冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［９０３］評価にはなる

「ゼルート殿！！！　良ければ、もし良ければ私にも、あなたの手料理を！！！！」

「……ひとまず、冒険者ギルドの方に自分に対する指名依頼を出してもらっても良いですか」

「勿論！！　今すぐ行って手続きをしてまいる！！！！」

いきなりゼルートの元に現れた貴族の当主は、ゼルートに手料理を作ってほしいと頼んで来た。

当然のことながら、そういった性癖を持つ方だからこその告白、プロポーズなどではない。

「ゼルート、私たちはどうしたら良い？」

「あぁ……あれだ、今回に関しては、俺一人でも大丈夫だ。ずっと食べてるのも暇だろうからな。ゲイルたちと一緒に潜るも良し、ボールで遊んでても良い」

「分かったわ」

「うむ、お言葉に甘えさせてもらおう」

ゼルートたちが現在泊っている宿は、貴族や豪商なども泊まるほどランクが高い。

そんな宿に住まう者たちは、先日……ゼルートに料理に関する指名依頼を出した青年の感想を耳にし、居ても立っても居られない思いを持っていた。

ザイアンは、ゼルートに迷惑を掛けまいと、訪ねてきた同僚や貴族の者たちに対し、詳細は教えなかった。

ただ、ゼルートの名誉を穢さぬように、これだけは質問者たちの前で断言した。

「まだ食べられるのに、食べられなくなってしまう、自分の腹が……限界が憎いと思ったよ」

その言葉に、多くの者たちが想像力を働かせ……中には涎を垂らす者もいた。

是非とも、ゼルートが料理する一品を食べてみたい。
そう思いはした……金を払えば、食べられるのは間違いない。

しかし、普段から接しやすい雰囲気を持つ冒険者ではあるが、同時に戦争で大活躍した英雄。
近代で一番戦闘力が高い英雄だと断言する者も多く、加えて貴族の令息ではなく一人の貴族となった傑物。

立場上は同じく冒険者、貴族であってもそう簡単に話しかけても良いのか迷う人物。

そういった事情もあり、多くの者たちが金貨二十枚を払うか否かを迷うよりも、まずゼルートに話しかけるか否か……指名依頼を出しても良いのかと迷った。

（はぁ～～、料理を作るのは嫌いじゃないけど、そもそも海鮮丼はそこまで工程が必要な料理じゃないからな……作っても、そんなに達成感が得られないんだよな）

とはいえ、指名依頼という形であれば、断る気は起きない。

戦争からそれなりの日数が経ち、そろそろ上に登るのも良い時期と思い始めていた。

内容が内容なだけに、冒険者としての力量だとカウントできないのでは？　と思わなくもない依頼内容ではあるが、指名依頼を達成すれば、それは一応評価する基準となる。

「ゼルート殿！！！　指名依頼を出し終えたぞ！！」

先程の貴族がダッシュで戻り、ゼルートにもう問題はないだろ！　と言わんばかりの表情で準備完了を告げた。

「分かりました。えっと、それでは冒険者ギルドの前で待っていてもらえますか」

「うむ、分かった！！！！」

貴族の男は、自分が二度手間をしていることなど、一切頭になく……無心で再び冒険者ギルドへと向かった。

（さすが、三大欲求の一つ、食欲だな）

ゼルートも小走りで通行人に迷惑を掛けない様に進み、男からの指名依頼を受諾。

直ぐに外で待っていた男と合流し、先日ザイアンに料理を振舞った、人気が少ない場所へと向かった。

「それでは、料理を始めます」

「うむ」

先日捌いた刺身がまだ残っており、色合いや状態も問題はないが、一応依頼人が食する相手ということもあり、ゼルートは米を炊き始めた後、直ぐに魚系モンスターの解体を始めた。

「……この光景を観るだけでも、金を払う価値がありそうだな」

圧倒的な速度で解体を行うゼルート。

巨大な魚系モンスターが大した時間もかからず、刺身に変わっていく光景に、貴族の男だけではなく、護衛の騎士たちも驚きが顔に現れていた。