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少年期[904]今回は破棄した
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「お待たせしました。こちらが海鮮丼になります。お好みでこちらの醤油、山葵をお付けください」
「う、うむ……それでは、頂こう」
椀を手に取り、スプーンでご飯と刺身を一緒に口に入れた。
そして十回ほど咀嚼し、飲み込んだ後……男は、急速に食事の手を速めた。
「あまり食べる手を速めては、喉を詰まらせてしまいます。しっかりと噛んで飲み込んでください」
「う、うむ。すまない」
ゼルートの注意を聞き入れた……聞き入れたが、食事の手は相変わらず速い。
注意通り、しっかりと噛んで飲み込んでから次の一口を入れているが、明らかに貴族の食事ペースではない。
テーブルマナーを大きく崩してはいないが、そこには優雅さの欠片もなかった。
そんな主人の行動に、護衛の騎士たちは汚さ……を感じる前に、主人がゼルートに頼んだ海鮮丼という料理が、いったいどんな味なのか。
その事に興味津々となり、中に涎を垂らしてしまう者もいた。
(……このまま放っておくのはちょっと可哀想だな)
護衛の騎士たちが目の前で海鮮丼を爆食いする光景に釘付け状態に、少々可哀想と思ったゼルートは人数分の椀とスプーンを用意し、ご飯と刺身をよそった。
「代金は貰っていませんので、その一杯だけですよ」
そういうと同時に、ゼルートはストームウォールとロックウォールを同時展開。
食べ終わるまでの間だけは、海鮮丼を食べる事に集中しても構わない。
ゼルートからの思いやりを受け取り、護衛の騎士たちも主人と同様に海鮮丼を食べ始めた。
当然と言うか、護衛の騎士たちはあっという間に海鮮丼を食べ終えてしまった。
急いで「おかわりをくれ!!」と口に出しそうになったが、ゼルートは自分たちに善意で一杯だけ提供してくれたことを思い出し、ぐっと思い留まり……口を固く塞ぎ、ゼルートに一礼して定位置に戻った。
全員が食べ終わったのを確認し、ストームウォールとロックウォールを解除。
「ゼルート殿、この刺身の種類を変えてもらっても良いか」
「えぇ、勿論ですよ」
既に十体以上の死体を解体しているため、まだ男が食べていない刺身が残っている。
男が割と武闘派の貴族であるがゆえに、何杯もおかわりしても、直ぐに腹が膨れることはなかった。
とはいえ、普段から大量に料理を口にするタイプではないため、六杯目の海鮮丼を食べ終えたところで、食事の手が止まった。
「どうぞ」
「これは……緑茶か」
紅茶ではなく、緑茶。
勿論、この世界にも存在しているため、珍しくはあるものの、何かを疑われる要素はない。
「うむ、美味い」
「それは良かったです」
「いや、この海鮮丼という料理は本当に上手かった」
「料理、というほど大層なものではありませんけどね」
米を炊き、魚系の魔物を捌き、盛り付けるだけ。
ゼルートとにとっては全く料理ではないが、依頼人である男からすれば、そんな細かい事情は全く関係なかった。
「そんな事はない。非常に素晴らしかった……して、いったいどうやって生魚に対する処置を行ったのだ」
勢いで食べてしまったところは否定出来ない。
しかし、貴族の男と護衛騎士も、その点に関して気にならないわけがない。
「俺は、最高ランクの鑑定眼を有しています」
「むっ! そ、そうだったのか」
知られざる英雄の新情報を知った。
鑑定系のスキルを有している。
たったそれだけの情報ではあるが、それが戦争を終わらせた英雄の情報となれば、それだけで何故か嬉しくなるもの。
「捌いた切り身を鑑定眼、もしくは鑑定を使って細かく、深く鑑定する。そうすれば、腹を壊す原因となる厄介者を事前に発見出来ます。その厄介者を取り除くことも出来ますが、今回はその部分は破棄しています」
「そ、そうか。配慮に感謝する」
ゼルートも貴族ではあるが、寄生虫が居たとしても、取り除いてしまえば気にしない。
だが、依頼主である男は自分の様に大雑把ではないだろうと判断し、一部は廃棄していた。
