925 / 1,026
連載
兄の物語[81]もう、待たない
しおりを挟む
「変ね」
「何がだよ、ペトラ。臨時収入が入ってほくほくじゃねぇか」
アインツワイバーンを探し始めて数日後、まだ標的の影すら見つかっていないが、それでも三体のワイバーンを討伐し、その素材の殆どを売却したため、四人の懐には予想外の臨時収入が入ってきていた。
それに関してはペトラも嬉しい。
素直に嬉しいのだが……肝心のアインツワイバーンを見つけられてないこともあり、夕食時にはほくほくが顔が薄れていた。
「そうね。本当にほくほくよ。けど、アインツワイバーンの生息が確認されてたエリアで、ワイバーンが三体も生息してたというのを考えると……本当にアインツワイバーンが生息してるのか、怪しく思えて」
「そいつは……やべぇな。俺ら、アインツワイバーンをぶっ倒しにきたのによ」
バルガスの言う通り、四人にとって本当にアインツワイバーンが別の場所に移っていた場合、ヤバい。
正確には……非常に萎える。
クライレットたちがこれまで重ねてきた功績を考えれば、直ぐにギルドが他のBランク魔物を標的として用意し、そちらを討伐すれば四人に昇格試験を受ける権利を与える。
ここでアインツワイバーンが別のエリアに移動したという理由で討伐出来なかったとなれば、ギルドからの評価が落ちることはない……のだが、今クライレットたちはやる気に満ち溢れていた。
アインツワイバーンの討伐に成功すれば、ようやったBランクへの昇格試験を受けることが出来る。
元々実力的には昇格試験を受けられても問題無かったが、諸々を納得させるために功績を重ねてきた。
そういった大人の事情、冒険者同士の面倒な感情などが理解出来るペトラは納得していた。
他三人も仕方ないと受け入れていた。
そんな中、ようやく巡り回って来た大チャンス。
やる気に満ち溢れないわけがない。
にもかかわらず……戦うことが出来ず、チャンスが消えてしまったとなれば……がっつりテンションが上がってしまっていた分、激しく急落してしまう。
「バルガスの言う通り、それはヤバいと言うか嫌と言うか……ちょっとふざけるなって言いたくなるね」
フローラは最近ちょっと無茶をする場面が多く見られるが、それでもパーティーの脳筋枠ではない。
魔物が人間の事情に合わせるわけがないと、そんな事は解っている。
解っているが、それでも本当にそうなってしまうと……心の底からふざけるなと叫びたくなってしまう。
「まだそうだと決まった訳ではないわ。ただ、その可能性があるかもしれないというだけよ」
アインツワイバーンは群れない。
自身の縄張り意識というのも決して強くない。
アインツワイバーンの姿が確認され、実際に被害が出てから日にちが経ち過ぎてはいないが、ペトラの予想通り……既に別のエリアに移動している可能性は十分にある。
「けどよ~~、俺らわざわざアインツワイバーンを倒す為にここに来たんだぜ。そいつを倒したら、いよいよBランクの昇格試験を受けられるってのによ」
「私も予想が当たって欲しくないとは持ってるわよ。でも、覚悟しておいて損はないわ」
「……ねぇ、クライレット。もしペトラの言う通りアインツワイバーンが既に別の場所に移動してたら、どうする?」
「そうだね…………適当なBランクの魔物を倒して、ギルドには無理矢理納得してもらおうかな」
珍しく、珍しくクライレットの表情に僅かにではあるが、苛立ちが浮かんでいることに驚く三人。
ペトラと同様に、諸々を納得させる為に必要な事……それはクライレットも納得している。
ただ、謙虚なクライレットにも自信はある。
今の自分たちなら……自分なら、どんなBランクの魔物を倒せる自信がある。
「アインツワイバーンは、Bランクの中でもトップクラスの強さを持ってるんだろうね。でもさ、他のBランクの魔物も、世間一般では強敵であることには変わりないでしょ」
これ以上、待つつもりはない。
仲間たちがソロでワイバーンを倒す光景も観ており、クライレットは万が一の展開になれば……本気で無理矢理納得させるつもりだった。
「何がだよ、ペトラ。臨時収入が入ってほくほくじゃねぇか」
アインツワイバーンを探し始めて数日後、まだ標的の影すら見つかっていないが、それでも三体のワイバーンを討伐し、その素材の殆どを売却したため、四人の懐には予想外の臨時収入が入ってきていた。
それに関してはペトラも嬉しい。
素直に嬉しいのだが……肝心のアインツワイバーンを見つけられてないこともあり、夕食時にはほくほくが顔が薄れていた。
「そうね。本当にほくほくよ。けど、アインツワイバーンの生息が確認されてたエリアで、ワイバーンが三体も生息してたというのを考えると……本当にアインツワイバーンが生息してるのか、怪しく思えて」
「そいつは……やべぇな。俺ら、アインツワイバーンをぶっ倒しにきたのによ」
バルガスの言う通り、四人にとって本当にアインツワイバーンが別の場所に移っていた場合、ヤバい。
正確には……非常に萎える。
クライレットたちがこれまで重ねてきた功績を考えれば、直ぐにギルドが他のBランク魔物を標的として用意し、そちらを討伐すれば四人に昇格試験を受ける権利を与える。
ここでアインツワイバーンが別のエリアに移動したという理由で討伐出来なかったとなれば、ギルドからの評価が落ちることはない……のだが、今クライレットたちはやる気に満ち溢れていた。
アインツワイバーンの討伐に成功すれば、ようやったBランクへの昇格試験を受けることが出来る。
元々実力的には昇格試験を受けられても問題無かったが、諸々を納得させるために功績を重ねてきた。
そういった大人の事情、冒険者同士の面倒な感情などが理解出来るペトラは納得していた。
他三人も仕方ないと受け入れていた。
そんな中、ようやく巡り回って来た大チャンス。
やる気に満ち溢れないわけがない。
にもかかわらず……戦うことが出来ず、チャンスが消えてしまったとなれば……がっつりテンションが上がってしまっていた分、激しく急落してしまう。
「バルガスの言う通り、それはヤバいと言うか嫌と言うか……ちょっとふざけるなって言いたくなるね」
