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第95話 同じく惚れたから
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王都を出発した二人は馬車……を使わず、徒歩で移動していた。
何かしらの依頼を受けて馬車に乗って移動するという手段もあるが、そうなると他の冒険者たちと共に行動することになり……どう考えても問題に発展する未来しか見えない。
「……ねぇ、あなたは何故冒険者として活動しながらも、バーテンダーとして活動してるの?」
移動を始めて数時間、モンスターや盗賊と遭遇することもなかったため、ずっと無言の時間が続いていた。
そんな空気に耐え切れなくなったのか、ヴァレアの方からアストに話を振った。
「そもそもが逆なんだ。俺の本業はバーテンダーであって、冒険者は副業だ」
「そ、そうだったわね……それじゃあ、質問の内容を変えるわ。どうして、あなたは
バーテンダーになったの」
ヴァレアは独自に集めた情報から、アストは冒険者として十分に成功している部類である事を知っている。
だからこそ、何故特定の拠点で働かず、旅のバーテンダーといったスタイルで活動し続けているのか解らない。
「そうだな……あんたは、あの名刀に惚れたんだろ。もっと正確に言えば、刀という武器に惚れてるんだろ」
「そうね」
「俺も同じだ。特定のカクテルにではなく、カクテルという存在自体に惚れたんだ」
カクテルと一口に言っても、度数の低い物から高い物……甘い、苦い、重い、軽い……様々なカクテルが存在する。
カクテルを良く呑む者であっても、どんなカクテルでも好んで呑むという者は殆どいない。
しかし、アストはカクテルという存在に惚れており、好き嫌いすることはまずない。
「だからこそ、冒険者として活動はしてるが、本業はバーテンダーなんだ」
「……良い意味で、プライドを持ってるのね。けど、旅をしながら活動していては、固定の客を獲得は出来ないのではなくて?」
「副業としての活動だが、俺は冒険者としての活動を気に入っている。街から街へ、気ままに移るスタイルが俺には適してる。それはバーテンダーとしての仕事も同じだ」
「…………つまり、より多くの客と巡り合いたいと」
「そういう事です」
間違いなく、固く気高い芯を持って活動している。
勝負に負けて惚れた者を勝ち取られてしまった相手ではあるものの、アストが持つ芯を感じ取り…………まだ悔しさは残っているが、それでも名刀を勝ち取られた相手が、目の前の男で良かった。
そんな思いがほんの少し、芽生えた。
「では、今度は俺から。ヴァレアさんは、何故冒険者として活動をしてるんですか」
自分から質問した手前、アストからの質問に答えない訳にはいかない。
「……既に知っているかもしれませんが、私は元々貴族の令嬢でした」
「確か、武闘派の伯爵家、でしたね」
「えぇ、その通りよ。私も幼い頃から鍛錬を積んできたけど……貴族という立場上、やはり最後は貴族の妻という位置に収まる」
稀に女性が当主を務める場合もあるが、本当に稀も稀。
仮に女性騎士として前線に立ち続けても……やはりいずれは妻という位置に収まらなければならない。
「嫌だったのよ。特に、自分よりも弱い男性の妻になるのは」
(……この前の模擬戦? 一応俺が優勢という形で終わらせることが出来たけど、やっぱり技術力は並じゃなかった。幼い頃から頭一つ、二つ抜けた技術力を持ってれば、そう思うのも無理はないか)
それが貴族に生まれた女性の定めではないか!!! と口にする者もいるだろう。
平民たちからしても、貴族ならしっかり貴族としての役割を果たせよと言いたくなる。
「だから、家を出て冒険者になったと」
「そうよ。幸いにも、父様や兄様たちは応援してくれた」
「それは良かったですね。けど、異性から言い寄られるといった状況は、冒険者になっても変わらないのでは?」
「…………そう、ね。自分でこういった事を言うのはあれだけど、私は本当にモテるのだと、冒険者になってから嫌と言うほど解かったわ。同性にまで告白された時は心底驚いたわ」
「……まぁ、そういう人もいるでしょうね」
ヴァレアの容姿はただ美しいというだけではなく、凛とした美しさ。
男装すれば、そこら辺のイケメンすら嫉妬する男装麗人となる。
「それで、そういった人たちもそれまで通り捻じ伏せてきたと」
「えぇ、そうよ。あまり冒険者という存在を下に見ていたことはなかったけど、時折何故同じ貴族たちが冒険者たちを見下していたのか……あの時だけは解らなくなかったわ」
「気に入ったぜ、お前は俺の女にしてやるぜ~~~、ゲヘへへ~~~、みたいな事でも言われたのか?」
アストの言葉に、ヴァレアは大きなため息を吐きながら頷いた。
「もう少しこう、真剣に女性の気を引こうというまともな行動が出来ないのかと思ったわ」
「……冒険者は基本的に力の社会だからな。力があれば何をしても良いという訳ではないが、力がなかったころと比べて出来ることが格段に増えた。その錯覚が、彼らの判断を狂わせるんだろうな」
「………………偶に、全ての男性冒険者が、あなたみたいにまともな考えが出来る人ならと思うわ」
