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第71話 良い意味での

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「美味かったぜ、兄ちゃん! また来るぜ!!」

「ありがとうございます」

ベルダーの提案に乗ったアストはその日の夜…………とりあえず明日には出発しようと思いながらも、一旦王都から離れるということで、最後に店を開いていた。

(Bランクモンスターの素材に、漆黒石か…………公平な勝負になりそうだから、俺にも勝ち目はある、かな)

今回の勝負、仮に負けてしまったとしても、切り札的な武器である戦斧は購入出来るため、アストとしては負けてもそこまで問題ではない。

問題ではないが……それはそれとして、やはりショーケースに入っていたダンジョン産の刀は、欲しいという思いがある。

(あの人には申し訳ないが……本気で勝ちにいかせてもらう)

気合の入った顔をしながら食器を洗っていると、新しいお客さんがミーティアを訪れた。

「っ!!?? ……え、えっと、この間、ぶりですね」

「お疲れ様です、アストさん」

「「「お疲れ様でございます、アスト様」」」

訪れた新しい客というのは、アストが王都を訪れる切っ掛けとなった護衛対象のマティアス。
そしてマティアスのメイドである、戦闘も出来る女性。

加えて、護衛時にアストと同じく護衛として参加していた騎士と魔術師も一緒におり、マティアスの護衛としては万全であった。

「ど、どもう…………えっと、今日はその、食事を……という事で?」

「はい、その通りです。まだお酒を……カクテルを呑んで良いという年齢ではありませんが、それでもアストさんの店に訪れてみたくて」

「……ふふ、ありがとうございます。こちらが当店のメニュー表になります」

渡されたメニュー表を開き、内容を確認し……出来るメイドたちは、そのメニューの多さに驚くも……直ぐにアストが護衛の際に自分たちにも作ってくれた料理の数々を思い出す。

(あの時は、確かこの店を……ミーティア、だったか? を出していなかった。それを考えれば、これだけのメニューを作ることも不可能ではない……のか?)

(なんと、言いますか。本当に凄いですね。料理のことはあまり詳しくありませんが、これだけ多くの種類を作れるとなると……どう考えても、一流……プロと呼べる腕前がありますよね?)

本人は否定しても、騎士や魔術師たちはそう信じて疑わなかった。

「こちら、お通しの野菜スープになります。少しお熱いので、ご注意ください」

四人分のお通しがマティアスの前に置かれ、彼らはゆっくりと味わい……まだカクテルを、料理を味わっていなのに、お通しを口にしただけでこの店に来た価値があると思ってしまった。

「マティアス様、こちらの列に並んでいるメニューは、全てノンアルコール……アルコールが入っていないカクテル、通称モクテルになります」

「アルコールが入っていない……という事は、私でも呑める、ということですか!?」

「えぇ、勿論です」

アルコールは入っていないが、それでもカクテルを……モクテルを飲めると解り、ますますご機嫌になるマティアスだが、当然のことながらどれが良いのか解らない。

なので、結局アストのお勧めを注文することにした。

「…………アスト様」

「あの、様付は恥ずかしいと言うか恐れ多いので、以前と同じくアストと……もしくはこの場であれば、店主かマスターと読んでいただけると嬉しいです」

「むっ、そうか……では、マスター。一つ質問だ。この……バター醬油飯というのはいったいどんな料理なんだ?」

なんとなく……なんとなくではあるが、騎士の男はその名に惹かれてしまった。

「そうですね、いつ食べても美味しいことには変わらないと思いますが、こういった夜に食べると、良い意味での罪悪感を感じるかと」

「ほほぅ……良い意味での罪悪感、か……では、俺はこのバター醬油飯を頼もう」

「かしこまりました」

その後、魔術師はベーコンとチーズ、コーンが乗ったピザを、戦闘メイドはアヒージョを頼んだ。

そしてカクテルに関しては……マティアス以外の三人も、酔う訳にはいかないと一般的なカクテルは注文せず、マティアスと同じくモクテルを注文。

マティアスはオレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュースが混ぜ合わさったシンデレラ。

戦闘メイドは透き通る赤さが特徴的なモクテル、シャーリーテンプル。
材料はグレナデンシロップとジンジャーエール……そしてカットしたレモン。

騎士はすっきりとした飲み心地が特徴的なサラトガクーラー。
材料はシュガーシロップにジンジャーエール、そして生のライムを絞って香りづけ。

魔術師の女性はライムとミント、炭酸水を使用したノンアルコールモヒートを注文。

「お先に失礼します。ご注文のモクテルになります」

料理が完成するまでの間に全て作り終え、先に提供。
マティアスはテーブルの上に置かれた全てのモクテルを見て……新しい玩具を目にした子供の様にキラキラと目を輝かせた。
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