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兄の物語[91]後は己の体で
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「ストップ、ここまでにしよう。そろそろ、僕も限界だ」
「んだよ~~、ここからって流れだろ~」
バルガスとペトラ対、クライレットの軽い模擬戦が始まってから五分、結局最後まで二人の攻撃がクリーンヒットすることはなく、模擬戦は終了した。
「いやいや、さすがに僕も限界だからさ」
「バルガス、今回の模擬戦に関しては、特に勝敗を決めることに意味はない。それは解ってるでしょう」
集中力を高めたクライレットが、複数の相手からの攻撃にどこまで対処出来るか。
それを調べる為の模擬戦。
その為、それを理解しているからこそ、バルガスも本気で攻撃はしていなかった。
とはいえ、本気ではなかったものの、ペトラと共に二人がかりで攻撃を行ったにも拘らず、一撃もクリーンヒットを与えられなかったことに関しては、少し思うところがあった。
「それは解ってっけどよぉ」
「ふふ、分かったよバルガス。少し休憩したら、格闘戦に付き合うよ」
「おっ、マジかよ!!!」
格闘戦、という内容に対して、バルガスは一ミリもクライレットが自分の事を嘗めているとは思っていなかった。
寧ろ、技術力に関しては自分を上回っていると認めているため、寧ろ素手のクライレットと戦れるのは、それはそれで満足度が高い。
「全く……昇格試験に向けた調整ってことを忘れてないかしら」
「まぁまぁ、二人もそこまで激しく戦っちゃったりはしない筈だよ。それに、あまり溜め込み過ぎて、試験の時に変な爆発するよりも良いでしょ」
「それはそうだけど…………あまり戦り過ぎるようなら、無理矢理止めれば良い話よね」
「そうそう」
普通の冒険者であれば、ブレーキを踏むことを忘れてしまったクライレットとバルガスの戦いを止めることは出来ないが、パーティーメンバーである二人なら不可能ではない。
「ハッハッハっ!!!!! やっぱ最高だな、クライレット!!!!」
「褒めてくれるのは、嬉しいけど!! 模擬戦だってことを、忘れないで、ねっ!!!!」
スキルを使わない、魔力を使わない。
素の身体能力と技術だけの格闘戦。
そんな二人の戦いっぷりに、再び多くの同業者たちの視線が集まる。
(あのクライレットって奴、剣士じゃねぇのかよ)
(な、なんか……そこら辺の格闘家より、上手く、ない?)
本業顔負けの技術力で防御、回避、攻めを華麗に繰り返すクライレット。
何故、そこまで格闘戦が行えるのか……そう問われれば、間違いなく弟の助言のお陰だと答える。
「魔力がなくなって、武器が折れちゃったり、飛んでっちゃったりしたら、後は自分の体で戦うしかないじゃん」
当たり前と言えば当たり前。
しかし、普通は魔力が切れる前に、武器が限界を迎える前に戦いを終わらせるもの。
普通はそこまで手が回らないものだが、クライレットは学園に入学する前、入学してからもそこまで手を回して鍛えていた。
貴族の令息の中には、割と拳で殴り合うことに忌避感を持たない者もおり、素手同士での模擬戦相手に困ることはなかった。
(とはいえ、バルガスも強くなったし、そろそろ、この条件下だときつい、かな?)
