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第108話 それも良い人生
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「ふっふっふ……相変わらず、良い重さだ。それにしても……俺にこのカクテルを提供するか」
「若輩者ではありますが、アルガド様の逸話は幾つか耳にしております」
アルガドはただのギャングではなく、義を重んじる裏の世界の住人。
組織が手を出している商売も違法性があるものではない。
仮に義に反するような商売をしようものなら……アルガドが直々に潰すことも珍しくない。
「逸話、か。ただ若い頃に無茶をしたってだけだ」
「その無茶のお陰で救われた者もいるようで」
「そいつわぁ、マスタ―も同じなんじゃないかい?」
アストが冒険者とバーテンダー、二足の草鞋で活動しているという情報は事前に得ており、副業として行っている冒険者業での活躍も当然知っていた。
「……お客様が店に訪れていただく切っ掛けとなった女性にもお話ししましたが、私は副業ではあれど、冒険者としてのプライドが多少なりともあります。だからこそ、無茶をする時は無茶をします」
「良い答えだ。考え方は人それぞれだが、プライドが……己の芯がない者は、薄っぺらい」
アルガドはアストの情報を……アストが予想しているよりも知っている。
故に、自分がいる世界に誘うべきではないと解っている。
解っているが……それでも、勧誘という言葉がほんの一瞬だけ、頭の中に浮かんでしまった。
(……良くないな。彼は……彼だからこそ、良い味を持っている。今以外の場所に属するようなことがあれば、その味が薄れてしまう)
冒険者とバーテンダー、二足の草鞋で街から街へ旅をしているからこそ、他の若者では出せない味を醸し出している。
「しかし、マスター。そこまで良い男だと、冒険者の中の権力者や関わる女たちが放っておかないんじゃないか?」
「さぁ……どうでしょうか。同世代の者たちよりも、勧誘された回数は多いかもしれませんが、お客様が思っているほどのことは……」
「そうかい? そこら辺の面が良い奴らよりも、よっぽど色男に思えるぞ」
ただの……ただの褒め言葉だと思いたい。
しかし、アルガドがミーティアに訪れた理由の発端は、ヴァレア・エルハールトとの争い。
アストはそのヴァレアと、結果的に一晩肉体を重ね合った。
(バレて、ないよな? そもそもあいつは、そういった話を言いふらす様なタイプではない……そういうタイプじゃない、よな?)
表面的には営業フェイスを保ち続けられているが、内心では汗ダラダラ状態。
「人並に経験はしてきました。ただ、私は旅の冒険者で、バーテンダーですので」
「特定の相手をつくる気はない、ということだな……ふふ、しかし苦労が絶えないだろうな」
「それは、なんとも言えませんね」
実力の問題で同期や歳下、歳上から絡まれるだけではなく、男女関係のごたごたで面倒な件に巻き込まれたこともある。
「ですが、それも良い人生だと思っています」
「ほぅ……苦労が良い人生ときたか」
「苦労と言いますか、私としては……刺激という表現が正しいと思ってます。勿論、疲れることはありますが、退屈と感じる人生を送り続けるよりは……よっぽど良い人生かと」
「退屈より刺激、か。そうだな…………そういう考え方もあるな」
アルガドは追加でカクテルと料理を注文しながら、その後もアストと他愛もない会話を続けた。
アストとしては、一杯で粘れるのではなく、定期的にカクテルや料理を注文してくれるので有難い。
ただ……もう十二時に迫るといった段階でも、酔った様子を一切見せないアルガドを見て、一種の恐ろしさを感じざるを得なかった。
(こ、この人……途中で火酒も呑んだくせに、一切顔色や雰囲気が変わらない……いや、酔っ払って暴れられるよりは良いんだが…………色んな意味で、恐ろし人だ)
やや肝臓が心配に思ってしまうも、アルガドにとってはこれが日常だった。
「マスター、美味かった」
「ありがとうございます」
「マスターが王都に来た時は、また寄っても良いかな」
「えぇ、勿論です」
アストが笑顔でそう答えると、アルガドも笑みを浮かべながら……白金貨を数枚、テーブルの上に置いた。
「その気はなかったとはいえ、脅した迷惑料だ。取っておいてくれ」
「……では、次回来店された時は一杯ご馳走させていただきます」
「それは嬉しいな。次が楽しみだよ」
アルガドが去って行くと、先程まで周囲に居た気配も同時に去って行った。
「…………………ふぅーーーーーー。閉めるか」
既に時刻は深夜の十二時近く。
周囲に人の気配もないため、アストは洗い物をしてミーティアを閉めた。
(というか、本気で恐ろしかったな…………仮に本当にぶつかったとして、勝てたかどうか……無理だろうな~~~)
普段からあまりスキル、カクテルを使っていないアストは、大半の者たちが知らない切り札がある。
だが、その切り札を含めても、アルガドに明確に勝利出来るイメージが湧かなかった。
(予定より、早めに次の目的地を探した方が良さそうだな)
