73 / 140
第73話 時間や場所
しおりを挟む
「おいおい、これ以上勧誘はしないんじゃなかったのか」
「……これほどの料理を食べて、我慢しろというのは無理な相談ではなくて?」
「ふふ、そうだな。からかって悪かった……俺も同感だ」
ようやく……ようやく腹が膨れてきた戦闘メイドたち。
マティアスも王子がそれで良いのか? といった様子で米と唐揚げ、漬物きゅうりを食べ続けた結果、残すことはなく完食した。
ただ、普段以上に限界を超えた量を食べてしまったため、もし今すぐ激しい運動を行えば、リバースしてしまう状態になっていた。
「褒めてくれるのは嬉しいですが、特に優れた技術が必要な料理ではありません。料理のスキルも、宮廷で仕事をしている一流シェフたちの方が上です」
「……マスターの口ぶりから、確かに嘘を言っている様には思えない。しかし、今食べた料理は人生の中で、確実にベスト五に入る美味しさだった」
「私はベスト三に入るかもしれませんね~~」
「その可能性も、無きにしも非ずだな。だからこそ、この美味しさの秘密が気になってしまう。勿論、無理に答えてほしいとは思っていない。バーテンダーであるマスターにとっては、重要な秘密であることも理解している」
「えっと…………正直なところ、本当に大したことはありませんよ。ただ、そうですね…………ちょっと違う例えになってしまいますが、皆さん……食材の色によって、目の前の料理を食べたいか食べたくないか決めてしまうことはありませんか」
あえて、あえてアストはここで青色を例として出さなかった。
何故なら……マティアスがおそらく普段の限界以上に食べてしまい、何かが切っ掛けでリバースしてしまう可能性があるため。
アストとしては、バーでリバースしてしまう客というのは、前世での経験上そこまで珍しいことではない。
ただ……王子という立場である者が、人前でリバースしてしまうのは、非常に不味い。
平民であって貴族間や王族間のあれこれに関して詳しくないアストだが、それはなんとなく理解出来る。
「うむ、匂いではなく、色で食欲が左右されることは、確かにある」
「おっしゃる通り、料理というのは食材以外の組み合わせなど以外にも、味に……食べる者の感覚に影響を与えることがあります」
「…………時間、ですか」
「その通りです」
戦闘メイドは、罪悪感という言葉を思い出し、時間という答えに辿り着いた。
「本来であれば、既に夕食を食べ終えている時間。しかし、夕食を食べ終えてから数時間が経過しており、小腹が空いてくる時間……そんな時間に食欲がそそられる料理を食べれば、本来の味以上の美味しさを感じることになるかと」
「……本当に喉が渇いている上代で水を飲むのと似ているか?」
「場所という関係性であれば、似ているかと」
深く、完璧に理解する事は出来ずとも、納得は出来た。
それでも、アストが提供した料理がどれも食事の手が止まらないほど美味しかった事実は、彼らにとって変わらない衝撃であった。
「料理とは、奥が深いですね……ところですアストさん、もしや……何か御悩み事でもございますか」
「っ、顔に出ていましたか?」
「本当に薄っすらとですが、僅かに」
メイドとは、最も気遣いが出来なければならない職業。
アストは確かに悩みを隠し、普段通りに接客を行っていたが、ほんの僅かな変化を戦闘メイドは見逃さなかった。
「実はですね」
隠すことでもない内容であるため、何があったのかを軽く説明。
「ベルダー殿ぉ……」
「もしやお知り合いでしょうか?」
「この王都で活動する戦闘を生業にする者であれば、彼に世話になる者は多い。腕は確か……間違いなく一流なのだが、偶にそういうところがあるのだ」
話を聞く限り、女性冒険者が悪い様には全く思えないため、騎士パワーや宮廷勤めメイドパワーなどを駆使してイシュドが目的の刀を購入出来る様に手配することは……出来ない。
マティアスも全く知らない女性冒険者より、敬意を好意を持つアストを何とかしてあげたいと思うが、敬意と好意を持っているからといって女性冒険者の頑張りを無視するような暴走をすることはなかった。
ただ、それでもどうにかして助けになりたい、という思いはあった。
「でしたら、Bランクモンスターと漆黒石の情報をアストさんに提供します」
「えっと……それは…………」
「話を聞く限り、直接討伐や採掘に同行しなければ、問題はない筈です。それに、これまでの冒険で手に入れた伝手を使うのは、冒険者にとって何も悪いことではないかと」
逃げ道を塞いだ、というのは語弊がある。
しかし、現在アストが抱えている一件に対して、マティアスが力を貸すのに理由が必要ないのは、間違いなかった。
「私としましても、あの者どもを捕えることに協力して頂いたアストさんに、是非正式なお礼が出来ればと思っていました」
お礼なら、先日ミーティアにこっそり訪れてくれた国王陛下にチップを頂いたよ……とは言えず、アストは苦笑いを浮かべながら、マティアスたちの助力を受けることにした。
「……これほどの料理を食べて、我慢しろというのは無理な相談ではなくて?」
「ふふ、そうだな。からかって悪かった……俺も同感だ」
ようやく……ようやく腹が膨れてきた戦闘メイドたち。