フローラは最近ちょっと無茶をする場面が多く見られるが、それでもパーティーの脳筋枠ではない。
魔物が人間の事情に合わせるわけがないと、そんな事は解っている。
解っているが、それでも本当にそうなってしまうと……心の底からふざけるなと叫びたくなってしまう。
「まだそうだと決まった訳ではないわ。ただ、その可能性があるかもしれないというだけよ」
アインツワイバーンは群れない。
自身の縄張り意識というのも決して強くない。
アインツワイバーンの姿が確認され、実際に被害が出てから日にちが経ち過ぎてはいないが、ペトラの予想通り……既に別のエリアに移動している可能性は十分にある。
「けどよ~~、俺らわざわざアインツワイバーンを倒す為にここに来たんだぜ。そいつを倒したら、いよいよBランクの昇格試験を受けられるってのによ」
「私も予想が当たって欲しくないとは持ってるわよ。でも、覚悟しておいて損はないわ」
「……ねぇ、クライレット。もしペトラの言う通りアインツワイバーンが既に別の場所に移動してたら、どうする?」
「そうだね…………適当なBランクの魔物を倒して、ギルドには無理矢理納得してもらおうかな」
珍しく、珍しくクライレットの表情に僅かにではあるが、苛立ちが浮かんでいることに驚く三人。
ペトラと同様に、諸々を納得させる為に必要な事……それはクライレットも納得している。
ただ、謙虚なクライレットにも自信はある。
今の自分たちなら……自分なら、どんなBランクの魔物を倒せる自信がある。
「アインツワイバーンは、Bランクの中でもトップクラスの強さを持ってるんだろうね。でもさ、他のBランクの魔物も、世間一般では強敵であることには変わりないでしょ」
これ以上、待つつもりはない。
仲間たちがソロでワイバーンを倒す光景も観ており、クライレットは万が一の展開になれば……本気で無理矢理納得させるつもりだった。
31
お気に入りに追加
9,025
あなたにおすすめの小説
〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
辺境伯令嬢バルバラ・ザクセットは、第一王子セインの誕生パーティの場で婚約破棄を言い渡された。
だがその途端周囲がざわめき、空気が変わる。
父王も王妃も絶望にへたりこみ、セインの母第三側妃は彼の頬を打ち叱責した後、毒をもって自害する。
そしてバルバラは皇帝の代理人として、パーティ自体をチェイルト王家自体に対する裁判の場に変えるのだった。
番外編1……裁判となった事件の裏側を、その首謀者三人のうちの一人カイシャル・セルーメ視点であちこち移動しながら30年くらいのスパンで描いています。シリアス。
番外編2……マリウラ視点のその後。もう絶対に関わりにならないと思っていたはずの人々が何故か自分のところに相談しにやってくるという。お気楽話。
番外編3……辺境伯令嬢バルバラの動きを、彼女の本当の婚約者で護衛騎士のシェイデンの視点から見た話。番外1の少し後の部分も入ってます。
*カテゴリが恋愛にしてありますが本編においては恋愛要素は薄いです。
*むしろ恋愛は番外編の方に集中しました。
3/31
番外の番外「円盤太陽杯優勝者の供述」短期連載です。
恋愛大賞にひっかからなかったこともあり、カテゴリを変更しました。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
灯乃
ファンタジー
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
お願いされて王太子と婚約しましたが、公爵令嬢と結婚するから側室になれと言われました
如月ぐるぐる
ファンタジー
シオンは伯爵令嬢として学園を首席で卒業し、華々しく社交界デビューを果たしました。
その時に王太子に一目惚れされ、一方的に言い寄られてしまいましたが、王太子の言う事を伯爵家が断る事も出来ず、あれよあれよと婚約となりました。
「シオン、君は僕に相応しくないから婚約は破棄する。ザビーネ公爵令嬢と結婚する事にしたから、側室としてなら王宮に残る事を許そう」
今まで王宮で王太子妃としての教育を受け、イヤイヤながらも頑張ってこれたのはひとえに家族のためだったのです。
言い寄ってきた相手から破棄をするというのなら、それに付き合う必要などありません。
「婚約破棄……ですか。今まで努力をしてきましたが、心変わりをされたのなら仕方がありません。私は素直に身を引こうと思います」
「「え?」」
「それではフランツ王太子、ザビーネ様、どうぞお幸せに」
晴れ晴れとした気持ちで王宮を出るシオン。
婚約だけだったため身は清いまま、しかも王宮で王太子妃の仕事を勉強したため、どこへ行っても恥ずかしくない振る舞いも出来るようになっていました。
しかし王太子と公爵令嬢は困惑していました。
能力に優れたシオンに全ての仕事を押し付けて、王太子と公爵令嬢は遊び惚けるつもりだったのですから。
その頃、婚約破棄はシオンの知らない所で大騒ぎになっていました。
優れた能力を持つシオンを、王宮ならばと諦めていた人たちがこぞって獲得に動いたのです。
【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!
石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり!
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。
だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。
『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。
此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に
前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。