上 下
100 / 140

第100話 喜んではいけないが……

しおりを挟む
「バンデットジャッカルか」

咬合力……咬む力が強いハイエナ。
ランクはDとそこまで高くはないが、その特徴通り、咬まれるのは是非とも避けたい相手。

「半々で頼みますわ」

「了解」

数は六体とやや多く、数では圧倒的に負けている。
しかし、二人は一切慌てることなく己の得物を抜き、迫りくるバンデットジャッカルの急所に刃をぶち込む。

「ジャバっ!?」

「っ……」

「ジャ、ガァ……」

アストが振るうロングソードは一度も動きを止めることなく首を斬り落としていき、ヴァレアの細剣は容赦なくバンデットジャッカルたちの頭部を貫いていく。

「終わったようですね」

「そちらもな」

結果、二人は六体のバンデットジャッカルを二十秒と経たずに全滅させた。

「肉は食えないが、毛皮と牙や爪は使える。さっさと解体してしまおう」

「では、周囲の警戒を行っておきますわ」

「よろしく」

Dランクモンスターの素材となれば、一応それなりの値段で売却できるため、烈風竜の探索を優先する!!!! とは言わず、素直に周囲の警戒を始めた。

「随分と、一対多数の戦いに慣れている様ですね」

「行動スタイル的に、ソロで活動することが多いからな。もう慣れたものだ」

「……一応聞きますが、恐ろしいと思ったことは?」

「敵の位置を冷静に把握出来れば、そこまで恐ろしいとは思わない」

平然と答えるアストの言葉に、ヴァレアは現在一時的にパーティーを組んでる男が積み重ねてきた経験の重さを感じ取った。

(やはり、色々と普通ではありませんわね……だからこそ、頼もしいと感じる)

二人で烈風竜に挑む。
それがどれだけ困難なのか、勿論理解している。

だからこそ、良い意味で色々と普通ではないアストの存在は、この上なく頼もしいと感じていた。

「というか、それはヴァレアも同じじゃないのか?」

「以前、ダンジョン探索した際に、嫌というほど体験したわ。それもあって、それまで以上に一対多数の戦いに慣れたのよ」

「……もしかして、ソロでダンジョン探索したのか? それとも、モンスターパレードにでも遭遇したのか?」

一攫千金を狙える魔宮、ダンジョン。
そこでは理由は不明ではあるが、モンスターが何故か無限に生まれ、そして何故か宝箱という人の欲を引き付ける物も無限に生まれる……まさに魔宮と呼ぶに相応しい存在。

そんな魔宮の中で、時偶……いきなりモンスターが大量発生することがある。

その数は基本的に数十程度で収まることはなく、最低五十……百を越えるモンスターが一度に現れ、階層で活動しているモンスターに襲い掛かかる。

「浅い階層ならまだしも、それなりに深い階層を一人で探索する訳がないでしょう。本当に偶々モンスターパレードに遭遇してしまったのです……いえ、数はおおよそ三十半といったところだったので、正確にはモンスターパレードではないのかもしれませんが……とにかく、そういった事がありました」

「三十半、か。その時仲間は?」

「クランのメンバーと潜っていたので、私を含めて八人いました。とはいえ、二人が手負いの状態でしたので、即座に戦える面子は六人でしたね……本当に、狙いを定めた様な襲撃でした」

「まるで、ダンジョンが自分たちを殺しにきてるような感覚、だったか」

「えぇ、本当にその通りです。もしかして、あなたも同じような経験を?」

「そんなところだ」

アストもダンジョンという存在には、それなりに興味を持っていた。

そんな中、偶々寄った街にダンジョンがあり、そこで仲良くなった冒険者たちと組んで探索していたのだが……ヴァレアと同じく、メンバーの一人が負傷したタイミングで、十体以上のモンスターから襲撃を受けた。

「否定する人は当然いるだろうが、経験した者は皆同じ考えだと思う」

「気が合いますわね…………あなたの事ですから、どこかのパーティー、クランから誘いを受けたのではなくて?」

「確かに、そんな事もあった。ただ、俺がどういった冒険者なのかを知ってるから、大人しく引き下がってくれたよ、っと」

あれこれ話している間に、バンデットジャッカルの解体が終了。

肉や内臓を丁寧に解体する必要がなかったため、比較的早く終わった。

(……私は、この男を誘わずにいられるでしょうか)

現時点で、既に自分が在籍しているクランに加入しないか、と誘いたい気持ちがあった。

(なんとか、抑えませんとね)

意識を切り替えてその後も探索を続けるも、お目当てのモンスター、烈風竜と遭遇する事は出来ず……それらしい存在が他の同業者を襲撃する場面とも遭遇しなかった。


しかし、街に戻ってから共に夕食を食べていると……別のテーブルから、今日同業者である二人が烈風竜の襲撃によって死亡したという話が飛び込んできた。

(……可哀想ではあるが、少なくともヴァレアにとっては有難いニュースだな)

わざわざそれなりの距離を移動してきた時間が無駄にならずに済んだ。
それは二人にとって、やはり嬉しい情報だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...