59 / 140
第59話 色々と資格たりえる
しおりを挟む
「安心してください、アストさん。本当に僕は、あなたの人生を縛るつもりはないので」
「お気遣い、感謝します」
人がその時、何を考えているのかを読むという事に関しては、王城で暮らし……そういった世界で生き続けているマティアスも負けていない。
(よ、良かったぁ……いや、やっぱり最終的にちょっとアウトな気がするけど……でも、ちゃんと俺の考えに気付いてくれる人なら、この話も広まることはないか)
光栄なことだというのは本当に解っていても、アストにとって心臓に悪い内容であったのは間違いなかった。
(というか、メイドさんや騎士の人が何もツッコまないってことは、既にマティアス様の考えを理解していたのか? …………なんで?)
平民が貴族の従者として仕えることはあるが、王族の従者として平民が選ばれることは、まずない。
それにもかかわらず、マティアスが自分の従者にしたい、という考えに対して彼女たちは一切咎めようとはしなかった。
ポーカーフェイスはなんとか保ててはいるものの、頭の中は何故という単語で一杯だった。
(マティアス様が納得するアドバイスをするだけあり、太芯を持っていますね)
アストが若干混乱している中、実力派メイドはアストが己の人生の目標を捨てることなく、変わらずその道を進もうとする精神に感嘆していた。
本人は何故? と疑問で頭が一杯ではあるが、貴族出身のメイドや騎士たちから見て、アストはとても礼儀作法が身に付いていた。
もしや自分たちと同じ貴族出身の冒険者……それか、貴族の隠し子なのではないか? と疑いはするが、事前にその辺りは調べているため、アストが本当に平民出身であることは解っている。
それでも、アストの礼儀正しい態度や言葉遣いを見ていると……平民であっても、構わないのでは? と思ってしまう。
加えて、実力派メイドたちはアストがこれまで達成してきた依頼や、討伐してきたモンスター、盗賊の情報などを入手している。
軽く調べれば、十八歳という年齢でCランクに到達するということは、スピード出世であり、将来有望株であることが窺える。
そして……アストの場合、冒険者として活動を始めてからBランクモンスターの討伐に関わった機会がかなり多い。
直近で言えばBランククラスまで成長したエイジグリズリーや、同族を食らう狼、リベルフなど。
一般的な冒険者からすれば、超不運だと断言する遭遇歴だが、アストはことごとくその不運から生き延びており……討伐に大きな貢献を果たしている。
そういった面も含めて、実力派メイドは、アストがマティアスの執事になることに、不満は一切なかった。
「今回は、就寝までの時間は短いですが、良ければアストさんが戦って来た強敵との話を聞かせてほしいです」
「私が今まで戦ってきた強敵について、ですか。かしこまりました」
アストはマティアスが何を考えているのか、直ぐに把握した。
(貴族は、家門によっては基本的に幼い頃から、進まなければならない人生が決まっている。だからこそ、平民の子供たちと比べて、どうしても大人びてしまう子が多いのは解っていたが……この方は、本当に凄いな)
第五王子のマティアスにとって、国王の座というのは縁のない話。
故に、国の為に将来は騎士となり、民を守る剣に……盾になるという未来が決まっており……マティアスはそれを受け入れている。
それが解ったアストは、なるべくマティアスの為になるように話を行った。
「…………そう、なんですね。アストさんでも、逃げるということがあるのですね」
「お恥ずかしながら、私の強さにも限界はありますので。それに、生き延びなければ次はありません」
「逃げるのも大事、そう言いたいという事ですね」
王族に向かって、失礼なアドバイスと思われる可能性が高い。
しかし、アストは既に進む道への覚悟が決まっているマティアスにだからこそ、その大事さを伝えたかった。
「……マティアス様は、騎士としての活動を始めれば、直ぐに人の上に立つ役職に就くかと思います。そうなった時、やはりマティアス様はそう簡単に部下を見捨てられないと思います」
「王族として……甘いのは、解っています」
「誰かを批判する訳ではありませんが、戦場という場で戦う者としては、冷酷な上司よりもよっぽど頼もしく、命を預けたいと思えます」
あなたの優しさ、甘さは決して悪いわけではないと伝え、話を戻す。
「ただ、それだけでは部下の命を助けられないこともあります。なので、どの様にして逃げるか。ただ逃走するだけではなく、迫る敵に対してどのような嫌がらせ、罠を仕掛けて妨害するか…………騎士として、王族としては恥を感じる行為なのかもしれません。しかし、ご自身の命を大事にしつつも、部下たちの命を粗末にしたくないという考えを貫くのであれば、そういった逃走の際のあれこれを考えるのも、一興かと」
「…………ありがとうございます、アストさん。私は……やはり、この甘さを捨てたくありません」
是非とも、アストが使った手段を教えてほしい、そう口にしたタイミングで、いつもマティアスが就寝している時間が訪れてしまい……その話は後日にお預けとなってしまった。
「お気遣い、感謝します」
人がその時、何を考えているのかを読むという事に関しては、王城で暮らし……そういった世界で生き続けているマティアスも負けていない。
(よ、良かったぁ……いや、やっぱり最終的にちょっとアウトな気がするけど……でも、ちゃんと俺の考えに気付いてくれる人なら、この話も広まることはないか)
光栄なことだというのは本当に解っていても、アストにとって心臓に悪い内容であったのは間違いなかった。
(というか、メイドさんや騎士の人が何もツッコまないってことは、既にマティアス様の考えを理解していたのか? …………なんで?)
