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二十七話 真面目過ぎるのは毒
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「はぁ、はぁ、はぁ」
「よし、休憩に入ろう」
「いえ! まだ、やれます!!」
コボルト上位種の群れに襲われた一件後、元々魔法や接近戦の鍛錬に余念がないリーゼだが、ここ最近は更に集中……もとい、無茶しようとしていた。
「まだやれるって、もう魔力がゼロに近いだろ」
リーゼの家庭教師であるロウスは呆れた表情で諫める。
魔力量がゼロになれば、大抵の者は気を失う。
一度クランドも調整をミスしてしまい、ぶっ倒れたことがある。
命の危機に瀕することはないが、その状態に慣れてしまうのは良くない。
「それなら、魔力回復のポーションを飲めば」
「馬鹿野郎。そんな無茶をしたところで、直ぐに実力は伸びはしない。てか、その方法はあんまり良くないって教えただろ」
魔力がなくなれば、魔力回復のポーションを飲んで回復すれば良い。
練習熱心な者たちは、一度はその考えに至る。
しかし、あまりそれを繰り返していると……いざという時に弊害が起こる。
肝心な時にポーションを飲んでも、魔力が回復しないという事態が起こってしまうため、全体的に訓練のために消費した魔力をポーションで補うのは薦められていない。
「っ! でも……」
「ふぅーーー、いつも冷静なお前らしくないな」
冷静で勉強熱心で、あまり手のかからない優等生。
それがリーゼに対する評価だった。
手のかからない生徒というのは、教師としては有難い存在。
しかし……目の前の生徒はまだ十代前半。
まだ子供らしいところがあるのだと感じ、それはそれで少し安心するロウス。
「……私は、弱いですから。もっと、強くならないといけないんです」
「その為に、毎日頑張ってるじゃねぇか」
今まで家庭教師として、幾人かの生徒たちを見てきた。
学生時代でも、後輩の面倒を見てきたロウスだが……リーゼはその中でもトップクラスで手のかからない、優秀な逸材。
お世辞ではなく、それが凄腕魔法使いのロウスが下したリーゼに対する評価。
「ダメなんです。今のままじゃ……足手纏いのままです」
「…………」
リーゼの主人であるクランドから報告を受けていたため、突然の変化に心底驚きはしない。
ロウスもクランドや、あの一件で護衛を担当していた騎士たちと同様に、今のリーゼの心境がある程度解っている。
(どうしたもんか……正直、早過ぎるんだよな)
いずれ、こういった事態になるとは予想していた。
ただ、予想よりも随分早い訪れ。
つまり……それだけクランドの成長が早いとも言える。
(確か、両手から鎖を放出したんだったか? 鎖って武器や、そういう拘束系の魔法をあるが……本当に面白い存在だよな……って、今はそういう事を考える時じゃないだろ!)
興味がやや別の方向に逸れそうになり、頭を左右に振って雑念を捨てる。
「リーゼ。クランド様がお前に、足手まといって言った訳じゃないだろ」
「……しかし、あの戦いでは私はクランド様の足を引っ張りました」
「つっても、相手はコボルトの上位種ばかりだったんだろ。リーダーの個体も、通常より大きかったって聞いてる。おそらく、身体能力だけじゃなくて気配を消す技術も高かったんだろ」
「だとしても! 命を懸けた戦いの場で、それは言い訳にしかなりません」
「…………」
我が生徒ながら、本当に優秀だと思ってしまうロウス。
しかし、今はその優秀さにニヤけてしまう場面ではない。
「正直、俺としては深く考え過ぎだと思ってる。今のお前は、間違いなく超優秀だ。魔族という種族を抜きにしても、その優秀さは変わらないだろう」
師が真剣に自分の事を評価してくれることに、嬉しさはある。
だが、今のリーゼにとって、それはそれでこれはこれ状態だった。
「お前なら、これからも伸び続ける筈だ。だからな……そんなに焦る必要はないんだよ」
「……私の目標は、クランド様の隣に立つことです。守られるようなことがあっては、駄目なんです」
その気持ちが解らんでもないロウスなのだが、現時点ではクランドが少々先に行き過ぎている。
まさに、同世代の天才が霞むような存在。
普通はそんな色んな意味で桁外れな存在と、無理に自分を比べてはならない。
「ったく……真面目なのも、そこまで行き過ぎると毒になるぞ」
のれん押し状態が続く中、ロウスにもリーゼの焦りを抑えられるであろう、秘策があった。
「お前みたいに頑張って強くならないとって焦り過ぎてる奴はな、大抵どっかで体壊すんだよ」
オーバーワークすれば、どんな超人でも何かしら悪い異変が起こってしまう。
それは前衛後衛関係無く怒るため、人族よりも体のつくり的に頑丈な魔族のリーゼも変わらない。
「そうなれば、主人であるクランド様が悲しむと思わないか」
「うっ!」
自分を大事に思ってくれている……というのは十分理解している為、容易にその光景が頭に浮かんでしまう。
「そうなれば、クランド様は俺があの時、無理矢理にでもリーゼに休ませていたら……って、食事が喉を通らないぐらい後悔するだろうな」
「そ、それは駄目です!!!」
従者として、それは見過ごせない内容である。
「だろ。なら、休むときはちゃんと休むしかないだろ。クランド様だって、休むのも鍛錬の内って言ってただろ」
