上 下
350 / 962

熱さと冷静さ

しおりを挟む
リーベの特訓が始まってから一週間が経った。

平日は授業が終わってから夕食までの時間を全て訓練に費やす。
一番最初に魔弾の操作。
そして実戦で使えそうな動きを教え、トレースさせる。

それが終われば後は時間が来るまで延々と俺、シュラ、メリルと模擬戦を続ける。
セルシアもリーベの模擬戦相手になってくれている。

結果は俺達が全勝。
セルシアも負けは一切無い。
だけどセルシアのリーベに対する評価は悪くなかった。

本気で磨けば光る……二割ぐらいは辛くて訓練を緩めて欲しいって言われるかと思ったが、そんな言葉は一切吐かずに毎日頑張ってる。

休日に行うモンスターの討伐に関してはそこまで心配はいらなかった。
最初の一歩を踏み出すために背中を押す必要はあったが、後は自分の力だけで遭遇したモンスターを倒していった。

これならたった一か月とはいえ、実力はかなり上がる筈だ。

「ラガスじゃないか、こんなところで何をしてるんだい?」

「ジークか……お前こそこんな場所で何をしてるんだ」

偶に一人でプラプラしたい時間がある。
リーベの授業が終わるまでまだ時間はあるので一人で誰もいない場所でのんびり考え込んでいた。

「君が一人で動いているのは珍しい。それと人が来なさそうな場所に入って行くのが見えたからね」

「そうか、お前も暇だな」

「そういう訳じゃないんだけどね……それで、最近はなにやらジースを鍛えているそうじゃないか。他の生徒達が羨ましがっていたよ」

「リーベの知人だったのか。てか、なんで他の生徒が羨ましがってるんだよ」

「当然の事だと思うけどね。君はシングルスで優勝し、ダブルスでもセルシアと一緒に優勝した。そして団体戦にも出場し、勝利を収めた。一部からは一年生あそこまでの力を持っているのは不自然だ、何か反則をしていたんじゃないかって思っている人もいるぐらいにね」

そりゃそう考える奴らもいるだろうな。
ただ、俺から言わせてもらえばお前らの努力不足ってだけだ。

強くなろうと思い、実践するのは誰と比べても早かっただろうが、本気で上を目指すと決めて努力してる奴からはそういった考えは出て来ないだろうな。

「ただ、実際に戦った僕はそんなことはないと解っている。それはロッソ学園の生徒達もね。君は反則を行った生徒を相手に完勝した」

「……そういえばそんな事もあったな」

名前は……だめだ、忘れた。
確かセルシアに執着してた奴ってのは覚えてるが……まっ、今後関わることはない。
忘れても問題はないな。

「そんな君から指導を受けられる。上を目指す生徒達にとっては是非とも受けてみたい授業だろう」

「別に授業なんてしっかりした内容じゃない。てか、俺は属性魔法のスキルを持っていないんだ。貴族ならそこら辺を磨いた方が良いだろ」

「そういった考えがあるのも当然だが、指導は君だけじゃなくて執事とメイドの二人も担当しているのだろう。大会でトップを取った二人の指導……君を含めればスリートップだね。そんな三人かの授業を受けてみたいと思う者は属性魔法云々関係無しにいる筈だよ」

「……そういうもんか。でも生憎だが、しっかりと授業料は貰ってるんだ。それに……事情が少し面白いと思ったからな」

「事情、か……その辺りまでは知らないんだけど、聞いても良いかい?」

……別に細かい理由を話さなければ良いか。
こいつなら他の生徒に言いふらすことも無いだろうしな。

「惚れた女の為に、強くなる……大まかに言えばそんなところだ」

「惚れた女の為に……少し固いところがあるあいつにそんな熱い部分があったんだね」

「その気持ちは解る。理由には納得したが、確かにギャップはあった」

固い印象を崩す様な熱。ただ、相手の気持ちを完全に無視しない冷静さもある。
人として優れていると思えたな。

「……もしかしてだけど、誰かと戦うのかい?」

「そこは想像に任せる」

正確を言わなくてもジークなら大体は解るだろう。

「そうかい……ラガス、ジースは勝てるのかな」

「俺はあいつが強くなるために力と知恵を貸す。結果がどうなるかはリーベの努力次第だ」

「君らしい答えだね」

「どうも。それじゃ、俺はそろそろ戻る。じゃぁな」

久しぶりに話したけど、本当にジークは棘が無くなったな……今度一緒にのんびり飯で食べるか。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

エンジェリカの王女

四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。 ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。 天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。 ※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。 ※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...