上 下
32 / 92

三十二話 最後まで、闘志は消えていなかった

しおりを挟む
クランドがパーフェクトローナーストライクを放ったことで、絶対領域・ハンティングフィールドは解除された。

そして思いっきり殴り飛ばされたブラハムは、リングを超え………壁に激突。
壁に亀裂が走るほどの衝撃を受けたが、ブラハムは血を吐くだけで、そこからピクリとも動かなかった。

「……っ、試合終了! 勝者はクランド・ライガー!!!!」

クランドの勝利が審判によって宣言された。
普通なら、ここで大歓声や拍手の嵐が巻き起こるところ。

今大会、ブラハムが勝とうと、誰が勝とうともそれが当然だった。

しかし……今、観客たちは目の前で起こった内容を、冷静に受け入れられていなかった。

(えっと、拳ぐらい上げた方が良いか?)

審判は直ぐに医療班に声を掛け、ブラハムの治療を補助している。
なので、一先ずクランドは本当に自分が勝利したと証明する為、右拳を高らかに上げた。

すると……一人、二人、三人……波紋の様に拍手の波は広がり、やがて大歓声が起こった。

「……ふふ、やっぱり歓声を浴びるのは良いものだな」

観客たちに軽く頭を下げ、クランドはリングから去った。
そして事前に父親のオルガと約束していた場所で合流。

「お疲れ……と言う程、疲れてはいないか」

「そうですね。体力面では、特に疲れていません」

そう、体力にはまだまだ余裕がある。
しかし……ブラハムは途中から危機的状況に突入していたが、降参という選択肢を取ることはなかった。

状況を考えれば、降参という選択肢を取ってもおかしくない。
それでも、最後まで彼の眼から闘志が消えることはなかった。
その事実が更に恐ろしさを感じさせる。

「……あの試合で、俺は逃げました」

「ふむ。逃げた、か」

「はい。その通りです」

結果としては、クランドの勝利。
それはクランド自身も、それはそうだろうと認識している。

「確かに、お前は逃げたかもしれない。だが、あのブラハム・ダグレスに勝利した。それは胸を張って誇るべき内容だ」

どんな手を使ったにしろ、学生最強の男を倒したことに変わりはない。
それは紛れもない事実。

ここで胸を張らないのは、逆に相手にとって失礼になってしまう。
クランドも、それは理解していた。

「そうですね……堂々と、胸を張らせてもらいます」

「うん、そうするべきだ」

不意打ちに近い形で勝負を決めた事に対し、負い目は完全に消えた。
そんな中……美味い料理があると誘われ、クランドは大会のお疲れ様会的な集まりに参加することになった。

(……今更だが、俺が参加しても良いのか?)

お疲れ様会の開催は、大会が終わった日の翌日。
ちなみに……クランドの強烈な八撃を食らい、最後にパーフェクトローナーストライクを食らったブラハムは、試合後の表彰式に参加することが出来なかった。

勿論、彼は死んでいない。
彼の生まれつき強靭な体のお陰、瞬時に魔力操作で必要な場所に膨大な魔力を集めた事。

それらの強さが重なり、絶命に至ることはなかった。
とはいえ、一度意識は失った。

治療スタッフとして待機していた回復魔法使いたちのお陰で、既に体の回復は済んでいる。
一晩も寝れば、魔力も回復する。
ただ……ブラハムが目を覚ましたころには、既に表彰式は終了していた。

この件に関しては、特に怒りを持っておらず、クランドが試合前に零した謝罪だけが、ずっと気になっていた。

そしてお疲れ様会当日、クランドがゲストとして参加。
すると、大勢の参加者たちの視線が集まる。

(仕方ないのは解るが、あまりそういった視線でジロジロ見られるのは好きじゃないんだよな)

自分の外面、中身を探るような視線は、前世から今でも慣れない。
しかし、特別に招かれたこともあり「ジロジロと見んじゃねぇ!!!!」などと怒鳴りつけることは出来ない。

なので、誰も寄って来ない状況を利用し、美味い料理を食べることだけに集中しようと決めた。

「昨日ぶりだな」

「あっ、どうも。昨日ぶりですね」

数品の料理を皿に乗せたところで、一人の男子学生に声を掛けられた。
その学生とは……先日、クランドが思いっきりボコボコに下ブラハム・ダグレスだった。

「その、体はもう大丈夫なんですか」

「あぁ、大丈夫だ。大会の治療スタッフたちは優秀だからな。心臓や脳が潰れていない限り、傷か残ることもない」

骨はバキバキに折れており、内臓も損傷していたブラハムだったが、心臓や脳は無事だったため、問題無く復帰。
本当は安静の為にベッドで寝ていなければならないが、クランドがお疲れ様会に参加すると聞き、無理矢理参加。

「そうなんですね。それは良かったです」

絶対に勝つためとはいえ、クランドとしても少々やり過ぎた感じていたため、ブラハムが問題無く行動出来ることに、ほっと一安心。

「ところで、お前に一つ聞きたい事がある」

「? なんでしょうか」

「試合が始まる前……何故、俺に謝罪した」

意識が目覚めてから、こうして再開するまで、ブラハムはその事ばかり考えていた。
それでも、一向にそれらしい考えが思い浮かばない。

そんなブラハムの質問に、先日の試合に勝利した事実に対して胸を張るために、試合前に零した言葉について話し始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...