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六十四話 その勝率は否定しない

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何はともあれ、クランドたちは討伐し終えたデットルティスの解体を始めた。

(……確実に、硬度が上がってる)

デットルティス……カマキリ系のモンスターの素材の中で一番重要なのは、やはりメインウェポンである鎌。

解体中、クランドは雄と雌の鎌に触れ、その変化を再度確認した。

(異性の頭を食べるだけで、全身を強化……しかも、一時的な強化ではなく、こうして倒し終えた後もそれが残ってる)

本当い恐ろしいパワーアップ方法だ。
そう思うと同時に、雌の冷静な判断力にも驚きを感じていた。

雌のデットルティスが登場するまで、クランドたちは雄と対峙していた。
その戦闘中、クランドは対デットルティスに集中していたということもあるが、雌の存在に気付けなかった。

討伐後、少し気を抜いた瞬間に飛んできた鋭い刃の様な殺気を感じ取り、ギリギリで反応することに成功。

(モンスターに仲間意識があるのか否か、その辺りはあまり詳しくないけど、雄と一緒に戦って俺たちを倒そうとせず、獲物が油断する瞬間狙っていた……加えて、個体特有のパワーアップも忘れない……本当に恐ろしい狩人だな)

何度だって思う。

無理に助けようとせず、相手が油断する瞬間を狙う判断力。
躊躇せずに同族の頭を食べ、パワーアップ。

拳に纏う岩を鋼に変化できなければ、中々倒し切れなかった。
そう思わずにはいられえない強さを感じる。

「クランド様、表情が険しいですよ」

「そうか?」

「えぇ、何かに恐怖している様な顔です」

「恐怖か……ちょっと、雌のデットルティスについて思い返してたんだ」

「クランド様が直接戦った方ですね。正直、予想以上の相手でした」

後方から戦闘を観ていたリーゼも、正直……なんだかんだでクランドが圧勝するのではと思っていた。

しかし、ふたを開けてみれば鎌の動きに慣れるまで、中々に良い勝負が繰り広げられた。

「私がソロで戦えば、勝率は七割から八割と言ったところでしょうか」

「……まっ、そんなところだろうな」

リーゼの自信過剰過ぎるのでは? とも思えるセリフを、クランドは特に否定しなかった。

偶々街中でリーゼを拾ってから従者にし、それからずっと生活を共にしている。
勿論、風邪などにならない限り、訓練を行う時は毎日一緒に体を動かし、何度も模擬戦を繰り返してきた。

身体能力といった基本的な武器に関しては、クランドの方が勝っている。
加えて、素手で戦う技術に関しては、同世代……二、三歳上の者たちを含めても抜きんでている。

だが、リーゼの身体能力も並ではない。
そして最大の武器は、多数の属性を扱う技術と遠距離攻撃の威力。
魔族という特徴を加味しても、魔法に関する腕と才能はそこら辺の天才を超えている。

また、こちらもクランドに一歩及ばないが、武器の扱いにも長けている。

「ですが、クランド様なら百度繰り返しても、百勝するのは間違いないかと」

「……俺が主だからって、下手に褒めることはないぞ」

「いえ、そういったつもりはありません」

リーゼの言葉に、ガリアが同意を示す。

「リーゼさんの言う通りだと思いますよ。途中から拳や脚に纏っていた岩を鋼に変化……その強度は、並みの刃では太刀打ちできないでしょう」

個人の力量によって変化する部分ではあるが、雄の頭を食べてパワーアップしたデットルティスの鎌を弾く強度……同じことが出来る者でも、同じ結果になるかは怪しいところ。

「クランドの日々の努力と才があったからこそ、手に入れた武器だと僕は思いますよ」

「俺も同意見だぜ! 武器や体に纏う属性を、岩から鋼に変化するのって、超難しいんだろ。それが出来るだけでもすげぇのに、最後は余裕を持って……でも、油断せず勝ってたしな」

「お前ら、褒め過ぎだ」

悪い気はしない。
悪い気はしないが……あまり褒められると、体がムズムズする。

「よし、終わったな」

解体終了後、軽く休息を取ってから街へ帰還。

目撃情報の地点まで走って向かったお陰で、時間に余裕はあったため、帰りはゆったりしたペースで戻る。
時間的にも夕食ギリギリ前に到着でき、ベストな時間と言えるだろう。

「依頼、完了しました」

一応今回のリーダーであるウルガラがデットルティスの鎌を受付嬢に渡し、依頼達成が受理された。

Dランクの冒険者たちが、Cランクモンスターのデットルティスを無事に討伐した。
この事実に、彼らと同じルーキーたちだけではなく、ベテラン冒険者たちやギルド職員たちまでもが興奮し、若干お祭り状態となっていた。

「お前ら、良くやったじゃねぇか!!!!」

「うっす! でも、雄を倒し終えた後に雌のデットルティスが現れたんで、マジでクランドたちと一緒に受けてなきゃヤバかったすよ」

「……えっ」

ウルガラの言葉に、ベテラン冒険者たちは一人残らず固まった。

デットルティスの詳しい情報を知っているギルド職員たちも、動揺に驚き固まった。

「そりゃ……本当なのか?」

「本当っすよ。いや~~、あんな戦いを間近で観れたのはある意味幸運だったっす。まっ、次遭遇する時はもっと強くなってからお願いしたいっすけどね」

いつも通り元気な表情で答えるウルガラだが、詳しい事情を知る者たちとしては、笑って済ませられる内容ではなかった。
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