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少年期[973]彼が持つ特権

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SIDE ディスパディア公爵家

「ガラックス……」

「申し訳ありません、当主様。私の全てを懸けても、彼を倒すことは出来ませんでした」

「今はそんな事どうでもいい。失った生命力は……どうなったんだ」

ディスパディア公爵もそれなりに戦場に出ていたため、過去に一度だけ己の生命力を消費して戦う戦士を見たことがあり、ガラックスがゼルートとの戦闘中に何を行ったのか理解してしまっていた。

「ご安心ください、当主様。今回の試合で使用した生命力は……彼が、ゼルート殿が元に戻してくださいました」

「「「「「「っ!!!???」」」」」」

衝撃の内容にディスパディア公爵を含め、多くの者たちが衝撃を受けた。

「せ、生命力を……寿命を戻したという事は、いったいどういう事だ!?」

「私もゼルート殿がどういったスキルを、術を使用したのかは解りません。ただ、この指輪を使用する前よりやや力が漲っている様にも感じます」

実際のところ、ラームはきっかり十年分を渡したのではなく、約十年分を渡したため、ガラックスの感想通りになっていた。

「……と、とにかく寿命に異常はない、ということだな」

「えぇ、その通りです…………当主様、一つ申し上げたい事があります」

「うむ、なんだ」

「この先……ゼルート殿や、その仲間達……関係者に手を出そうという報復内容は、今後一切考えない方が賢明です」

まさかの発言にほぼ全員が顔をしかめる中、ディスパディア公爵は冷静な態度で理由を尋ねた。

「当主様も、観ていた解ったでしょう。私は……文字通り命を懸けて戦いました。その甲斐あって、彼の表情から笑顔を消すことが出来ました……ですが、それもほんの数秒の間です」

寿命という名の生命力を消費することで身体能力を爆上げ、使用魔力量が一時的に増加したことでゼルートの表情から確かに笑みが引っ込んだ。

だが、その時間は十秒にも満たなかった。

「私は長年、ディスパディア公爵家の為に鍛錬と実戦を積んできました。ここ数年は後進育成の為に動いてきましたが、自己鍛錬を怠ってはいませんでした」

「……そうだな。良く知っている」

ガラックスがただ訓練の内容だけを伝えるのではなく、自身も一緒に訓練に取り組みながら部下たちを指導していることは、ディスパディア公爵も知っていた。

「その私が全力で……文字通り命を懸けて挑んだ結果、ゼルート殿の最高の遊び相手……そこが限界だったのです」

最高の遊び相手。
その言葉を聞いた瞬間、ガラックスを慕う者たちの顔に怒りが浮かぶ。

「お前たち、変な怒りは持つな。あれは……あの笑みは、当然の権利だ。圧倒的な戦闘力を有する強者の……それこそ、戦争を一人で終わらせられると言っても過言ではない男が持つ特権だ」

流石にそれは評価し過ぎ、という言葉が零れることはなかった。

既にゼルートが開戦初っ端に特大攻撃魔法を連発したという事実は広まっており、目の前で文字通り命を懸けて挑んだ我らが騎士団長を剣術勝負で倒してしまった。

結果としてゼルートもダメージを受け、フロストグレイブは折れてしまったが、それでも勝者はゼルート。

「彼ほどの実力者であれば、自らの命を投げ出してでも勝ちを得ようとする敵は……最高の挑戦者なのだろう。だからこそ、笑みを浮かべて……嬉々としてその挑戦を受け入れるのだ」

まだ納得出来ない表情を浮かべる部下たちに対し、現実を伝えなければならい。

「加えて、パーティーメンバーの女性二人はどちらもAランク冒険者クラスの実力を有している。そして……従魔の三体は、限りなくSランクに近い。もしくは同等の実力を持っている」

「「「「「「ッ!!!???」」」」」」

半分は半信半疑な表情を浮かべ、もう半分は顔が絶望に染まる。

「小さなドラゴンと特殊なスライム。あの二人が結界を張っていたお陰で、当主様たちに余波による被害が及ぶことがなかった。そして紅色のリザードマンだが……騎士として、剣を扱う者として同じ土俵で勝てるか……正直、不安を覚えた」

我々の認識が甘かったのだと、騎士や令息たちがどれだけ顔に絶望を浮かべようとも、その事実は今後の為に伝えなければならなかった。
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