「うぐっ……そう、ですね。クランド様に迷惑を掛けないように、しっかり休憩します」
なんとか焦りを消化出来そうで、ホッと一安心の師だった。
「よし、休憩に入ろう」
「いえ! まだ、やれます!!」
コボルト上位種の群れに襲われた一件後、元々魔法や接近戦の鍛錬に余念がないリーゼだが、ここ最近は更に集中……もとい、無茶しようとしていた。
「まだやれるって、もう魔力がゼロに近いだろ」
リーゼの家庭教師であるロウスは呆れた表情で諫める。
魔力量がゼロになれば、大抵の者は気を失う。
一度クランドも調整をミスしてしまい、ぶっ倒れたことがある。
命の危機に瀕することはないが、その状態に慣れてしまうのは良くない。
「それなら、魔力回復のポーションを飲めば」
「馬鹿野郎。そんな無茶をしたところで、直ぐに実力は伸びはしない。てか、その方法はあんまり良くないって教えただろ」
魔力がなくなれば、魔力回復のポーションを飲んで回復すれば良い。
練習熱心な者たちは、一度はその考えに至る。
しかし、あまりそれを繰り返していると……いざという時に弊害が起こる。
肝心な時にポーションを飲んでも、魔力が回復しないという事態が起こってしまうため、全体的に訓練のために消費した魔力をポーションで補うのは薦められていない。
「っ! でも……」
「ふぅーーー、いつも冷静なお前らしくないな」
冷静で勉強熱心で、あまり手のかからない優等生。
それがリーゼに対する評価だった。
手のかからない生徒というのは、教師としては有難い存在。
しかし……目の前の生徒はまだ十代前半。
まだ子供らしいところがあるのだと感じ、それはそれで少し安心するロウス。
「……私は、弱いですから。もっと、強くならないといけないんです」
「その為に、毎日頑張ってるじゃねぇか」
今まで家庭教師として、幾人かの生徒たちを見てきた。
学生時代でも、後輩の面倒を見てきたロウスだが……リーゼはその中でもトップクラスで手のかからない、優秀な逸材。
お世辞ではなく、それが凄腕魔法使いのロウスが下したリーゼに対する評価。
「ダメなんです。今のままじゃ……足手纏いのままです」
「…………」
リーゼの主人であるクランドから報告を受けていたため、突然の変化に心底驚きはしない。
ロウスもクランドや、あの一件で護衛を担当していた騎士たちと同様に、今のリーゼの心境がある程度解っている。
(どうしたもんか……正直、早過ぎるんだよな)
いずれ、こういった事態になるとは予想していた。
ただ、予想よりも随分早い訪れ。
つまり……それだけクランドの成長が早いとも言える。
(確か、両手から鎖を放出したんだったか? 鎖って武器や、そういう拘束系の魔法をあるが……本当に面白い存在だよな……って、今はそういう事を考える時じゃないだろ!)
興味がやや別の方向に逸れそうになり、頭を左右に振って雑念を捨てる。
「リーゼ。クランド様がお前に、足手まといって言った訳じゃないだろ」
「……しかし、あの戦いでは私はクランド様の足を引っ張りました」
「つっても、相手はコボルトの上位種ばかりだったんだろ。リーダーの個体も、通常より大きかったって聞いてる。おそらく、身体能力だけじゃなくて気配を消す技術も高かったんだろ」
「だとしても! 命を懸けた戦いの場で、それは言い訳にしかなりません」
「…………」
我が生徒ながら、本当に優秀だと思ってしまうロウス。
しかし、今はその優秀さにニヤけてしまう場面ではない。
「正直、俺としては深く考え過ぎだと思ってる。今のお前は、間違いなく超優秀だ。魔族という種族を抜きにしても、その優秀さは変わらないだろう」
師が真剣に自分の事を評価してくれることに、嬉しさはある。
だが、今のリーゼにとって、それはそれでこれはこれ状態だった。
「お前なら、これからも伸び続ける筈だ。だからな……そんなに焦る必要はないんだよ」
「……私の目標は、クランド様の隣に立つことです。守られるようなことがあっては、駄目なんです」
その気持ちが解らんでもないロウスなのだが、現時点ではクランドが少々先に行き過ぎている。
まさに、同世代の天才が霞むような存在。
普通はそんな色んな意味で桁外れな存在と、無理に自分を比べてはならない。
「ったく……真面目なのも、そこまで行き過ぎると毒になるぞ」
のれん押し状態が続く中、ロウスにもリーゼの焦りを抑えられるであろう、秘策があった。
「お前みたいに頑張って強くならないとって焦り過ぎてる奴はな、大抵どっかで体壊すんだよ」
オーバーワークすれば、どんな超人でも何かしら悪い異変が起こってしまう。
それは前衛後衛関係無く怒るため、人族よりも体のつくり的に頑丈な魔族のリーゼも変わらない。
「そうなれば、主人であるクランド様が悲しむと思わないか」
「うっ!」
自分を大事に思ってくれている……というのは十分理解している為、容易にその光景が頭に浮かんでしまう。
「そうなれば、クランド様は俺があの時、無理矢理にでもリーゼに休ませていたら……って、食事が喉を通らないぐらい後悔するだろうな」
「そ、それは駄目です!!!」
従者として、それは見過ごせない内容である。
「だろ。なら、休むときはちゃんと休むしかないだろ。クランド様だって、休むのも鍛錬の内って言ってただろ」
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