ヴァレアの言葉を受けて光栄だと思うと同時に、絶対にそれは無理だという考えが浮かんだ。
何かしらの依頼を受けて馬車に乗って移動するという手段もあるが、そうなると他の冒険者たちと共に行動することになり……どう考えても問題に発展する未来しか見えない。
「……ねぇ、あなたは何故冒険者として活動しながらも、バーテンダーとして活動してるの?」
移動を始めて数時間、モンスターや盗賊と遭遇することもなかったため、ずっと無言の時間が続いていた。
そんな空気に耐え切れなくなったのか、ヴァレアの方からアストに話を振った。
「そもそもが逆なんだ。俺の本業はバーテンダーであって、冒険者は副業だ」
「そ、そうだったわね……それじゃあ、質問の内容を変えるわ。どうして、あなたは
バーテンダーになったの」
ヴァレアは独自に集めた情報から、アストは冒険者として十分に成功している部類である事を知っている。
だからこそ、何故特定の拠点で働かず、旅のバーテンダーといったスタイルで活動し続けているのか解らない。
「そうだな……あんたは、あの名刀に惚れたんだろ。もっと正確に言えば、刀という武器に惚れてるんだろ」
「そうね」
「俺も同じだ。特定のカクテルにではなく、カクテルという存在自体に惚れたんだ」
カクテルと一口に言っても、度数の低い物から高い物……甘い、苦い、重い、軽い……様々なカクテルが存在する。
カクテルを良く呑む者であっても、どんなカクテルでも好んで呑むという者は殆どいない。
しかし、アストはカクテルという存在に惚れており、好き嫌いすることはまずない。
「だからこそ、冒険者として活動はしてるが、本業はバーテンダーなんだ」
「……良い意味で、プライドを持ってるのね。けど、旅をしながら活動していては、固定の客を獲得は出来ないのではなくて?」
「副業としての活動だが、俺は冒険者としての活動を気に入っている。街から街へ、気ままに移るスタイルが俺には適してる。それはバーテンダーとしての仕事も同じだ」
「…………つまり、より多くの客と巡り合いたいと」
「そういう事です」
間違いなく、固く気高い芯を持って活動している。
勝負に負けて惚れた者を勝ち取られてしまった相手ではあるものの、アストが持つ芯を感じ取り…………まだ悔しさは残っているが、それでも名刀を勝ち取られた相手が、目の前の男で良かった。
そんな思いがほんの少し、芽生えた。
「では、今度は俺から。ヴァレアさんは、何故冒険者として活動をしてるんですか」
自分から質問した手前、アストからの質問に答えない訳にはいかない。
「……既に知っているかもしれませんが、私は元々貴族の令嬢でした」
「確か、武闘派の伯爵家、でしたね」
「えぇ、その通りよ。私も幼い頃から鍛錬を積んできたけど……貴族という立場上、やはり最後は貴族の妻という位置に収まる」
稀に女性が当主を務める場合もあるが、本当に稀も稀。
仮に女性騎士として前線に立ち続けても……やはりいずれは妻という位置に収まらなければならない。
「嫌だったのよ。特に、自分よりも弱い男性の妻になるのは」
(……この前の模擬戦? 一応俺が優勢という形で終わらせることが出来たけど、やっぱり技術力は並じゃなかった。幼い頃から頭一つ、二つ抜けた技術力を持ってれば、そう思うのも無理はないか)
それが貴族に生まれた女性の定めではないか!!! と口にする者もいるだろう。
平民たちからしても、貴族ならしっかり貴族としての役割を果たせよと言いたくなる。
「だから、家を出て冒険者になったと」
「そうよ。幸いにも、父様や兄様たちは応援してくれた」
「それは良かったですね。けど、異性から言い寄られるといった状況は、冒険者になっても変わらないのでは?」
「…………そう、ね。自分でこういった事を言うのはあれだけど、私は本当にモテるのだと、冒険者になってから嫌と言うほど解かったわ。同性にまで告白された時は心底驚いたわ」
「……まぁ、そういう人もいるでしょうね」
ヴァレアの容姿はただ美しいというだけではなく、凛とした美しさ。
男装すれば、そこら辺のイケメンすら嫉妬する男装麗人となる。
「それで、そういった人たちもそれまで通り捻じ伏せてきたと」
「えぇ、そうよ。あまり冒険者という存在を下に見ていたことはなかったけど、時折何故同じ貴族たちが冒険者たちを見下していたのか……あの時だけは解らなくなかったわ」
「気に入ったぜ、お前は俺の女にしてやるぜ~~~、ゲヘへへ~~~、みたいな事でも言われたのか?」
アストの言葉に、ヴァレアは大きなため息を吐きながら頷いた。
「もう少しこう、真剣に女性の気を引こうというまともな行動が出来ないのかと思ったわ」
「……冒険者は基本的に力の社会だからな。力があれば何をしても良いという訳ではないが、力がなかったころと比べて出来ることが格段に増えた。その錯覚が、彼らの判断を狂わせるんだろうな」
「………………偶に、全ての男性冒険者が、あなたみたいにまともな考えが出来る人ならと思うわ」
ヴァレアの言葉を受けて光栄だと思うと同時に、絶対にそれは無理だという考えが浮かんだ。
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