上 下
10 / 92

十話 今、伝えなければならない

しおりを挟む
「それは、本当なんですか」

「あぁ、そうだ」

現在、フーネスは父親であるオルガから、先日クランドが起こした一件について聞かされていた。

リック・スプースの方からクランドに絡み、散々馬鹿にした。
その件に関してクランドはひらりひらりと受け流し、大人の対応を取る。

しかし、事態はリックがフーネスのことまで馬鹿にしたことで一転。

クランドはリックの挑発に乗った。
そして結果は当然と言えば当然だが、クランドの圧勝で終わった。

(何でなんだ?)

クランドが自分を馬鹿にされた事に関してではなく、兄であり……あまり仲が良いとは言えないフーネスのことを馬鹿にされ、それに怒りという感情を持った。

「フーネス。まだ、お前には理解出来ないであろう」

「…………」

オルガの言う通り、まだ十歳の少年はクランドの行動に理解出来なかった。

「だがな、俺もお前ぐらいの歳であれば、おそらくクランドの行動を理解出来ない」

「っ!?」

完璧に思える父からその様な言葉を伝えられ、フーネスは若干困惑した。

「クランドが大人びているから……いや、そうだな……詳しく言葉にするのは難しいな」

あまり深く説明し過ぎると、またフーネスがクランドに対して劣等感を抱くかもしれないと思い、詳しく話すのを止めた。

「だが、クランドはお前が……兄がバカにされたからこそ、挑発に乗って圧倒した。それが何を意味するかは、解るだろ」

「……はい」

改めて言われずとも、解る。
理解出来ないが……クランドがその行動を起こした理由に関しては、解った。

「クランドに理由を問いたいかもしれないが、あいつはきっと家族だから、兄弟だからと答えると思うぞ」

「家族で……兄弟だから、ですか」

「そうだ」

その辺りでオルガとの会話は終わり、オルガの部屋から出た。

(家族だから、兄弟だから……)

オルガから伝えられた言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。
それでも、まだちゃんとした理由は解らない。

ただ……伝えなければならないことがある。
そう思い、必死でクランドを探した。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「……フーネス兄さん、大丈夫ですか?」

「お、おぅ。大丈夫、だ」

乱れた呼吸を整え、伝えなければならないと思った言葉を口にしようとする。

「っ……」

だが、中々その言葉を口に出せない。

(くそっ!! ふざけんな!!!!)

今ここで伝えられなければ、見えない壁を一生超えられない気がした。
それでも中々言葉が口から出てこない……次の瞬間、フーネスは両手で自分の頬を思いっきり叩いた。

「っ!?」

いきなりの奇行に、さすがのクランドも表情に驚きが現れた。

(えっ、何? 何をしたいんだ??)

戸惑っていると、フーネスが頬を赤くしながら、ようやく口を開いた。

「ありがとう」

「えっ……あぁ」

何に対して感謝を述べているのか、直ぐに理解したクランド……予想外の言葉を耳にしたことで、思わず頬が緩んでしまった。

「それだけだ!」

恥ずかしさに限界が訪れ、フーネスはその場から速足で去っていった。

(父さんが何か言ったのか? でも、あれはフーネスの意志だったような……何はともあれ、ここ最近で一番驚かされたかもな)

自分を嫌っていた筈のフーネスが、先日の件について感謝の言葉を伝えてきた。
その場にはクランド以外の者もおり、まさかの光景に全員驚きを隠せずにいた。

そして中には……フーネスの成長に感動し、ほんのりと涙を流す者もいた。

そんな事があってから数日後、クランドはいつも通りモンスターを相手に暴れ回っていた。

「カバディ!!!!」

ホブゴブリンの腕を掴み、力任せにぶん投げる。

「ギギャッ!!!」

もう一体のホブゴブリンが隙を突いて襲い掛かるが、瞬時に反応。

「カバディ」

キャントを口にしながら、右拳に岩を纏い……思いっきり正拳突きをぶち込んだ。

「あっ」

渾身の正拳突きは見事、一撃でホブゴブリンを倒すことに成功。
しかし、その威力があまりにも強く……体に大きな穴を空け、心臓だけではなく魔石も破壊してしまった。

「ちょっと強過ぎたか。いや、もっと威力を集中できたか?」

先程の攻撃に関して改善点を考えていると、護衛の一人が話しかけてきた。

「クランド様、先程の攻撃はいつの間に習得したのですか」

「えっと……二年ぐらい前? だったと思います。訓練で強打に関して問題無いことが確認出来たので、今日の実戦で使ってみました」

クランドの訓練光景を目にする者は少なく、属性の魔力を応用して身に纏うことが出来るのを、殆どの騎士が知らない。

「そ、そうなのですね……流石です」

早過ぎる技術の習得に、そんな単純な言葉しか出てこなかった。

普通に考えて、七歳という若さで習得出来る技術ではない。
ただ、騎士たちはクランドが色々な意味で普通ではないと知っているため「クランド様だから、出来てもおかしくない」と無理矢理納得出来てしまった。

騎士たちは、改めてクランドがどこまで登っていくのかが気になった。

「ッ!! クランド様、お下がりください」

ホブゴブリンの魔石回収を終えたタイミングで、新たなモンスターがクランドを標的に定めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...