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第85話 全員は、無理
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「ご友人の方ですか、パルクさん」
「あぁ、そうだ。この前話していた、吞み友達だ」
パルクの吞み友達。
つまり……次期当主の貴族である。
(……そこまで驚かなくなった自分自身に驚きだよな)
いつも以上にしっかりとした対応をしなければならない。
それは間違いないのだが、ここ最近で王子や国王といった、本来冒険者やバーテンダーとして活動してれば絶対に会わないような人物たちと出会ったため、本人が思ってる以上に耐性が付いていた。
「初めまして、店主」
「こちらこそ初めまして。パルクさんからお話は聞いております」
「むっ、パルク。いったいどんな事を店主に話したんだ」
「お前が良い奴だってことだけだよ」
本当か? と視線を向けられ、本当ですよと笑みを浮かべながら頷き返す。
「こちらがメニューになります」
パルクの友人、次期当主の男……レブロ・イストールはメニュー表の造りや記載されているメニューの量に驚くも、事前に友人から聞かされていたこともあり、特にアストに質問することなくカクテルと料理を注文。
「お待たせしました」
お通しを提供した後、最初に頼まれたカクテル……カルアミルクを二つ注文。
アルコールに強いレブロは好んで呑まないが、パルクから諸々の話を聞いており、一度店主の……アストが作るカクテルを呑んでみたいと思った。
「……久しぶりに呑んだが、優しいな」
「だろ。そこまで強くないかっらって、あまり呑んでなかったのが馬鹿らしいと思えたよ」
「そうだな…………店主」
「はい、なんでしょうか」
「先に礼を言わせてほしい。ありがとう」
短い感謝の言葉と同時に、レブロは頭を下げた。
その行為に、アストのレブロに対する評価は上がるが、できれば直ぐに頭を上げてほしい。
「私があの場に居たのは、本当に偶々です」
既に日は落ち、夜になっているとはいえ、まだ街を歩く住民はいる。
次期当主の男が頭を下げている……その先に自分がいるという光景は、あまり見られたくなかった。
「それでも、店主が俺の友を助けてくれたことに変わりはない」
「……分かりました。その感謝の気持ち、しかと受け取りました」
なので、さっさと頭を上げてくれ。
そんなアストの心の声が伝わったのか、レブロは直ぐに頭を上げた。
「アストは謙虚だよな~。お前ぐらいの歳なら、もっとその功績を自慢してもするもんだろ」
「今回に関しては、私はパルクさんのサポートをしただけですから」
「値千金のサポートだと思うんだけどな」
「…………個人的には、同世代の冒険者たちとも仲良くしたいと思ってるので」
それは紛れもなく、アストの本音だった。
パルクは伊達に歳を取っておらず、レブロも騎士として活躍していた時代を思い出し、何故アストがここまで謙虚なのか……その理由に納得。
「なるほどな。尚更店主のこう……精神的な強さ? が気になるところだが、一応納得は出来るな」
「店主も苦労されてきたのだな」
「これまで何回……何十回ぐらい喧嘩を売られて来たんだ?」
「そうですね…………………………申し訳ありません。十回を越えたあたりから、しっかりと数えてませんでした」
最低十回は喧嘩を売られてきた。
冒険者として活動してれば、同業者と喧嘩をすることは決して珍しくはない。
だが、些細な言い合いから喧嘩に発展したといった流れではなく、完全に負の感情から始まった喧嘩を十八で十回以上は経験してきた。
パルク、レブロの二人は冒険者として騎士として成功してきた部類であるため、その辛さが全く解らなくはなかった。
「正直、どうすべきかは迷いました。相手が自分の態度にどう感じるかは人それぞれなので、謙虚な態度で対応したとしても、それはそれで澄ましてんじゃねぇぞと、怒りを撒き散らしてくる人もいるので」
「そういう奴も、確かにいるな。じゃあどうしろってんだよ、ってなっちまわないか?」
「俺は出来れば、仲良くはしたいですけど、全員と仲良くなるのは不可能だと解ってるので、それはそれで仕方ないと思ってます」
諦めているのではなく、そういうものだと納得している。
その言葉から、レブロはパルクが言っていた本当に歳不相応な心を持つ若者という内容に本当に的確だと言わざるを得なかった。
「店主は……生き辛いと感じたことは、ないのか」
「生き辛い、ですか。そこまでそういった事を考えたことはありませんね。確かに同世代や先輩から面倒な絡まれ方をされても、一応力で対応することが出来るので」
謙虚である一方、自身の力に対する自信が全くないわけではない。
そんなアストを見て……是非とも、イストール家に欲しいという思いが湧き上がる。
(っ、いかんいかん。彼はパルクの恩人であり、弟の腕の仇を討つサポートをしてくれた……私にとっても恩人。彼が望まぬことを口にし、困らせてはならない)
レブロは湧き上がった思いを沈め、アストに伝えたかった本題に入る。
「あぁ、そうだ。この前話していた、吞み友達だ」
パルクの吞み友達。
つまり……次期当主の貴族である。
(……そこまで驚かなくなった自分自身に驚きだよな)
いつも以上にしっかりとした対応をしなければならない。
それは間違いないのだが、ここ最近で王子や国王といった、本来冒険者やバーテンダーとして活動してれば絶対に会わないような人物たちと出会ったため、本人が思ってる以上に耐性が付いていた。
「初めまして、店主」
「こちらこそ初めまして。パルクさんからお話は聞いております」
「むっ、パルク。いったいどんな事を店主に話したんだ」
「お前が良い奴だってことだけだよ」
本当か? と視線を向けられ、本当ですよと笑みを浮かべながら頷き返す。
「こちらがメニューになります」
パルクの友人、次期当主の男……レブロ・イストールはメニュー表の造りや記載されているメニューの量に驚くも、事前に友人から聞かされていたこともあり、特にアストに質問することなくカクテルと料理を注文。
「お待たせしました」
お通しを提供した後、最初に頼まれたカクテル……カルアミルクを二つ注文。
アルコールに強いレブロは好んで呑まないが、パルクから諸々の話を聞いており、一度店主の……アストが作るカクテルを呑んでみたいと思った。
「……久しぶりに呑んだが、優しいな」
「だろ。そこまで強くないかっらって、あまり呑んでなかったのが馬鹿らしいと思えたよ」
「そうだな…………店主」
「はい、なんでしょうか」
「先に礼を言わせてほしい。ありがとう」
短い感謝の言葉と同時に、レブロは頭を下げた。
その行為に、アストのレブロに対する評価は上がるが、できれば直ぐに頭を上げてほしい。
「私があの場に居たのは、本当に偶々です」
既に日は落ち、夜になっているとはいえ、まだ街を歩く住民はいる。
次期当主の男が頭を下げている……その先に自分がいるという光景は、あまり見られたくなかった。
「それでも、店主が俺の友を助けてくれたことに変わりはない」
「……分かりました。その感謝の気持ち、しかと受け取りました」
なので、さっさと頭を上げてくれ。
そんなアストの心の声が伝わったのか、レブロは直ぐに頭を上げた。
「アストは謙虚だよな~。お前ぐらいの歳なら、もっとその功績を自慢してもするもんだろ」
「今回に関しては、私はパルクさんのサポートをしただけですから」
「値千金のサポートだと思うんだけどな」
「…………個人的には、同世代の冒険者たちとも仲良くしたいと思ってるので」
それは紛れもなく、アストの本音だった。
パルクは伊達に歳を取っておらず、レブロも騎士として活躍していた時代を思い出し、何故アストがここまで謙虚なのか……その理由に納得。
「なるほどな。尚更店主のこう……精神的な強さ? が気になるところだが、一応納得は出来るな」
「店主も苦労されてきたのだな」
「これまで何回……何十回ぐらい喧嘩を売られて来たんだ?」
「そうですね…………………………申し訳ありません。十回を越えたあたりから、しっかりと数えてませんでした」
最低十回は喧嘩を売られてきた。
冒険者として活動してれば、同業者と喧嘩をすることは決して珍しくはない。
だが、些細な言い合いから喧嘩に発展したといった流れではなく、完全に負の感情から始まった喧嘩を十八で十回以上は経験してきた。
パルク、レブロの二人は冒険者として騎士として成功してきた部類であるため、その辛さが全く解らなくはなかった。
「正直、どうすべきかは迷いました。相手が自分の態度にどう感じるかは人それぞれなので、謙虚な態度で対応したとしても、それはそれで澄ましてんじゃねぇぞと、怒りを撒き散らしてくる人もいるので」
「そういう奴も、確かにいるな。じゃあどうしろってんだよ、ってなっちまわないか?」
「俺は出来れば、仲良くはしたいですけど、全員と仲良くなるのは不可能だと解ってるので、それはそれで仕方ないと思ってます」
諦めているのではなく、そういうものだと納得している。
その言葉から、レブロはパルクが言っていた本当に歳不相応な心を持つ若者という内容に本当に的確だと言わざるを得なかった。
「店主は……生き辛いと感じたことは、ないのか」
「生き辛い、ですか。そこまでそういった事を考えたことはありませんね。確かに同世代や先輩から面倒な絡まれ方をされても、一応力で対応することが出来るので」
謙虚である一方、自身の力に対する自信が全くないわけではない。
そんなアストを見て……是非とも、イストール家に欲しいという思いが湧き上がる。
(っ、いかんいかん。彼はパルクの恩人であり、弟の腕の仇を討つサポートをしてくれた……私にとっても恩人。彼が望まぬことを口にし、困らせてはならない)
レブロは湧き上がった思いを沈め、アストに伝えたかった本題に入る。
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