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兄の物語[29]響かない、届かない

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「あれ、ヒルナたちよね。ドーウルスに帰って来たんだね」

いきなりヒルナに声を掛けてきた人物は……Aランクパーティー、魔導の戦斧に在籍しているミシェル。

「やっほ~~~、ミシェル!! ご飯まだ? まだだったら一緒に食べよ~~」

「うん!!!」

四人とは同期に近いということもあり、日頃から交流がある。

「なぁ、ミシェル。噂のパーティーについて知ってるか?」

「?」

ミシェルがメニューを頼み終えた後、テックは優秀過ぎるがあまり歳が近い冒険者たちに疎まれているパーティーについて、何か知っていないかと尋ねた。

ドーウルスは都市の規模、冒険者ギルドの規模も並ではないため、噂のパーティー……と尋ねられても、中々パッと思い付かない。
だが、この時ばかりはどのパーティーの事を指してるのか直ぐに解った。

「あっ! もしかしてクライレット君たちのパーティーの事?」

「クライレット君? そこまで詳しい事は解らねぇけど、多分そいつがリーダーのパーティーだと思う」

「クライレット君たちがどうしたの? もしかして、また私たちと歳が近い冒険者が喧嘩を売ったの?」

「いや、そういう話を聞いた訳じゃないんだが……とりあえず、ミシェルはそのパーティーの事を知ってるんだな」

「うん。だって、クライレット君はゼルート君のお兄さんだから」

「「「「…………え?」」」」

数秒……ほんの数秒ではあるが、四人の空気が完全に固まり、最後に変な声が零れた。

「み、ミシェル。今……なんて言った」

「噂のパーティーのリーダーであるクライレット君は、ゼルート君のお兄さんなの」

「……………………なぁ、実はその喧嘩を売ってしまった冒険者たちは、死んだりしてないよな」

「……テック、どんな噂を聞いたの? クライレット君は喧嘩を売ってきた冒険者たちの試合で木剣を使わず、素手であしらったんだよ」

「あしらったって……って事は、その試合は試合とすら言えない内容だったってことか」

試合と呼べない内容。
よほど両者の実力に開きがある場合、そう言われてもおかしくない結果になるが、まだ年齢を考えれば……よっぽど特殊な環境で育った等の過去がない限り、そうはならない。

「私は直接観てなくて、その試合を観てた人に軽く聞いたんだけど、クライレット君は一対一の勝負を五回連続で試合を全勝したの」

「五回連続!? はぁ~~~~…………そりゃあ、プライドがズタボロになるっつ~か……現実を突き付けられたってやつか?」

「いや、少し違うだろう。そうだな……自分たちが本物になれると思っていた。だが、そこであたかも本物面をしている生意気な連中がいた。そこでお前たちは本物ではないと現実を突き付けようとしたが、その同業者たちが本物であり、自分たちは本物になれないと打ちのめされたのだろう」

「……解る様な、解らんようなって感じなんだが」

「私はちょっと良く解んね」

「テック、私は解りますよ」

本物とは具体的になんなのかとツッコミたい説明ではあるが、ミシェルもテックが何を言いたいのか理解は出来た。

「その五人は今のところ変なことは考えてたりはしてないみたいで、特に変な行動もとってないらしいけど、ベテランの人たちは結構心配してたね」

「先輩たちは心配するだけで、なんも言わないの?

「えっと……この前、クライレット君たちが変な武器を装備したリザードマンジェネラルを討伐したの」

「っ!? そのクライレットって奴ら……四人だっけか? マジか、それ」

「マジみたいだよ。それで、四人が元々襲われてた同業者を助ける形で倒したらしくて、クライレット君たちがギルドに色々と報告を上げた後、四人が主役の宴会が始まっちゃったらしいの」

「……なるほど。今更のその先輩たちに何か言われても、おそらく心に響かない、届かないということでしょうか」

ベテランたちは自分たちの芯を曲げてクライレットたちの強さを持ち上げている訳ではなく、純粋に凄いと感じ……冒険者らしく盛り上がりたかった。

ただ、そこにゼルートの弟だから変に対立したくないという思いも、ゼロとは言えなかった。
それは冒険者界隈を生きていくためには、決しておかしい考えではない。

とはいえ……ある程度余裕がある、本当に今の自分の生活に満足している、ある程度歳を取っている……そういった人間でなければ解らない、納得出来ない考えでもあった。
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