何はともあれ、今回の指名依頼も無事に終了。
ただ……この一件で、余計に忙しくなるのが解りきっていたため、表情は決して明るくなかった。
「う、うむ……それでは、頂こう」
椀を手に取り、スプーンでご飯と刺身を一緒に口に入れた。
そして十回ほど咀嚼し、飲み込んだ後……男は、急速に食事の手を速めた。
「あまり食べる手を速めては、喉を詰まらせてしまいます。しっかりと噛んで飲み込んでください」
「う、うむ。すまない」
ゼルートの注意を聞き入れた……聞き入れたが、食事の手は相変わらず速い。
注意通り、しっかりと噛んで飲み込んでから次の一口を入れているが、明らかに貴族の食事ペースではない。
テーブルマナーを大きく崩してはいないが、そこには優雅さの欠片もなかった。
そんな主人の行動に、護衛の騎士たちは汚さ……を感じる前に、主人がゼルートに頼んだ海鮮丼という料理が、いったいどんな味なのか。
その事に興味津々となり、中に涎を垂らしてしまう者もいた。
(……このまま放っておくのはちょっと可哀想だな)
護衛の騎士たちが目の前で海鮮丼を爆食いする光景に釘付け状態に、少々可哀想と思ったゼルートは人数分の椀とスプーンを用意し、ご飯と刺身をよそった。
「代金は貰っていませんので、その一杯だけですよ」
そういうと同時に、ゼルートはストームウォールとロックウォールを同時展開。
食べ終わるまでの間だけは、海鮮丼を食べる事に集中しても構わない。
ゼルートからの思いやりを受け取り、護衛の騎士たちも主人と同様に海鮮丼を食べ始めた。
当然と言うか、護衛の騎士たちはあっという間に海鮮丼を食べ終えてしまった。
急いで「おかわりをくれ!!」と口に出しそうになったが、ゼルートは自分たちに善意で一杯だけ提供してくれたことを思い出し、ぐっと思い留まり……口を固く塞ぎ、ゼルートに一礼して定位置に戻った。
全員が食べ終わったのを確認し、ストームウォールとロックウォールを解除。
「ゼルート殿、この刺身の種類を変えてもらっても良いか」
「えぇ、勿論ですよ」
既に十体以上の死体を解体しているため、まだ男が食べていない刺身が残っている。
男が割と武闘派の貴族であるがゆえに、何杯もおかわりしても、直ぐに腹が膨れることはなかった。
とはいえ、普段から大量に料理を口にするタイプではないため、六杯目の海鮮丼を食べ終えたところで、食事の手が止まった。
「どうぞ」
「これは……緑茶か」
紅茶ではなく、緑茶。
勿論、この世界にも存在しているため、珍しくはあるものの、何かを疑われる要素はない。
「うむ、美味い」
「それは良かったです」
「いや、この海鮮丼という料理は本当に上手かった」
「料理、というほど大層なものではありませんけどね」
米を炊き、魚系の魔物を捌き、盛り付けるだけ。
ゼルートとにとっては全く料理ではないが、依頼人である男からすれば、そんな細かい事情は全く関係なかった。
「そんな事はない。非常に素晴らしかった……して、いったいどうやって生魚に対する処置を行ったのだ」
勢いで食べてしまったところは否定出来ない。
しかし、貴族の男と護衛騎士も、その点に関して気にならないわけがない。
「俺は、最高ランクの鑑定眼を有しています」
「むっ! そ、そうだったのか」
知られざる英雄の新情報を知った。
鑑定系のスキルを有している。
たったそれだけの情報ではあるが、それが戦争を終わらせた英雄の情報となれば、それだけで何故か嬉しくなるもの。
「捌いた切り身を鑑定眼、もしくは鑑定を使って細かく、深く鑑定する。そうすれば、腹を壊す原因となる厄介者を事前に発見出来ます。その厄介者を取り除くことも出来ますが、今回はその部分は破棄しています」
「そ、そうか。配慮に感謝する」
ゼルートも貴族ではあるが、寄生虫が居たとしても、取り除いてしまえば気にしない。
だが、依頼主である男は自分の様に大雑把ではないだろうと判断し、一部は廃棄していた。
何はともあれ、今回の指名依頼も無事に終了。
ただ……この一件で、余計に忙しくなるのが解りきっていたため、表情は決して明るくなかった。
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