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兄の物語[35]バカは黙ってろ

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(ダン君、か……ちょっと会ってみるのが楽しみだね)

話を聞く限り、ちょっとやんちゃで家族のことが関わると、自制が効かない。
そこに関しては、それなりに共感出来る。

冒険者の本文を忘れて他のことを優先してしまったという話はあれだが、それが一度完全にプライドをバキバキのボキボキに折って砕く機会になった。

今の彼は……そういった忘れてしまいとおもえるほどの悔しい過去を乗り越えた。

(きっと、芯が太く強い人なんだろうな……ドーウルスにいる間に、一度は会ってみたいな)

テックたちは問題になるのではないか、いきなり勝負を挑んでくるのではないかと心配していた。

本人からすれば、真正面から正々堂々と……それなりの態度で申し込んでくれるのであれば、特に断る理由はない。
そう思いながら……宿へと戻り、その日は沼に沈むように速攻で夢の中へ旅立った。


邪剣を持ち、同族殺しを行ったリザードマンジェネラルを倒してから数日後、クライレットたちの元に一つの指名依頼がきた。

「剥製、ですか」

「はい、そうです。期限は三か月ほどで、こちらの三体を所望してるようです」

受付嬢がテーブルに置いた紙には、リザードマン、フォレストリザード、グラッシュバッファー……Cランクの魔物名前が書かれていた。

「三対ともCランクのモンスターね。こいつらの剝製…………」

「ん? 何悩んでんだよ。受けようぜ。報酬額だって超良いじゃん」

「バカは黙ってなさい」

「うぉい、罵倒がド直球過ぎるだろう」

「自覚があるなら、本当にちょっと黙ってなさい」

「…………」

目がガチだと直ぐに察し、バルガスは渋々といった表情でとりあえず黙った。

「どうするの、クライレット」

「ん~~~~……受けようとは、思う。ただ……ちょっと難しいよね」

指名依頼の内容は、魔物の討伐ではない。
討伐であればリザードマン、フォレストリザード、グラッシュバッファーが相手であってもそこまで悩まない。

よっぽどのイレギュラーが起こらなければ、誰かが死ぬこともない。

しかし、剝製の依頼となれば……話は変ってくる。
魔物を剝製にするとなれば、極力は倒す際に傷付けてはならない。

職人の手によってある程度は整えられるが、欠損はまず論外。
毛皮を持つ魔物などであれば、内出血といったダメージすら極力控えなければならない。

クライレットたちはCランクという枠の中では中々異例の戦闘力を持っており、Cランクモンスターの討伐は勿論、Bランクモンスターの討伐であっても……不可能ではない。
ただ、剝製にする為に倒すとなると、ただ強いだけでは駄目。

正確に急所だけを射抜き、外見に支障が出ないように倒さなければならない。

「心臓、脳を潰す……脳を潰す場合、頭の骨はなるべく破壊しない方が良いんだったかな?」

「心臓を破壊する時も、なるべく守っている骨を砕かない方が良いわね」

「魔石だけを砕くのも悪くないんだけど……発見するのがちょっとね……」

「………………」

黙っていろと言われたため、まだ黙り続けるバルガス。

「え、えっと……と、とりあえず受けて頂けると、ということでよろしいでしょうか?」

「あっ、そうですね」

魔物の剝製依頼。
ひとまず、四人はその依頼を受けることにした。

(……あれだね。リザードマンとフォレストリザード、グラッシュバッファーもそこまで珍しい魔物ではないというのが救いだね)

冒険者の中でも器用よりなクライレットだが、全て一体目で達成出来る自信はない。

時間を掛けず、あまり魔力を消費せず速攻で倒す。
そういった事はそれなりに得意だが、なるべく外傷を付けずに倒すとなると、話は違ってくる。

そこまでより専門的なことを考えながら魔物を倒してはおらず……普通の冒険者からすれば、魔物なんて売れる素材さえまともな状態で残ってれば良い。
最悪生死の狭間状態であれば……倒せれば原型なんて気にしない。

(でも、このタイミングでこういった依頼が来たことを考えると…………思ってたよりも早く階段を上れそうだね)

何はともあれ、四人にとって決して悪い依頼ではなかった。
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