30 / 92
三十話 始まる前に謝罪
しおりを挟む
王都に到着し、数日後には学生による最強を決めるトーナメントが開催された。
大会は高等部だけではなく、中等部でも行われている。
その為、学園内の厳しい選抜戦を潜り抜けた者だけが出場出来るのだが……当然のように、アスクとアルネも出場していた。
結果、アスクは二年生ながらに、中等部の個人戦で優勝。
アルネは一年生ながらに、ベストエイトという好成績を収めた。
そして次男であるフーネスは……惜しくも、ベストフォーという結果になった。
死力を尽くした戦いとなり、勝負内容としては、どちらが勝ってもおかしくなかった。
フーネスはそんな他者からの慰めなど、邪魔としか思っていない。
負けたらそこまで。
一位以外の結果はいらない。
そんな思いが強く……準決勝で自分を負かした相手と戦う、昨年から兄を超える逸材だと囁かれている男の姿、ブラハム・ダグレスの強さを脳裏に焼き付けた。
そんな現学生最強である男は、決勝戦であるにもかかわらず、対戦相手を圧倒。
相手の学生がフーネスとの戦いで、大きくスタミナを消費していたことで、試合内容がそこまで良いものではなくなった……という見方も出来る。
怪我や消費した魔力はポーションでなんとか出来るが、スタミナは難しい。
スタミナを向上させるポーションはあるが、それを使用すれば、ドーピング扱いになってしまう。
(……できれば、万全の状態で戦いたかったものだ)
ブラハムの勝利に、観客たちは盛り上がっている。
そもそも見た目が良い。
身長は百八十センチを優に超えており、体は筋肉質。
紫色の髪はウルフカットで揃えられており、容姿はいかつい系のイケメン。
少々強面ではあるが、その絶対的な力を使って傲慢な振る舞いを行うこともないので、殆ど悪評が立つことはない。
そして、観客たちにとって、準決勝のフーネスと決勝に上がった最上級生が行った、勝つか負けるかのギリギリのバトルは確かに対好物。
しかし、いき過ぎていなければ、圧倒的な力で対戦相手を圧倒する内容も、また心が躍る。
(来年には、俺も騎士か)
今までの学園生活が脳裏に過り……小さく笑いながらリングを去ろうとしたブラハムだが、審判にまだリング上に留まっていてくれと頼まれる。
(いったい何があるのだ?)
言われるがままに、リング上に留まるブラハム。
すると、司会者が大きな声で、スペシャルマッチがこれから行われることを告げた。
勿論……ブラハム・ダグレスはそんな事知らされていない。
それでも、若干の期待はあった。
運営が自分のスペシャルマッチとして用意した相手であれば、これまでの試合より楽しめるのではないかと。
そして司会者の宣言から数秒後、スペシャルマッチの相手が通路から現れた。
現れた男は……自分と同じ、もしくは歳下であろう男だった。
(……誰だ?)
ブラハムはクランドほど情報が頭に入っていない訳ではないが、殆ど社交界に顔を出さないクランドの容姿を、全く覚えていなかった。
本当に誰なのだ?
そう思っている時、審判の説明を聞いてようやく思い出した。
(そうか、この男が)
槍の名家に生まれ、その将来を期待されていたが、槍のスキルを習得出来なかった男。
現在でもその事実は変わらず、クランドは一般的に考えれば、落ちこぼれの部類に当てはまるだろう。
しかし、社交界で歳上の同じく槍を扱う名家の令息と対峙し、その際に素手で圧倒したという話が残っている。
その話はブラハムの耳にも入っており、当時は面白い者がいると、興味を持ったのを覚えている。
そして司会者が長々と二人の強さや、勝負の予想などを口にする中、クランドは終始無言。
ブラハムも自分から話しかけるような性格ではないので、二人に無駄な会話はない。
ただ……試合が始まる直前、クランドの口が開いた。
「すまない」
直前になって零れた言葉に、ブラハムはいったいどういう意味なのか……その場では理解出来なかった。
「スペシャルマッチ……始めぇえええっ!!!!!」
「ハンティングフィールド」
開始と同時に呟かれた言葉。
全く聞き覚えがない単語に、一瞬思考がどういった意味なのか解き明かそうと働く。
次の瞬間、自身の周囲に結界が張られたことを察知。
「カバディ」
再び対戦相手のクランドが何かを呟いたと思った瞬間に、撃鉄の様な衝撃が襲い掛かる。
幸いにも大剣でガードすることには成功……したが、大剣を支える両腕全体に痺れが残った。
「ッ!?」
やはり、今まで戦ってきた学生とは比べ物にならない。
ブラハムが期待を膨らませた時には、次の衝撃が彼を襲う。
それは……見えない壁への激突。
もしかしたら結界系のスキルを発動したと察知はしていたが、あまりにも距離が短い。
それもその筈であり、クランドが発動した技は絶対領域・ハンティングフィールド。
縦六点五メートル、横八メートルの空間。
そう……カバディの選手が、基本的に自由に動ける空間。
発動した本人もその空間内でしか動けなくなるが、初見で何が起こったのか把握するには、非常に困難。
発動には魔力の九割を消費するという条件があるが、その効果は絶大。
クランドの匙加減によって多少は変化するが、上に逃げ切ることも不可能。
そんな逃げ場のない状況に追い込まれたブラハムに、次の一手が襲い掛かる。
