上 下
84 / 140

第84話 世界の真理

しおりを挟む
「「「「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」」」」」

アストとCランクの男……パルクがギルドに到着し、人肉大好きアイアンイーターの討伐を報告してから約二時間後、ギルドに併設されている酒場で宴会が行われた。

(……なんだか、少し前にもこんな感じで酒を作るんじゃなくて、呑む側に回ってたような)

ほんの少し前、アストは王都からなるべく近い場所に生息しているBランクモンスター……グリフォンを討伐した。
賞金を懸けられていた存在ということもあり、結果としてアストが討伐したことで宴会が行われた。

そして今回……まだアストの目標である漆黒石を樽一杯分採掘し終えてはいないものの、一旦考えることを止めて注がれるエールをどんどん呑み干していく。

「さすがバーテンダー、まだまだ余裕そうだな」

「全てのバーテンダー酒に強いわけではないと思いますけど……確かに、俺は強い方ではありますね。それより、ちゃんと呑んでますか、パルクさん」

「おぅよ。周りの奴らがどんどん注いでくれるからな……金を気にせず呑めるってのは、やっぱり良いもんだな」

「……カクテルを作って売る者がこんな事を言うのはあれかもしれませんけど、人の金で呑む酒が……一番美味いかもしれませんね」

この世界に転生する前から、何度も経験したことがある。

「はっはっは!!!! まさに、世界の真理ってやつだな」

「そうですね。ところでパルクさん、呑み友達に報告しに行かなくて良いんですか?」

「必要ねぇよ。そもそもギルドに伝えた時点で、自ずと伝わるだろ。なにより……わざわざ弟の腕の仇を討ってやったって俺から伝えるのは……ダサいだろ」

「……ロマンや漢といった部分を気にするのであれば、そうですね」

アストは、決してそのロマンや漢といった感情、考え方がダサいとは思わなかった。

「ありがとよ。まっ、そもそもな話……あいつは、誰かが倒さなきゃならなかった」

「偶々、パルクさんに勇気が溢れ出したから、と言いたいんですね」

「偶々……そうだな。と言いたいところだが、アスト……いや、店主。あんたあの店で出会いがあったからだ。だから、偶々勇気が出たって表現は違うかもな」

「……反応に困りますね」

頼んでもいないのに次々とテーブルに置かれる料理に手を付けながら、アストの表情には……苦い笑いが浮かんでいた。

「なんでだ? やっぱり、あのアイアンイーターは自分一人で倒してみたかったか?」

「そんな勇気、自分にはありませんよ。ただ、俺が背中を押してしまったと考えると……って、考えるのは駄目ですね。そう考えるのは、冒険者であるパルクさんに失礼でした」

「ふっふっふ、本当に可愛気が全くねぇぐらい優秀だな、お前は。本当に二十を越えてないのか?」

「えぇ、そうですね。まだまだ世間知らずな若造です」

冒険者は、基本的に自己責任。
パルクはアストと出会えて勇気が出た、振り絞れたことは偶然ではないと答えた。

大金を使い、使い捨てのマジックアイテムを購入し……人肉大好きアイアンイーターに挑んだ。
たとえそこで人肉大好きアイアンイーターに食い殺されても、運良く生き延びられたけど貯金がなくて宿を追い出されたとしても……そうなってもそれは全てパルクの自己責任。

何もアストが気にするところはない。

脅した訳でもなければ、茶化してその気にさせた訳でもない。

「俺はバーテンダーで、冒険者……それ以上の、何者でもない」

「そういうこった。まっ、店主は責任感が強そうだからな。色々考え込んでしまうかもしれないが、それを忘れてないなら、変に悩むことはないだろう」

「無茶言わないでくださいよ。まだまだ若造なんですから、これからまだまだ悩みまくりの人生ですよ」

「はっはっは!! 本当に悩んでる奴は、そんな事言わねぇよ」

こうしてこの日の宴会は終わり、人肉大好きアイアンイーターが討伐されたという情報は直ぐに広まり……翌日には再びコルバ鉱山に向かう冒険者たちが増えた。

「……昨日は割と勇気を出して、結果的に四人の命を助けたと思うんだけど……善行を積んだからって、そう簡単に運良くことは運ばないか」

当然、二日酔いにならず、鉱山で採掘を行っていたアストだったが……この日も鉱石を採掘出来ない訳ではないのだが、肝心の漆黒石が殆ど見つからなかった。

「もしかして、あのクソワームが食い荒らしてたのか?」

仮にそうだとして、やはり殺すサポートを行って良かったとは思うものの、だからといって全く何も解決しない。

「もうちょい掛かりそうだな~~」

樽の中を見るが……まだ半分も漆黒石が溜まっていなかった。

そして夜、夕食を食べ終えたアストは眠気が欠片もなかったため、適当な場所でミーティアを開店。

すると……数組の客が訪れ、帰った後、見覚えのある客と見覚えのない客が一緒にミーティアへ向かってきた。

「よぅ、店主。二人、いいか」

「えぇ、勿論ですよ。いらっしゃいませ」

一人はパルク。そしてもう一人は、大して特徴は聞いていなかったが、アストは直ぐに心当たりが浮かんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。 それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。 主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。 幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。 ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。 「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」 こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...