上 下
865 / 1,043
連載

兄の物語[22]落ちたければ結構

しおりを挟む
「フローラ、ペトラ。襲われてる冒険者の方を頼む」

「了解!」

「直ぐに援護するわ」

まだ襲われていた冒険者はギリギリ殺されていない。

だが、全員ボロボロであり、瀕死に近い者もいる。

「バルガス!」

「おぅよ!!!!」

Bランクの怪物……リザードマンジェネラルが大剣を振り下ろす前にバルガスが飛び蹴りを食らわせ、続けてクライレットの鋭い斬撃刃が放たれた。

「っ!!?? ガっ!?」

ようやく仕留められると思っていたところに、死角からの襲撃。

当然、イライラゲージが高まるリザードマンジェネラルの矛先は直ぐに奇襲を仕掛けてきた二人に向けられた。

「大丈夫? まだ生きてるよね」

「あ、ありがとう、ございます」

「ポーションは持ってるかしら? 持ってないなら、私たちのを渡すからさっさと飲んで」

「て、てめぇら……なに、しやがる!!!!」

場違いな怒鳴り声を上げるのは、先程までリザードマンジェネラルに襲われていたパーティーのリーダー。

「何って、どう見ても救命活動じゃない。もしかして、私たちが毒入りのポーションでも渡すと思ってるの? そんなバカなこと、私たちがするわけないでしょ。する必要もないし」

あんたとは違うんだから、そんな事する必要がない……という考え込められた言葉を、リーダーの男はこの時ばかりは瞬時に読み取った。

「んだと、このクソ、エルフが」

「私がクソなら、あんたがゴミ屑玉無しヒューマンね。私たちに獲物を取られるのが悔しい、ムカつくって思ってるのかもしれないけど、あのリザードマンジェネラルにとってあんたは命懸けで戦う相手じゃなくて、ただのちょこまかと逃げ戸惑う餌なのよ」

相手が重傷を負っている怪我人であろうとも、面倒な敵意を向けてくる人物で相手であれば、容赦なく言葉のナイフをマシンガンの如く連射する。

「というか、私たちに文句を言う元気があるなら、あんたの仲間の心配をしなさいよ! あんた魔物以下に落ちる気? まっ、別に私にとってはどうでも良い事だけど。それじゃ、せいぜい必死に逃げなさい」

「も~~、相変わらず言葉が悪いな~~。でも、あなた達がここに居ても出来ることはないから、早くここから離れてね」

「くっ……」

フローラは回復に必要であるポーションを渡し終え、戦線に向かおうとして、一回立ち止まった。

「先に言っておくけど、最後の最後に良いとこだけ取ろうとしたら、私たちの戦いを邪魔しようとしたら殺すからね。それじゃ」

「っ…………んなんだよ、クソったれ」

本当に軽い感じで殺すからと口にしたフローラ。
その言葉には戦意や殺気、敵意の欠片もなかった。
にもかかわらず……威勢だけは一丁前な男は妙な寒気を感じて震えた。


「うわぁ~~。あのジェネラル、どう見ても普通じゃないね」

フローラは大きなため息を吐きながらも、一切怯えて怯むことなく大斧を持って前衛に上がる。

「フローラっ!! そいつの攻撃は、あんまり受け止めねぇ方が良いぞ!!」

「分かった!!!」

パーティーのタンクであるフローラは敵の攻撃を受け止め、隙をつくるのが役目だが、攻撃を逸らすだけでも十分役割を果たしていると言える。

(っ!!!??? これは、何度も対応するのは、厳しいね!!!)

見れば解る。
リザードマンジェネラルの体には血管が浮き出ており、眼も普通の状態ではなく、やや赤く染まっている。

(あの大剣……どう見ても、魔剣だよね!?)

素人でも普通の武器ではないと解るクオリティを持つ大剣。

手に入れた経緯はどうであれ、並みの武器では対抗出来ない。

「シッ!!!!!」

「っ!? ジャァアアアッ!!!!」

目の前のジェネラルが普通ではないことは、既にクライレットも把握していた。

ほんの一瞬、脚に重点的にダメージを与えてから撤退しようかとも考えたが……そこで撤退しても、自分たちがギルドに報告する間に同業者が殺られるかもしれない。

そう思うと……やはり適当なところで退くという選択肢はあり得なかった。
しおりを挟む
感想 680

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。