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兄の物語[81]もう、待たない

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「変ね」

「何がだよ、ペトラ。臨時収入が入ってほくほくじゃねぇか」

アインツワイバーンを探し始めて数日後、まだ標的の影すら見つかっていないが、それでも三体のワイバーンを討伐し、その素材の殆どを売却したため、四人の懐には予想外の臨時収入が入ってきていた。

それに関してはペトラも嬉しい。
素直に嬉しいのだが……肝心のアインツワイバーンを見つけられてないこともあり、夕食時にはほくほくが顔が薄れていた。

「そうね。本当にほくほくよ。けど、アインツワイバーンの生息が確認されてたエリアで、ワイバーンが三体も生息してたというのを考えると……本当にアインツワイバーンが生息してるのか、怪しく思えて」

「そいつは……やべぇな。俺ら、アインツワイバーンをぶっ倒しにきたのによ」

バルガスの言う通り、四人にとって本当にアインツワイバーンが別の場所に移っていた場合、ヤバい。

正確には……非常に萎える。

クライレットたちがこれまで重ねてきた功績を考えれば、直ぐにギルドが他のBランク魔物を標的として用意し、そちらを討伐すれば四人に昇格試験を受ける権利を与える。

ここでアインツワイバーンが別のエリアに移動したという理由で討伐出来なかったとなれば、ギルドからの評価が落ちることはない……のだが、今クライレットたちはやる気に満ち溢れていた。

アインツワイバーンの討伐に成功すれば、ようやったBランクへの昇格試験を受けることが出来る。
元々実力的には昇格試験を受けられても問題無かったが、諸々を納得させるために功績を重ねてきた。
そういった大人の事情、冒険者同士の面倒な感情などが理解出来るペトラは納得していた。

他三人も仕方ないと受け入れていた。
そんな中、ようやく巡り回って来た大チャンス。
やる気に満ち溢れないわけがない。

にもかかわらず……戦うことが出来ず、チャンスが消えてしまったとなれば……がっつりテンションが上がってしまっていた分、激しく急落してしまう。

「バルガスの言う通り、それはヤバいと言うか嫌と言うか……ちょっとふざけるなって言いたくなるね」

フローラは最近ちょっと無茶をする場面が多く見られるが、それでもパーティーの脳筋枠ではない。

魔物が人間の事情に合わせるわけがないと、そんな事は解っている。
解っているが、それでも本当にそうなってしまうと……心の底からふざけるなと叫びたくなってしまう。

「まだそうだと決まった訳ではないわ。ただ、その可能性があるかもしれないというだけよ」

アインツワイバーンは群れない。
自身の縄張り意識というのも決して強くない。

アインツワイバーンの姿が確認され、実際に被害が出てから日にちが経ち過ぎてはいないが、ペトラの予想通り……既に別のエリアに移動している可能性は十分にある。

「けどよ~~、俺らわざわざアインツワイバーンを倒す為にここに来たんだぜ。そいつを倒したら、いよいよBランクの昇格試験を受けられるってのによ」

「私も予想が当たって欲しくないとは持ってるわよ。でも、覚悟しておいて損はないわ」

「……ねぇ、クライレット。もしペトラの言う通りアインツワイバーンが既に別の場所に移動してたら、どうする?」

「そうだね…………適当なBランクの魔物を倒して、ギルドには無理矢理納得してもらおうかな」

珍しく、珍しくクライレットの表情に僅かにではあるが、苛立ちが浮かんでいることに驚く三人。

ペトラと同様に、諸々を納得させる為に必要な事……それはクライレットも納得している。
ただ、謙虚なクライレットにも自信はある。

今の自分たちなら……自分なら、どんなBランクの魔物を倒せる自信がある。

「アインツワイバーンは、Bランクの中でもトップクラスの強さを持ってるんだろうね。でもさ、他のBランクの魔物も、世間一般では強敵であることには変わりないでしょ」

これ以上、待つつもりはない。

仲間たちがソロでワイバーンを倒す光景も観ており、クライレットは万が一の展開になれば……本気で無理矢理納得させるつもりだった。
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