マティアスも王子がそれで良いのか? といった様子で米と唐揚げ、漬物きゅうりを食べ続けた結果、残すことはなく完食した。
ただ、普段以上に限界を超えた量を食べてしまったため、もし今すぐ激しい運動を行えば、リバースしてしまう状態になっていた。
「褒めてくれるのは嬉しいですが、特に優れた技術が必要な料理ではありません。料理のスキルも、宮廷で仕事をしている一流シェフたちの方が上です」
「……マスターの口ぶりから、確かに嘘を言っている様には思えない。しかし、今食べた料理は人生の中で、確実にベスト五に入る美味しさだった」
「私はベスト三に入るかもしれませんね~~」
「その可能性も、無きにしも非ずだな。だからこそ、この美味しさの秘密が気になってしまう。勿論、無理に答えてほしいとは思っていない。バーテンダーであるマスターにとっては、重要な秘密であることも理解している」
「えっと…………正直なところ、本当に大したことはありませんよ。ただ、そうですね…………ちょっと違う例えになってしまいますが、皆さん……食材の色によって、目の前の料理を食べたいか食べたくないか決めてしまうことはありませんか」
あえて、あえてアストはここで青色を例として出さなかった。
何故なら……マティアスがおそらく普段の限界以上に食べてしまい、何かが切っ掛けでリバースしてしまう可能性があるため。
アストとしては、バーでリバースしてしまう客というのは、前世での経験上そこまで珍しいことではない。
ただ……王子という立場である者が、人前でリバースしてしまうのは、非常に不味い。
平民であって貴族間や王族間のあれこれに関して詳しくないアストだが、それはなんとなく理解出来る。
「うむ、匂いではなく、色で食欲が左右されることは、確かにある」
「おっしゃる通り、料理というのは食材以外の組み合わせなど以外にも、味に……食べる者の感覚に影響を与えることがあります」
「…………時間、ですか」
「その通りです」
戦闘メイドは、罪悪感という言葉を思い出し、時間という答えに辿り着いた。
「本来であれば、既に夕食を食べ終えている時間。しかし、夕食を食べ終えてから数時間が経過しており、小腹が空いてくる時間……そんな時間に食欲がそそられる料理を食べれば、本来の味以上の美味しさを感じることになるかと」
「……本当に喉が渇いている上代で水を飲むのと似ているか?」
「場所という関係性であれば、似ているかと」
深く、完璧に理解する事は出来ずとも、納得は出来た。
それでも、アストが提供した料理がどれも食事の手が止まらないほど美味しかった事実は、彼らにとって変わらない衝撃であった。
「料理とは、奥が深いですね……ところですアストさん、もしや……何か御悩み事でもございますか」
「っ、顔に出ていましたか?」
「本当に薄っすらとですが、僅かに」
メイドとは、最も気遣いが出来なければならない職業。
アストは確かに悩みを隠し、普段通りに接客を行っていたが、ほんの僅かな変化を戦闘メイドは見逃さなかった。
「実はですね」
隠すことでもない内容であるため、何があったのかを軽く説明。
「ベルダー殿ぉ……」
「もしやお知り合いでしょうか?」
「この王都で活動する戦闘を生業にする者であれば、彼に世話になる者は多い。腕は確か……間違いなく一流なのだが、偶にそういうところがあるのだ」
話を聞く限り、女性冒険者が悪い様には全く思えないため、騎士パワーや宮廷勤めメイドパワーなどを駆使してイシュドが目的の刀を購入出来る様に手配することは……出来ない。
マティアスも全く知らない女性冒険者より、敬意を好意を持つアストを何とかしてあげたいと思うが、敬意と好意を持っているからといって女性冒険者の頑張りを無視するような暴走をすることはなかった。
ただ、それでもどうにかして助けになりたい、という思いはあった。
「でしたら、Bランクモンスターと漆黒石の情報をアストさんに提供します」
「えっと……それは…………」
「話を聞く限り、直接討伐や採掘に同行しなければ、問題はない筈です。それに、これまでの冒険で手に入れた伝手を使うのは、冒険者にとって何も悪いことではないかと」
逃げ道を塞いだ、というのは語弊がある。
しかし、現在アストが抱えている一件に対して、マティアスが力を貸すのに理由が必要ないのは、間違いなかった。
「私としましても、あの者どもを捕えることに協力して頂いたアストさんに、是非正式なお礼が出来ればと思っていました」
お礼なら、先日ミーティアにこっそり訪れてくれた国王陛下にチップを頂いたよ……とは言えず、アストは苦笑いを浮かべながら、マティアスたちの助力を受けることにした。
265
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!
月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの!
一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。
今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか?
※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる