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兄の物語[52]戦闘狂になってはないよ?

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「ペトラ、そろそろか? もう結構歩いたよな」

「そうね。そろそろだと思うわ」

ドーウルスから出発して既に二日が経過していた。

クライレットたちにとって、ドーウルス周辺の森、山に出現する魔物の中にはまだ彼らが手に負えないほどの力を持つ個体がいるため、あまり走って移動するのは得策ではない。

目的地に到着するまでに時間はかかるが、それでも折角のBランク昇格に繋がるギルドから提案された依頼。
ここで焦って失敗、もしくは誰かが欠けるなどといったミス、悲劇は絶対に避けたい。

「今回はどうなるかなぁ……Bランクの魔物に遭遇するかな」

「……フローラ、もしかしてバルガスが原因の病気にでもかかった?」

「おい待てペトラ、それどういう事だよ。なんか……良く解んねぇけど、絶対に俺のこと馬鹿にしただろ」

「してないわよ」

クライレットたち四人であれば、Bランクの魔物であれば……おそらく倒せる。
しかし、ペトラとしては積極的に遭遇はしたくない。

「いや、あれだよ。基本的に私もペトラと同じだよ。でも、ここ最近はいつも以上に訓練も頑張ってたから、どれぐらい成果か出るか試したくなってさ」

ハーフドワーフであるフローラの役目は、大盾を使って仲間を守ること。

加えて、相手の攻撃を耐え切った瞬間に戦斧を叩き込んでダメージを与えるのも、役目の一つ。
パーティー内ではクライレットとバルガスというアタッカーが存在するが、場合によってはクライレットが後方に下がってメイジとしての役割を担うこともある。

今よりも更に先へと考えた場合、やはり攻撃への参加は避けられないと改めて認識し、訓練に力を入れていた。

「私の攻撃がBランクの魔物にがっつり効くとは思ってないけど、それでもBランククラスの魔物じゃないと、本当に強くなってるのかあまり実感できなくて」

「それは、そうかもしれないわね」

ドーウルスで活動する前から、フローラはDランクの魔物を相手に余裕で勝てるだけの実力を持っていた。
相手がCランクでも魔物によるが、時間を掛ければ殆どのCランク魔物を倒せるだけの戦闘力を持っていた。

だが、Bランクからは文字通り格が違う。

ドーウルスで活動するようになってから強くなったのは間違ない。
それでも一人でBランク魔物を相手に出来る自信はないが……試したいという気持ちは持てるようになった。

「ペトラ~~~。別にあれじゃねぇか、フローラも一人で戦いたいって言ってる訳じゃねぇんだぜ?」

「解ってるわよ……けど、二人とも。私とクライレットが池に潜っている間にBランクの魔物が襲ってきたら、直ぐに声を掛けるのよ」

「声を掛ける余裕があると良いんだけどな」

どうせならフローラと二人で戦ってみたい、という欲が零れている訳ではない。
これまで何度かBランクの魔物と戦ったことがあるからこそ、本当にその余裕があるか心配だった。

「僕達もなるべく早く戻るよ」

「……情けねぇが、そうしてくれっと助かるぜ」

ようやく、四人は目的の池に到着した。

「…………なぁ、池じゃねぇよな」

「そうね。でも……湖と呼ぶには少し小さいのよね」

目的地である池の広さにぶつくさと文句を言いながら服を脱いでいくペトラ。

普段のペトラからは考えられない非常識な行動……ではあるが、事前に服の下に水着を着ていたことを知っているクライレットとバルガスは特に驚くことはなかった。

「ふぅ。それじゃあ、バルガス。フローラ、少しの間頼むよ」

「バルガス、あんまりフローラを困らせないでよね」

海パン姿、ビキニ姿になった二人。
密かに増えている二人のファンからすれば鼻血、垂涎ものの光景ではあるが……この場には人ではなく、彼らを餌としか思っていない魔物しかいない。

「へいへい、分かってるって。さっさと行ってこい」

「そっちも気を付けてね」

二人に見送られ、クライレットとペトラは池の水の冷たさを少しだけ感じながらも、特殊な水着のお陰で対して苦しむことなく目的の水漣華を探し始めた。
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