上 下
408 / 962

弟を想う姉の思考

しおりを挟む
「良い方たちですね」

「環境にはとても恵まれていますよ」

全ての模擬戦が終了し、結果は……フェリスさんの圧勝。
話を聞きつけたアリクやクレア姉さん、サルネさんや会長までフェリスさんと模擬戦を行ったが、決定打を一つ浴びせることが出来ずに模擬戦は終了。

皆全力を出し切り、終わった後はへとへとになっていた。

「確かに卒業するまで俺は成長出来ないかもしれませんけど、良い環境に恵まれているので今の生活は悪いと思いません」

「そうですね……ラガスさんの年齢を考えれば、今の実力は異常といえば異常ですし、学園を卒業する年齢時を考えてもやっぱり頭四つ五つ抜けてるので問題はなさそうですね」

「まぁ……これでも鍛えてるんで、そうそう負けませんよ。今日はいませんけど、先程話したリーベも競い合える一人ですから」

「あらあら、本当に良い環境に恵まれたのですね」

そうなんだよ、環境には本当に恵まれた。
入学早々決闘を申し込まれたり、選抜戦で反則する奴と戦ったり、大会では知らぬ間に買っていた恨みを晴らそうとしてくるだるい女と戦ったりしたけど……うん、環境には本当に恵まれてるよ。

「それで、アルガ王国に入国してからなんですけど……」

「勿論ラガスさんの護衛として付いてきますよ」

「ありがとうございます。それで、ちょっと迷ってることがあって」

「何をですか?」

「フェリスさんが狼竜であるかどうか、ということを向こうの使者に伝えるかどうか迷っていて」

事前に伝えていた方が、向こうが馬鹿を起こす可能性が少しは下がる気がする。
ただ、それは事前にフェリスさんに確認しておかなければならない。

「……私としては構いませんが、ルーフェイスのことはブラックウルフとして通してるのですよね。それなら、どこかでルーフェイスも狼竜ということがバレてしまいませんか?」

…………そういえばそうだった。
完全に忘れてたは……やば、どうしよう。

「ふふ、安心してください。アルガ王国のおバカさんたちが襲い掛かってきたとしても、場所を考えて仕留めます。色々と道具も持ってきているので、その辺りは気にしなくても大丈夫ですよ」

「そ、そうですか……分かりました」

事前に色々と用意してくれてたんだな。
それは嬉しい……嬉しいんだけど、いったいどんな道具を用意したんだろ。

何回かあの宝の山を見たことあるけど……生半可な物は一つもなかった。
襲い掛かってくる奴に同情はないけど、予めご愁傷様と合掌しておくか。

「どうかしましたか?」

「未来のアホに合掌を送っただけです」

模擬戦が終わった後、皆で夕食を食べて満腹になった今はいつも通りベランダで黄昏ていた。

明日からいよいよアルガ王国に向けて出発か……どんな面倒事が待っているのか、考えただけで憂鬱になるな。
決闘になればぶっ飛ばして呪ってやるって思ってたけど、それですんなり終わるのか……はぁ~~、本当に面倒な感情を暴走させてくれたな、クソ三王子。

ぶっ殺せば流石に国同士の……国際問題になるよな。
殺すのはおそらく簡単だ。決闘になったとして、相手がよっぽど有能なマジックアイテムを身に着けていない限り、一瞬でギアマックスで動けば心臓や喉に脳も潰せる。

「なに黄昏てるんだ、ラガス」

「な~に考えてるの!」

「アリク、クレア姉さん……ちょっと明日からのことを考えてた」

「あぁ~~、その件か。普通に考えて頭を抱えたくなるよな」

そうなんだよ。いや、俺も初めて第三王子の件を知った時は頭の上にはてなマークが何個も浮かんだよ。
直ぐに書かれてある内容は理解したけどさ。

「でも、何が起こるか分からなくても、せいぜい第三王子が決闘を挑んでくるぐらいじゃないの? そうなれば、ラガスの圧勝で直ぐ終わるじゃない」

「そりゃボコボコのボコボコにして呪弾で呪って潰そうと思ってるよ」

「……相変わらず過激だな。まっ、殺そうと思ってないようでちょっと安心した」

いや、殺そうとは思ったよ。
何度もそうしてやろうかと頭に考えがよぎったけど、さすがにそれはダメだって言い聞かせた。

「ラガスに私利私欲な理由で迷惑掛ける様な馬鹿なんて、死んでも良いんじゃないの」

「おい、滅多なこと言うなよ」

「だってパートナー制度は絶対。他国の王族であろうが、基本的には口出し出来ない筈よ。なのにこっちに来るどころか自分達側に来いって……ラガスからすれば、殺してくださいって言ってるようなものでしょ」

「……そうだね。相手が王族でなかったらぶっ殺してるかもね」

相手が王族だからこそ俺が向こうに行かなきゃならないんだけど……何か色々考えが矛盾してきた。

兎に角、殺しはしない。それは確定だ。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

モブです。静止画の隅っこの1人なので傍観でいいよね?

紫楼
ファンタジー
 5歳の時、自分が乙女ゲームの世界に転生してることに気がついた。  やり込んだゲームじゃ無いっぽいから最初は焦った。  悪役令嬢とかヒロインなんてめんどくさいから嫌〜!  でも名前が記憶にないキャラだからきっとお取り巻きとかちょい役なはず。  成長して学園に通うようになってヒロインと悪役令嬢と王子様たち逆ハーレム要員を発見!  絶対お近づきになりたくない。  気がついたんだけど、私名前すら出てなかった背景に描かれていたモブ中のモブじゃん。  普通に何もしなければモブ人生満喫出来そう〜。  ブラコンとシスコンの二人の物語。  偏った価値観の世界です。  戦闘シーン、流血描写、死の場面も出ます。  主筋は冒険者のお話では無いので戦闘シーンはあっさり、流し気味です。  ふんわり設定、見切り発車です。  カクヨム様にも掲載しています。 24話まで少し改稿、誤字修正しました。 大筋は変わってませんので読み返されなくとも大丈夫なはず。

カフェ・ユグドラシル

白雪の雫
ファンタジー
辺境のキルシュブリューテ王国に店長が作る料理に舌鼓を打つ、様々な種族が集う店があった。 店の名前はカフェ・ユグドラシル。 そのカフェ・ユグドラシルを経営しているのは、とある準男爵夫妻である。 準男爵はレイモンドといい、侯爵家の三男であるが故に家を継ぐ事が出来ず高ランクの冒険者になった、自分の人生に悩んでいた青年だ。 準男爵の妻である女性は紗雪といい、数年前に九尾狐を倒した直後にウィスティリア王国による聖女召喚に巻き込まれた挙句、邪心討伐に同行させられたのだ。 しかも邪心討伐に同行していた二人の男によって、聖女を虐げたという濡れ衣を着せられた紗雪は追放されてしまう。 己の生きる道に迷っている青年と、濡れ衣を着せられて国を追われた女が出会った時、停滞していた食文化が、国が、他種族が交流の道を歩み始める───。 紗雪は天女の血を引くとも言われている(これは事実)千年以上続く官人陰陽師の家系に生まれた巫女にして最強の退魔師です。 篁家や羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。 紗雪が陰陽師でないのは、陰陽師というのが明治時代に公的に廃されたので名乗れないからです。

処理中です...