決して悪い関係になった訳ではない。
ただ……あまり良くない何かを感じたアストだった。
「若輩者ではありますが、アルガド様の逸話は幾つか耳にしております」
アルガドはただのギャングではなく、義を重んじる裏の世界の住人。
組織が手を出している商売も違法性があるものではない。
仮に義に反するような商売をしようものなら……アルガドが直々に潰すことも珍しくない。
「逸話、か。ただ若い頃に無茶をしたってだけだ」
「その無茶のお陰で救われた者もいるようで」
「そいつわぁ、マスタ―も同じなんじゃないかい?」
アストが冒険者とバーテンダー、二足の草鞋で活動しているという情報は事前に得ており、副業として行っている冒険者業での活躍も当然知っていた。
「……お客様が店に訪れていただく切っ掛けとなった女性にもお話ししましたが、私は副業ではあれど、冒険者としてのプライドが多少なりともあります。だからこそ、無茶をする時は無茶をします」
「良い答えだ。考え方は人それぞれだが、プライドが……己の芯がない者は、薄っぺらい」
アルガドはアストの情報を……アストが予想しているよりも知っている。
故に、自分がいる世界に誘うべきではないと解っている。
解っているが……それでも、勧誘という言葉がほんの一瞬だけ、頭の中に浮かんでしまった。
(……良くないな。彼は……彼だからこそ、良い味を持っている。今以外の場所に属するようなことがあれば、その味が薄れてしまう)
冒険者とバーテンダー、二足の草鞋で街から街へ旅をしているからこそ、他の若者では出せない味を醸し出している。
「しかし、マスター。そこまで良い男だと、冒険者の中の権力者や関わる女たちが放っておかないんじゃないか?」
「さぁ……どうでしょうか。同世代の者たちよりも、勧誘された回数は多いかもしれませんが、お客様が思っているほどのことは……」
「そうかい? そこら辺の面が良い奴らよりも、よっぽど色男に思えるぞ」
ただの……ただの褒め言葉だと思いたい。
しかし、アルガドがミーティアに訪れた理由の発端は、ヴァレア・エルハールトとの争い。
アストはそのヴァレアと、結果的に一晩肉体を重ね合った。
(バレて、ないよな? そもそもあいつは、そういった話を言いふらす様なタイプではない……そういうタイプじゃない、よな?)
表面的には営業フェイスを保ち続けられているが、内心では汗ダラダラ状態。
「人並に経験はしてきました。ただ、私は旅の冒険者で、バーテンダーですので」
「特定の相手をつくる気はない、ということだな……ふふ、しかし苦労が絶えないだろうな」
「それは、なんとも言えませんね」
実力の問題で同期や歳下、歳上から絡まれるだけではなく、男女関係のごたごたで面倒な件に巻き込まれたこともある。
「ですが、それも良い人生だと思っています」
「ほぅ……苦労が良い人生ときたか」
「苦労と言いますか、私としては……刺激という表現が正しいと思ってます。勿論、疲れることはありますが、退屈と感じる人生を送り続けるよりは……よっぽど良い人生かと」
「退屈より刺激、か。そうだな…………そういう考え方もあるな」
アルガドは追加でカクテルと料理を注文しながら、その後もアストと他愛もない会話を続けた。
アストとしては、一杯で粘れるのではなく、定期的にカクテルや料理を注文してくれるので有難い。
ただ……もう十二時に迫るといった段階でも、酔った様子を一切見せないアルガドを見て、一種の恐ろしさを感じざるを得なかった。
(こ、この人……途中で火酒も呑んだくせに、一切顔色や雰囲気が変わらない……いや、酔っ払って暴れられるよりは良いんだが…………色んな意味で、恐ろし人だ)
やや肝臓が心配に思ってしまうも、アルガドにとってはこれが日常だった。
「マスター、美味かった」
「ありがとうございます」
「マスターが王都に来た時は、また寄っても良いかな」
「えぇ、勿論です」
アストが笑顔でそう答えると、アルガドも笑みを浮かべながら……白金貨を数枚、テーブルの上に置いた。
「その気はなかったとはいえ、脅した迷惑料だ。取っておいてくれ」
「……では、次回来店された時は一杯ご馳走させていただきます」
「それは嬉しいな。次が楽しみだよ」
アルガドが去って行くと、先程まで周囲に居た気配も同時に去って行った。
「…………………ふぅーーーーーー。閉めるか」
既に時刻は深夜の十二時近く。
周囲に人の気配もないため、アストは洗い物をしてミーティアを閉めた。
(というか、本気で恐ろしかったな…………仮に本当にぶつかったとして、勝てたかどうか……無理だろうな~~~)
普段からあまりスキル、カクテルを使っていないアストは、大半の者たちが知らない切り札がある。
だが、その切り札を含めても、アルガドに明確に勝利出来るイメージが湧かなかった。
(予定より、早めに次の目的地を探した方が良さそうだな)
決して悪い関係になった訳ではない。
ただ……あまり良くない何かを感じたアストだった。
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