平民が貴族の従者として仕えることはあるが、王族の従者として平民が選ばれることは、まずない。
それにもかかわらず、マティアスが自分の従者にしたい、という考えに対して彼女たちは一切咎めようとはしなかった。
ポーカーフェイスはなんとか保ててはいるものの、頭の中は何故という単語で一杯だった。
(マティアス様が納得するアドバイスをするだけあり、太芯を持っていますね)
アストが若干混乱している中、実力派メイドはアストが己の人生の目標を捨てることなく、変わらずその道を進もうとする精神に感嘆していた。
本人は何故? と疑問で頭が一杯ではあるが、貴族出身のメイドや騎士たちから見て、アストはとても礼儀作法が身に付いていた。
もしや自分たちと同じ貴族出身の冒険者……それか、貴族の隠し子なのではないか? と疑いはするが、事前にその辺りは調べているため、アストが本当に平民出身であることは解っている。
それでも、アストの礼儀正しい態度や言葉遣いを見ていると……平民であっても、構わないのでは? と思ってしまう。
加えて、実力派メイドたちはアストがこれまで達成してきた依頼や、討伐してきたモンスター、盗賊の情報などを入手している。
軽く調べれば、十八歳という年齢でCランクに到達するということは、スピード出世であり、将来有望株であることが窺える。
そして……アストの場合、冒険者として活動を始めてからBランクモンスターの討伐に関わった機会がかなり多い。
直近で言えばBランククラスまで成長したエイジグリズリーや、同族を食らう狼、リベルフなど。
一般的な冒険者からすれば、超不運だと断言する遭遇歴だが、アストはことごとくその不運から生き延びており……討伐に大きな貢献を果たしている。
そういった面も含めて、実力派メイドは、アストがマティアスの執事になることに、不満は一切なかった。
「今回は、就寝までの時間は短いですが、良ければアストさんが戦って来た強敵との話を聞かせてほしいです」
「私が今まで戦ってきた強敵について、ですか。かしこまりました」
アストはマティアスが何を考えているのか、直ぐに把握した。
(貴族は、家門によっては基本的に幼い頃から、進まなければならない人生が決まっている。だからこそ、平民の子供たちと比べて、どうしても大人びてしまう子が多いのは解っていたが……この方は、本当に凄いな)
第五王子のマティアスにとって、国王の座というのは縁のない話。
故に、国の為に将来は騎士となり、民を守る剣に……盾になるという未来が決まっており……マティアスはそれを受け入れている。
それが解ったアストは、なるべくマティアスの為になるように話を行った。
「…………そう、なんですね。アストさんでも、逃げるということがあるのですね」
「お恥ずかしながら、私の強さにも限界はありますので。それに、生き延びなければ次はありません」
「逃げるのも大事、そう言いたいという事ですね」
王族に向かって、失礼なアドバイスと思われる可能性が高い。
しかし、アストは既に進む道への覚悟が決まっているマティアスにだからこそ、その大事さを伝えたかった。
「……マティアス様は、騎士としての活動を始めれば、直ぐに人の上に立つ役職に就くかと思います。そうなった時、やはりマティアス様はそう簡単に部下を見捨てられないと思います」
「王族として……甘いのは、解っています」
「誰かを批判する訳ではありませんが、戦場という場で戦う者としては、冷酷な上司よりもよっぽど頼もしく、命を預けたいと思えます」
あなたの優しさ、甘さは決して悪いわけではないと伝え、話を戻す。
「ただ、それだけでは部下の命を助けられないこともあります。なので、どの様にして逃げるか。ただ逃走するだけではなく、迫る敵に対してどのような嫌がらせ、罠を仕掛けて妨害するか…………騎士として、王族としては恥を感じる行為なのかもしれません。しかし、ご自身の命を大事にしつつも、部下たちの命を粗末にしたくないという考えを貫くのであれば、そういった逃走の際のあれこれを考えるのも、一興かと」
「…………ありがとうございます、アストさん。私は……やはり、この甘さを捨てたくありません」
是非とも、アストが使った手段を教えてほしい、そう口にしたタイミングで、いつもマティアスが就寝している時間が訪れてしまい……その話は後日にお預けとなってしまった。
275
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!
月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの!
一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。
今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか?
※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる