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兄の物語[58]半端ではない

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「水漣華です」

「これが……少々お待ちくださいませ」

ドーウルスに帰還したクライレットたちはその日に冒険者ギルドへ向かい、水漣華を提出。

直ぐに本物だと確認した職員は報奨金を用意。

「ついでに、売却したいモンスターの素材です」

「か、かしこまりました!!」

水漣華が咲いていた池? に到着するまでに魔物と交戦しており、当然の様に帰り道でも何度か襲われていた。
そして水漣華を除けば、一番の目玉はアクアヴァイパーの素材。

蛇系の魔物の中ではそれなりに珍しい個体であり、Cランク魔物ではあるが、それなりに良い値段が付いた。

「お待たせしました、こちらが買取金額になります」

「どうも」

ささっと買取金をしまい、クライレットたちは早歩きでギルドから出た。
その後、事前に予定した通り、普段使っている酒場ではなく、事前にリサーチしていたそれなりに良い料理店へと向かい、即刻料理を注文。

普段は行儀よく食べているペトラも、料理が来るなりナイフとフォークにを手を付け、食べて食べて食べまくる。

道中、アクアヴァイパーの肉などを食べており、空腹で空腹で死にそうといった状況ではなかったが、それでも疲労感は溜まっていた。

「ここの、店も、中々、美味いな」

「えぇ、そうね。また、来るのも、ありね」

「そういえば、アクアヴァイパーの素材、結構高く、売れたね」

「そうだね。厄介な力を、持ってるだけ、あって、本当に良い値段で、買い取ってもらえたよ」

食べながら喋るのは非常に行儀よくなのだが、今の四人はとにかく食べたかった。

バルガスはいつも通り、腹八分目など気にせず食べ……クライレットとフローラも普段から良く食べる方ではあるが、今回はリミッターを外していた。

そしてペトラも……今回は食べ過ぎて腹がぽっこりと膨れてしまうことなど気にせず、食べて食べて食べまくった。


「っぷは~~~~~~!!!! あぁ~~~~、食った食った!! 超美味かったな」

「あぁ、そうだね。本当に美味しかったよ……ただ、ちょっと食べ過ぎたね」

普段から食べる量を抑えている訳ではないが、クライレットは完全に腹八分目を越えたと言っても過言ではないほど食べた。

「ん~~~、幸せ~~~~。このまま寝ちゃいた~~~い」

「フローラ、その気持ちは解らなくもないけど、寝るのは宿屋に戻ってからにしなさい。それにしても……ふぅ~~。クライレットの言う通り、本当に食べ過ぎてしまったわね」

金の心配はしていない。
大量に持ち帰った魔物の買取金の大半が消えてしまうが、水漣華の採集依頼で得た報酬金まで使うことにはならない。

「ペトラにしちゃあ、珍しくがつがつ食ってたな」

「そうね……水中戦で思ったより削れてたのかもしれないわね。でも、削られ具合はクライレットの方が上かしら?」

「削られたかどうかは解らないけど、そうだね…………あれほどスリルがある逃走劇? は、本当に久しぶりだったね」

背後から水弾、水槍が連続で放たれ、水中という事もあって地上ほど上手く躱すことが出来ず、最後の最後は特大の水弾が放たれた。

何とか両足に風の魔力を盛大に纏い、思いっきり蹴ることで無事に地上へ戻ることが出来たが、完全に相殺しきることは出来なかった。

(水中の中で脚に風の魔力を纏い、蹴りながら移動する感覚は覚えたけど……だからといって、もう一回やりたいとは思わないね)

今回のアクアヴァイパーからの逃走劇は、文字通りスリルが半端ではなく、クライレットにはそのスリルを楽しむ余裕など全くなかった。

「クライレットがそこまで言うスリルか……ちっと気になるな」

「バルガス、今回ばかりは真似しようなんて思わない方が良いよ。改めて分かったけど、普段行っている地上での動きが出来ない状況は、とても不安感や焦り、危機感が大きくなる。地上で感じるスリルとは全くの別物だよ」

いつかはバルガスも水中で思いっきり戦う日が来るかもしれないが、とりあえずクライレットは今ここで忠告しておいた。

それほどまでに、今回の依頼は邪剣を持ったリザードマンジェネラルとの戦い以上に、危険度が高かった。
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