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退くという選択肢もある

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「それじゃあ、もうオルト―から離れてしまうんですね」

「あぁ、そうだな。元々一か所の街にそんな長く留まらないようにってタイプだからな」

魔靴の製作依頼が終了した後、ギルドからの依頼で指導を行ったルーキーたちと最後の宴会。

……なんか、こうして別れを惜しむ様な顔をしてくれると、あの出会った当初の態度はなんだったのかってツッコみたくなってくるな、マジで本当に。

「もう、墓場には潜らなくて良いんですか?」

「結構潜ったし、一番下のボス部屋もこの前また討伐したから、俺はそれなりに十分って感じだな」

ハイ・ヴァンパイアと通常種より強いケルベロスを何度も倒すとか、超あり得ねぇって顔してるな。

まっ、本気で疑ってるわけではないんだろうけど。

「五十層のボスを倒した話は前も聞いたっすけど……恐ろしくはないんっすか」

「…………どうだろうな。実際に戦って、バカみたいに強いとは感じたけど、ハイ・ヴァンパイアが持つ圧に怯んで動けなくなったりすることはなかったかな」

これに関しても、運が良かったと言うしかない。

本気になったフェリスさんと戦ったことがあるわけじゃないけど、フェリスさんほどの絶対強者はまだ見たことがない。

それに、圧ってだけなら学生自体に戦った三本角のオーガジェネラル。
あいつも負けてない。
あのオーガジェネラルの場合、ハイ・ヴァンパイアみたいな邪悪さはなく……純粋な闘気の塊をぶつけられてる感じだったけどな。

「恐怖に慣れた方が良いのか、慣れない方が良いのかってのは難しいところだよな」

「??? そういうのには慣れておいた方が良いんじゃないですか? いざって時に動けなくなるのは困るじゃないですか」

「そうだな。確かにいざって時に動けないのは困るだろう。でも、あんまり恐怖に対する感覚がマヒしたら、退かなきゃいけない時に退けなくなるだろ」

「……ラガス坊ちゃまにしては、もの凄く一般的で冷静な考えですね」

「おい、どういう意味だよ」

ったく、相変わらずからかってきやがる。

確かに色々と普通じゃねぇけど、一般的なあれこれについて考えることぐらいは出来るっての。

「ラガス坊ちゃま……今まで強敵、難敵を相手に、退くという選択肢を取ったことがありましたか?」

「……ないな。でも、それはあれだ。倒せるって、勝てるっていう自信があったからだ。そういったイメージがなきゃ、俺も……どう戦うか冷静に考えるっての」

絶対に退くかは解らないけどな。

「是非、冷静に退いて欲しいものですね……今ラガス坊ちゃまも仰いましたが、恐怖心がマヒすれば退くべき時に退けません」

俺らのパーティーの中だと、そこら辺がちゃんとしてるのは……ぶっちゃけメリルだけだな。

「退くのは恥ずかしい、悔しいと思うかもしれませんが、勇気ある撤退は必要です」

「……そういう状況も考えて、冒険の準備をしないとですね」

「その通りです。モンスターと、敵と相対した時の選択肢はなにも勝つ、死ぬの二択ではありません。逃げて生き残るという選択肢もあります」

うんうん、メリル先生の言う通りだ。

つっても……そういう状況まで考えて道具を用意すると、出費が半端ないことになるけどな。

「稼いで手に入れた自分たちの欲望の為に使いたいという気持ちは解ります。しかし……死んでしまっては、その為に稼いで溜めていたお金を使えなくなります。それを考えて、行動した方が良いですよ」

それなりにやりたい事をやって生活している俺たちが言っても説得力はないかもだけど、間違ってはいないんだよな……この世界じゃ、ハンターという職業に就いていれば、死は当然の様に起こり得る現象だ。

「肝に銘じておきます……ところで、ラガスさんたちはこれから何処に向かうんですか?」

「カルパって名前の街に向かおうと思ってる」

「カルパ、カルパ…………っ!!?? あ、あのカルパですか!!!!」

そりゃ知っててもおかしくないか。

「そのカルパだ」

「…………は、ハンターとして、本当に、尊敬します」

「よせよせ、そんなお世辞使わなくても、今日の飯は奢りだっての」

そんな心配そうな顔しなくても、大丈夫だっての。
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