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少年期[1006]貯め込んでた運を使った

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盗賊団を全滅させ、戻って来たゼルートたちはその場で商人たちとさよならはせず、そのまま次の街に着くまで同行した。

ゼルートにとって名声云々は比較的どうでも良いが……一度助けた者たちが、自分たちが離れたことによって死んだという話を後々になって聞きたくない。

当然、ずっと同行するつもりはないが、一旦体力や魔力、精神をリセット出来る街まで到着するまでは、共に行動すると判断。
商人としてはあのゼルートたちに護衛してもらえるのは非常に嬉しかった。

「あの、お代に関してですが」

ただ、英雄と呼ばれる活躍をしたゼルートに、その仲間たちに護衛してもらうとなれば、代金を支払わない訳にはいかなかった。

「金に関しては良いっすよ」

「いや、しかしそういう訳には」

それはそれでラッキーである。
だが、やはり最後までそうはいかないという姿勢は見せなければならない。

「……んじゃあ、商人さんは運を使ってしまったって思えば良いんじゃないっすか?」

「う、運ですか?」

「そうっすよ。これまで貯めてきた運を、あの場面で偶々俺たちが通りかかって助けた。その件で運を使ってしまった。そう思えば良いんじゃないっすかね」

運を使ってしまった。

確かに、何が売れて何を安く仕入れられるのか。
その辺りは商人としての情報収集力や嗅覚も大事だが……どうしても運という要素が混ざってくる。

(なるほど……それなら……致し方ない、のでしょうか?)

解らなくもない。
そう思えたものの、やはり完全に納得は出来ない。

「それに、俺ら盗賊団が溜め込んでたお宝で懐が暖まったんで」

「……そうですか。では、ご厚意に甘えさせていただきます」

そこまで言われては、これ以上引き下がるのも失礼というもの。

この後、道沿いの街に到着するまで、再び盗賊やモンスターに襲われることなく、到着。
そこで商人たちとは別れ、ゼルートたちは再びパルブン王国へ向けて足を進める。



「時間的に、今日はこの街で止まろう」

日が暮れるにはまだ早い時間ではあったが、ゼルートたちはシアトルという街に泊まることにした。

適当に街を散策し、夕食の時間になったと頃、従魔たちも専用の場所で食べられる酒場を選び、中に入る。

「とりあえずエールと……やっぱり、肉系の料理?」

「だな」

ある程度注文が決まり、店員を呼ぼうとしたタイミングで……意識が入り口の方に引き寄せられた。

それはゼルートだけではなく、ルウナやアレナも同じく酒場の入り口に……正確には、入り口から入って来た人物たちに意識を引き寄せられた。

「おっ!! やっぱりゼルートたちやんけ!!!」

「あんたは…………あれだ、銀獅子の皇のオーラス。それに、アルゼルガさんも」

「覚えていてくれたか、ゼルート。ルウナさんとアレナさんも久しぶりだな」

覚えていた。
銀獅子の皇という大手クランのトップと幹部。他にも数名。

知っている……ちゃんと覚えているが、三人はオーラスたちを見て思った。

なんでお前ら、ここにいるんだと。

三人が疑問を口にするよりも早く、空いている椅子を他から取り寄せ、オーラスは当然といった様子でゼルートたちのテーブルに入った。

「いやぁ~~、マジ戦争の時ぶりぐらいか?」

「そうだな。んで……なんでこっちに?」

「良いじゃねぇか~~。ちゃんと先輩らしく奢るから、な」

「まぁ、良いけど」

パーティーのリーダーであるゼルートが了承したこともあり、アルゼルガたちも同じテーブルに座った。

「それで、なんでオーラスさんたちがここに居んの? ホーリーパレスの攻略はどうしたんだよ」

「そっちはそっちで進めてんで。ただ、ちっと俺らに指名依頼が来てな」

「指名依頼? それで……わざわざこんな離れてる街に?」

「そうそう。あっ、姉ちゃん! とりあえず全員分のエール頼むわ!!」

「かしこまりました~~」

詳しい話をする前に、直ぐにエールが到着。

話し込む前に、まずは乾杯を決めた。
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