上 下
984 / 1,049
連載

少年期[1006]貯め込んでた運を使った

しおりを挟む
盗賊団を全滅させ、戻って来たゼルートたちはその場で商人たちとさよならはせず、そのまま次の街に着くまで同行した。

ゼルートにとって名声云々は比較的どうでも良いが……一度助けた者たちが、自分たちが離れたことによって死んだという話を後々になって聞きたくない。

当然、ずっと同行するつもりはないが、一旦体力や魔力、精神をリセット出来る街まで到着するまでは、共に行動すると判断。
商人としてはあのゼルートたちに護衛してもらえるのは非常に嬉しかった。

「あの、お代に関してですが」

ただ、英雄と呼ばれる活躍をしたゼルートに、その仲間たちに護衛してもらうとなれば、代金を支払わない訳にはいかなかった。

「金に関しては良いっすよ」

「いや、しかしそういう訳には」

それはそれでラッキーである。
だが、やはり最後までそうはいかないという姿勢は見せなければならない。

「……んじゃあ、商人さんは運を使ってしまったって思えば良いんじゃないっすか?」

「う、運ですか?」

「そうっすよ。これまで貯めてきた運を、あの場面で偶々俺たちが通りかかって助けた。その件で運を使ってしまった。そう思えば良いんじゃないっすかね」

運を使ってしまった。

確かに、何が売れて何を安く仕入れられるのか。
その辺りは商人としての情報収集力や嗅覚も大事だが……どうしても運という要素が混ざってくる。

(なるほど……それなら……致し方ない、のでしょうか?)

解らなくもない。
そう思えたものの、やはり完全に納得は出来ない。

「それに、俺ら盗賊団が溜め込んでたお宝で懐が暖まったんで」

「……そうですか。では、ご厚意に甘えさせていただきます」

そこまで言われては、これ以上引き下がるのも失礼というもの。

この後、道沿いの街に到着するまで、再び盗賊やモンスターに襲われることなく、到着。
そこで商人たちとは別れ、ゼルートたちは再びパルブン王国へ向けて足を進める。



「時間的に、今日はこの街で止まろう」

日が暮れるにはまだ早い時間ではあったが、ゼルートたちはシアトルという街に泊まることにした。

適当に街を散策し、夕食の時間になったと頃、従魔たちも専用の場所で食べられる酒場を選び、中に入る。

「とりあえずエールと……やっぱり、肉系の料理?」

「だな」

ある程度注文が決まり、店員を呼ぼうとしたタイミングで……意識が入り口の方に引き寄せられた。

それはゼルートだけではなく、ルウナやアレナも同じく酒場の入り口に……正確には、入り口から入って来た人物たちに意識を引き寄せられた。

「おっ!! やっぱりゼルートたちやんけ!!!」

「あんたは…………あれだ、銀獅子の皇のオーラス。それに、アルゼルガさんも」

「覚えていてくれたか、ゼルート。ルウナさんとアレナさんも久しぶりだな」

覚えていた。
銀獅子の皇という大手クランのトップと幹部。他にも数名。

知っている……ちゃんと覚えているが、三人はオーラスたちを見て思った。

なんでお前ら、ここにいるんだと。

三人が疑問を口にするよりも早く、空いている椅子を他から取り寄せ、オーラスは当然といった様子でゼルートたちのテーブルに入った。

「いやぁ~~、マジ戦争の時ぶりぐらいか?」

「そうだな。んで……なんでこっちに?」

「良いじゃねぇか~~。ちゃんと先輩らしく奢るから、な」

「まぁ、良いけど」

パーティーのリーダーであるゼルートが了承したこともあり、アルゼルガたちも同じテーブルに座った。

「それで、なんでオーラスさんたちがここに居んの? ホーリーパレスの攻略はどうしたんだよ」

「そっちはそっちで進めてんで。ただ、ちっと俺らに指名依頼が来てな」

「指名依頼? それで……わざわざこんな離れてる街に?」

「そうそう。あっ、姉ちゃん! とりあえず全員分のエール頼むわ!!」

「かしこまりました~~」

詳しい話をする前に、直ぐにエールが到着。

話し込む前に、まずは乾杯を決めた。
しおりを挟む
感想 683

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。