、それが解らない細マッチョ刺青コボルトではない。
だがそれでも……目の前の可憐、美麗とも言える人間のメスが……自身に死の錯覚を与えた。
もはや全身全霊で、己の全てを懸けて挑むという選択肢以外、あり得ない。

そんな細マッチョ刺青コボルトの決意が……彼の風を進化させた。

(ぐずぐず、してた、ら、ヤバい、かも)

こんな時でも表情に不安の色が浮かばないセルシアだが、すぐさま自身に纏う雷を轟雷に変更。

危機を感じても、紫電崩牙が使わない。
己の剣技と魔力、技量で斬り勝つと決めた両者の剣戟は……他二つの戦いと比べて一番早く終わるも、斬り結んだ回数は一番多く…………体に幾つかの切傷を残すも、最後は死の鎌が首に突き刺さり、人間の女性ハンターが見事勝利を収めた。
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