大会は高等部だけではなく、中等部でも行われている。
その為、学園内の厳しい選抜戦を潜り抜けた者だけが出場出来るのだが……当然のように、アスクとアルネも出場していた。
結果、アスクは二年生ながらに、中等部の個人戦で優勝。
アルネは一年生ながらに、ベストエイトという好成績を収めた。
そして次男であるフーネスは……惜しくも、ベストフォーという結果になった。
死力を尽くした戦いとなり、勝負内容としては、どちらが勝ってもおかしくなかった。
フーネスはそんな他者からの慰めなど、邪魔としか思っていない。
負けたらそこまで。
一位以外の結果はいらない。
そんな思いが強く……準決勝で自分を負かした相手と戦う、昨年から兄を超える逸材だと囁かれている男の姿、ブラハム・ダグレスの強さを脳裏に焼き付けた。
そんな現学生最強である男は、決勝戦であるにもかかわらず、対戦相手を圧倒。
相手の学生がフーネスとの戦いで、大きくスタミナを消費していたことで、試合内容がそこまで良いものではなくなった……という見方も出来る。
怪我や消費した魔力はポーションでなんとか出来るが、スタミナは難しい。
スタミナを向上させるポーションはあるが、それを使用すれば、ドーピング扱いになってしまう。
(……できれば、万全の状態で戦いたかったものだ)
ブラハムの勝利に、観客たちは盛り上がっている。
そもそも見た目が良い。
身長は百八十センチを優に超えており、体は筋肉質。
紫色の髪はウルフカットで揃えられており、容姿はいかつい系のイケメン。
少々強面ではあるが、その絶対的な力を使って傲慢な振る舞いを行うこともないので、殆ど悪評が立つことはない。
そして、観客たちにとって、準決勝のフーネスと決勝に上がった最上級生が行った、勝つか負けるかのギリギリのバトルは確かに対好物。
しかし、いき過ぎていなければ、圧倒的な力で対戦相手を圧倒する内容も、また心が躍る。
(来年には、俺も騎士か)
今までの学園生活が脳裏に過り……小さく笑いながらリングを去ろうとしたブラハムだが、審判にまだリング上に留まっていてくれと頼まれる。
(いったい何があるのだ?)
言われるがままに、リング上に留まるブラハム。
すると、司会者が大きな声で、スペシャルマッチがこれから行われることを告げた。
勿論……ブラハム・ダグレスはそんな事知らされていない。
それでも、若干の期待はあった。
運営が自分のスペシャルマッチとして用意した相手であれば、これまでの試合より楽しめるのではないかと。
そして司会者の宣言から数秒後、スペシャルマッチの相手が通路から現れた。
現れた男は……自分と同じ、もしくは歳下であろう男だった。
(……誰だ?)
ブラハムはクランドほど情報が頭に入っていない訳ではないが、殆ど社交界に顔を出さないクランドの容姿を、全く覚えていなかった。
本当に誰なのだ?
そう思っている時、審判の説明を聞いてようやく思い出した。
(そうか、この男が)
槍の名家に生まれ、その将来を期待されていたが、槍のスキルを習得出来なかった男。
現在でもその事実は変わらず、クランドは一般的に考えれば、落ちこぼれの部類に当てはまるだろう。
しかし、社交界で歳上の同じく槍を扱う名家の令息と対峙し、その際に素手で圧倒したという話が残っている。
その話はブラハムの耳にも入っており、当時は面白い者がいると、興味を持ったのを覚えている。
そして司会者が長々と二人の強さや、勝負の予想などを口にする中、クランドは終始無言。
ブラハムも自分から話しかけるような性格ではないので、二人に無駄な会話はない。
ただ……試合が始まる直前、クランドの口が開いた。
「すまない」
直前になって零れた言葉に、ブラハムはいったいどういう意味なのか……その場では理解出来なかった。
「スペシャルマッチ……始めぇえええっ!!!!!」
「ハンティングフィールド」
開始と同時に呟かれた言葉。
全く聞き覚えがない単語に、一瞬思考がどういった意味なのか解き明かそうと働く。
次の瞬間、自身の周囲に結界が張られたことを察知。
「カバディ」
再び対戦相手のクランドが何かを呟いたと思った瞬間に、撃鉄の様な衝撃が襲い掛かる。
幸いにも大剣でガードすることには成功……したが、大剣を支える両腕全体に痺れが残った。
「ッ!?」
やはり、今まで戦ってきた学生とは比べ物にならない。
ブラハムが期待を膨らませた時には、次の衝撃が彼を襲う。
それは……見えない壁への激突。
もしかしたら結界系のスキルを発動したと察知はしていたが、あまりにも距離が短い。
それもその筈であり、クランドが発動した技は絶対領域・ハンティングフィールド。
縦六点五メートル、横八メートルの空間。
そう……カバディの選手が、基本的に自由に動ける空間。
発動した本人もその空間内でしか動けなくなるが、初見で何が起こったのか把握するには、非常に困難。
発動には魔力の九割を消費するという条件があるが、その効果は絶大。
クランドの匙加減によって多少は変化するが、上に逃げ切ることも不可能。
そんな逃げ場のない状況に追い込まれたブラハムに、次の一手が襲い掛かる。
11
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる