冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［９２４］邪魔するな

「あぁ？」

海中ダンジョンの攻略から一旦帰還し、宿で睡眠を取り……再び海中ダンジョンへ向かおうとするゼルート一行。

しかし、朝から待ち構えていたのは密林の魔物ではなく、ギルド職員だった。

（まぁ、話ぐらいは聞くか）

ゼルートとしては、無視してさっさと海中ダンジョンに行きたい。
しかし、職員の表情を見てしまうと……話ぐらいは聞いてやらないと可哀想と感じ、椅子に腰を下ろした。

「で、何の用ですか？」

「えっとですね」

ギルド職員は緊張しながらもギルドとしての要望をゼルートたちに伝えた。

（……俺、それについては解決策というか、俺じゃなくて問題無いって伝えなかったか？）

ギルドからの要望は、ゼルート宛てにくる料理の指名依頼を受けてほしいとのこと。
勿論その内容は、海鮮丼。

きっちり金貨二十枚を払うため、是非とも作ってほしいという依頼が殺到している。

「俺、海鮮丼に関しては色々と提示したと思うんですけど」

「その……依頼者の方々としては、是非ともゼルートさんに作っていただきたいようで」

海鮮丼という料理に関して、確かに興味がある。
だが……権力者たちは、そこにゼルートが作った、という付加価値がある海鮮丼に強い興味がある。

そのため、ゼルートへの指名依頼が止まらない状況が続いていた。

（うっ……こ、怖い。こ、呼吸。呼吸しないと）

よろしくないのは解っている。
解っているのだが……苛立ちが零れてしまう。

（はぁ～～～～～～～～…………クソめんどくせぇ）

口には出さなかったが、それでも苛立ちを抑えきれない。

「ゼルート、零れてるわよ」

「っ、すまんすまん」

パーティーメンバーであるアレナが声をかけたことで、無理矢理引っ込める。

対面するギルド職員はホッと一安心するが、口から零れたない様に……再びを恐怖を感じた。

「そいつらに言っといてください。俺の休暇を……冒険を邪魔するなと」

忠告……完全な忠告だった。
この言葉を無視すれば、誰であろうが容赦なく潰す。

反抗しようものなら、殺す。

実際にゼルートはそれらの言葉を口にしていない。
言葉にしていないが……告げられた職員は、明確にその意図を受け取った。

「俺が作ったから、なんて付加価値を求め続けられたら、俺は自由に動けなくなる。そんなのは……自由を象徴する職業、冒険者の姿ではない。そうですよね」

「は、はい！　仰る通りです！！！」

「とりあえず、全ての依頼主に今の俺の言葉を告げておいてください」

会話はそこで終了。

ギルド職員は震えが止まる、こけそうになるのを無視して全力ダッシュ。
運良く通行人にぶつかることなく職場に戻り、速攻で上司にゼルートからの伝言を伝え、同時にその時の不機嫌な様子も伝えた。

「自由を象徴する職業、冒険者の姿ではない、か……いやはや、確かにその通りではある」

報告は直ぐにラルフロンのギルドマスターへと伝えられた。

ゼルートの言葉も解らなくはない。
本来はそういった冒険者の意見を捻り潰せるのが権力者……なのだが、今回は相手が悪過ぎる。

ほぼ戦争を一人で終わらせた男。
その内容を表していると言っても過言ではない二つ名、覇王戦鬼。

二つ名に王と名の付く冒険者は幾人かいれど、覇王と呼ばれる者はまだ誰もいない。

大袈裟過ぎる二つ名？
あの戦争に居た者たちであれば、そんな戯言を口から吐けない。

特大の攻撃魔法をぶち込み、更には最前線へひとっ跳び。
加えて、最前線へ着地するなり、敵国の戦闘者たち全てのヘイトを買う内容を吼えた。

間違いなく……過去の歴史も含め、一つの戦争で一番敵の命を奪った狂戦士と英雄、紙一重な存在。

（納得しない者たちが多いと思うが、耐えてもらうしかない。あの怪物と対峙すると考えれば……大人しくなるだろう）

ギルドマスターはペンを取り、いくつもの手紙にゼルートとの伝言を記したものを書き始めた。