模擬戦とはいえ、負けても良いかという気持ちはなく、全力で勝利を捥ぎ取ろうとするも…………今回は一手、バルガスの野性がクライレットの反応を上回った。
「俺の勝ち、で良いんだよな」
「あぁ、そうだよ…………どうしたんだい、そんな釈然としない顔をして」
「……クライレット、ちゃんと本気で戦ったか?」
先程の二対一の模擬戦、最終的に決着をつけることはなかったが、それでも戦況はクライレットの有利で終わったと言える。
そんなクライレットを相手に手刀の先を喉元に当てて勝利したとはいえ、どこか勝った気がしない。
「勿論、本気で……勝つ気で戦ったよ」
「そうか……まっ、さっきまで二対一で戦ってたんだし、疲れてんのは当然か」
そもそもスキルと魔力を使わないという条件下での模擬戦でもあったため、結果としてバルガスの勝利で終わったが、勝利した本人は自分の勝ちだとカウントしなかった。
「んだよ~~、ここからって流れだろ~」
バルガスとペトラ対、クライレットの軽い模擬戦が始まってから五分、結局最後まで二人の攻撃がクリーンヒットすることはなく、模擬戦は終了した。
「いやいや、さすがに僕も限界だからさ」
「バルガス、今回の模擬戦に関しては、特に勝敗を決めることに意味はない。それは解ってるでしょう」
集中力を高めたクライレットが、複数の相手からの攻撃にどこまで対処出来るか。
それを調べる為の模擬戦。
その為、それを理解しているからこそ、バルガスも本気で攻撃はしていなかった。
とはいえ、本気ではなかったものの、ペトラと共に二人がかりで攻撃を行ったにも拘らず、一撃もクリーンヒットを与えられなかったことに関しては、少し思うところがあった。
「それは解ってっけどよぉ」
「ふふ、分かったよバルガス。少し休憩したら、格闘戦に付き合うよ」
「おっ、マジかよ!!!」
格闘戦、という内容に対して、バルガスは一ミリもクライレットが自分の事を嘗めているとは思っていなかった。
寧ろ、技術力に関しては自分を上回っていると認めているため、寧ろ素手のクライレットと戦れるのは、それはそれで満足度が高い。
「全く……昇格試験に向けた調整ってことを忘れてないかしら」
「まぁまぁ、二人もそこまで激しく戦っちゃったりはしない筈だよ。それに、あまり溜め込み過ぎて、試験の時に変な爆発するよりも良いでしょ」
「それはそうだけど…………あまり戦り過ぎるようなら、無理矢理止めれば良い話よね」
「そうそう」
普通の冒険者であれば、ブレーキを踏むことを忘れてしまったクライレットとバルガスの戦いを止めることは出来ないが、パーティーメンバーである二人なら不可能ではない。
「ハッハッハっ!!!!! やっぱ最高だな、クライレット!!!!」
「褒めてくれるのは、嬉しいけど!! 模擬戦だってことを、忘れないで、ねっ!!!!」
スキルを使わない、魔力を使わない。
素の身体能力と技術だけの格闘戦。
そんな二人の戦いっぷりに、再び多くの同業者たちの視線が集まる。
(あのクライレットって奴、剣士じゃねぇのかよ)
(な、なんか……そこら辺の格闘家より、上手く、ない?)
本業顔負けの技術力で防御、回避、攻めを華麗に繰り返すクライレット。
何故、そこまで格闘戦が行えるのか……そう問われれば、間違いなく弟の助言のお陰だと答える。
「魔力がなくなって、武器が折れちゃったり、飛んでっちゃったりしたら、後は自分の体で戦うしかないじゃん」
当たり前と言えば当たり前。
しかし、普通は魔力が切れる前に、武器が限界を迎える前に戦いを終わらせるもの。
普通はそこまで手が回らないものだが、クライレットは学園に入学する前、入学してからもそこまで手を回して鍛えていた。
貴族の令息の中には、割と拳で殴り合うことに忌避感を持たない者もおり、素手同士での模擬戦相手に困ることはなかった。
(とはいえ、バルガスも強くなったし、そろそろ、この条件下だときつい、かな?)
模擬戦とはいえ、負けても良いかという気持ちはなく、全力で勝利を捥ぎ取ろうとするも…………今回は一手、バルガスの野性がクライレットの反応を上回った。
「俺の勝ち、で良いんだよな」
「あぁ、そうだよ…………どうしたんだい、そんな釈然としない顔をして」
「……クライレット、ちゃんと本気で戦ったか?」
先程の二対一の模擬戦、最終的に決着をつけることはなかったが、それでも戦況はクライレットの有利で終わったと言える。
そんなクライレットを相手に手刀の先を喉元に当てて勝利したとはいえ、どこか勝った気がしない。
「勿論、本気で……勝つ気で戦ったよ」
「そうか……まっ、さっきまで二対一で戦ってたんだし、疲れてんのは当然か」
そもそもスキルと魔力を使わないという条件下での模擬戦でもあったため、結果としてバルガスの勝利で終わったが、勝利した本人は自分の勝ちだとカウントしなかった。
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