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少年期[950]良識のあるファン

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「んじゃ、行くぞ」

時間が惜しいこともあり、ゼルートは歩いて……または走って王都に向かうのではなく、本来の姿に戻ったラルの背に乗って王都へと向かった。

「……本当に良い景色ね」

「うむ、何度見ても感動だな」

ラルの背中から見る景色に関心を寄せる二人。
ゼルートも同じく、その景色に心地良さを感じていた。

「でも、通り過ぎるのはほんの一瞬とはいえ、変な噂が立たないかしら?」

「なるべく街を通り過ぎない様に飛んでるから、大した問題にはならないだろ。冒険者たちが気配に気付いたとしても、一瞬過ぎて正確には解らない筈だ」

ゼルートの考えている通り、ラルフロンから王都に到着するまで、何名かの冒険者は上空を通り過ぎる謎の飛行物体に気付いた。

しかし、その詳細までは把握出来なかったが……感じた飛行物体の強さを本能的に感じ取り、冒険者ギルドに報告するといった事態が起きた。

そんな事が起こっているとは知らず、その日の間にゼルートたちは王都へと到着。

「ッ!! ぜ、ゼルート様たちですね。こちらへどうぞ!!!」

「ありがとうございます」

自国の英雄が中へ入る為の列に並んでいる気付き、門兵は慌ててゼルートとVIP列へ案内し、即座に中へと入れた。

「ゼルート、なんで最初からあっち側に並ばなかったのよ」

「すまんすまん。なんて言うかさ……俺としては、まだ男爵家の令息って感覚が残っててさ」

「なるほどね……だとしても、今は伯爵家の令息でもある訳だから、今度からは門兵の人たちに迷惑掛けない様に、最初からあっち側に並びなさいよ」

「分かった分かった。次から気を付けるよ」

普段と変わらない様子で会話をするゼルートたちだが、当然ながら周囲の者たちの多くが英雄たちに目を向けていた。

既にゼルートが正真正銘の人族であり、まだ十五歳にもなっていない青年という事実は広まっている。
そして両脇には人族と獣人族の美女を連れ、後方には子竜とリザードマンの希少種。そしてスライムといった面々を従える。

事細かい情報も広まりつつあるため、ほぼ全員が英雄たちの姿に目を向けてしまうのは、ごく自然な状態になりつつある。

(居心地が悪い……って思うのは、他の同僚たちにとったら凄い嫌味になるんだよな)

不満を口に出すことはなく、速足で王城へと向かう。

ゼルートたちに憧れの目を向ける者たちも、ファンであっても中々近寄りがたい雰囲気もあって、無理矢理声をかけて少しでも関わろうとする者は現れなかった。

ファンの理解もあって特に問題が起こることなく王城へ到着。

「これはゼルート様、どうなされましたか」

警備の騎士にとって、仮に公爵家出身の者であっても、ゼルートは様を付けて呼ぶ絶対的な存在。

「国王陛下と話したい事があるんですけど、今大丈夫ですか」

「こ、国王陛下とですか!!!???」

「無理なら宰相さんでも良いんですけど」

「……か、畏まりました!! 少々お待ちください!!!!」

騎士は迷惑をかけないレベルの全力ダッシュで移動。

他の者であれば国王陛下、もしくは宰相に会えるかと口にすれば、丁重にお断りされる……怪しい者であれば、その場で刃を向けられてもおかしくない。

「お、お持たせしました! こ、国王陛下の元へ、ご案内、いたします」

「ありがとうございます」

長い長い道を歩き、国王が客と話す部屋へ到着。

「ゼルート様たち御一行をお連れしました!!」

「通してくれ」

「はっ!!!!」

扉を開けてくれた騎士に対し、ゼルートとは走らせてしまった礼として、金貨一枚をチップとして渡した。

「ッ!?」

慌てて受け取った騎士が何かを言う前に中へと入り、扉を閉じた。

「いつでも歓迎ではあるが、随分と急な訪問だったな」

「申し訳ありません……話が終わり次第、礼をさせていただきます」

「そこまで気にする必要はないが……うむ、解った。それではまず要件を聞かせほしい」

国王陛下の言葉通り、ゼルートは王都まで来て国王陛下の元を尋ねた理由を正直に伝えた。

その結果、護衛の近衛騎士は目玉を見開いて驚き固まり、国王陛下は悩ましい表情を浮かべた。
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