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少年期[874]吐き出せる機会、場所は必要
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ホルーエンに到着した翌日、ゼルートたちは早速雪原へと向かった。
「……俺が体験してたのとは、レベルが違うな」
雪が詰まっている幅が厚く、予想よりも歩きづらい。
しかし、アレナはなんて事はない、といった表情で平然と歩く。
「アレナは結構慣れてるんだな」
「慣れてるというより、体が覚えてるんでしょうね」
頼りになる先輩だと思うゼルートだが、アレナはゼルートたちは直ぐに慣れると期待していた。
「ふむ、これはこれは……面倒だな。ゼルート、お前の日でここ一帯を溶かすのはどうだ」
「えっ。いや、それはちょっとな……」
ゼルートがやんわり断ると、アレナがルウナの頭に軽くチョップを下ろした。
「何するんだ、アレナ」
「あなたがあんまりにもバカな事を言うからよ」
どの部分が馬鹿なのか分からず、ルウナは首を傾げる。
「雪を溶かしたら水になるでしょ」
「そうだな」
「この辺り一帯は、放っておけば水を凍らせる冷たさなのよ」
「…………なるほど、そういうことか」
本格的にバカという訳じゃないので、ルウナも何故辺り一帯の雪を溶かしては駄目なのか、納得した。
「そうなってくると、あまり強力な火魔法は使えないのか?」
「別にそんなことはないわ。属性の相性を考えれば、火魔法を使う場面は多い。だから、戦闘で使う分には同業者からどうこう言われることはない筈よ」
しかし、先程ルウナが口にしたような理由で溶かそうとすれば、大ブーイングを貰ってしまう。
「っと、お客さんみたいね」
「だな」
当然、雪原を歩いていれば魔物と遭遇する。
冬眠する魔物もいるにはいるが……大概は元気一杯、雪原を歩き回っている。
とはいえ、ホルーエンの周辺にはそこまで強力なモンスターは生息していない。
なのでゼルートたちの戦闘欲が実戦で満たされることはない。
本日に限れば……せいぜい、スノーグリズリーとの戦いは手加減すれば、多少楽しめるといった程度。
「買取をお願いします」
「か、かしこまりました」
ホルーエンの冒険者ギルドにも、ゼルートやパーティーメンバーであるアレナやルウナが、戦争でどのような活躍をしたのか、情報は届いている。
ただ……周囲が雪原ということもあり、魔物を倒してその場で解体するのは向かない。
なので、全てが解体された状態で素材をカウンターに置かれ……その光景に驚くのも無理はなかった。
「よし、飯だ!!」
生意気にも、既に雪原という環境に適応し、成果を出している。
そんなゼルートに嫉妬しない者が……当然いる。いるが、もう簡単に絡める存在ではなくなった。
善意を持って、ただ話してみたいという気持ちであれば、ゼルートも普通に対応するだろう。
ただ、心に悪意を持っていれば、待っているのは電流地獄か金的潰しか……もしくは、情けなく失禁させられるか。
戦争で過去に例を見ない戦果を上げ、独立した貴族となったゼルート。
立場だけを考えれば、ダル絡みした結果……ボコボコのボコボコにされても文句は言えない。
最近のゼルートはなるべく会話で解決するメンタルを身に付けたが、それが出来ない事はないのだ。
その結果、そういった視線を向けられるだけで、絡まれることはなかった。
「ふふ。何人かゼルートに唾を吐きたそうな奴らがいたな」
「そうね。色んな意味でゼルートに嫉妬してるのよ」
「一応貴族にもなっとしな……まっ、俺がいないところで俺に対する不満や愚痴とかで盛り上がるんだろうな」
良い気はしないが、それぐらいはしょうがないと思っている。
いちいちそんな事でキレていれば、禿げるのも時間の問題。
加えて、冒険者たちにも負の感情を口で吐き出せる機会、場所がなければ何をやらかしてしまうか分からない。
そういう部分まで理解しており、ゼルートは微かに耳に入ってきた陰口に対して、特に詰め寄ることはなかった。
「……俺が体験してたのとは、レベルが違うな」
雪が詰まっている幅が厚く、予想よりも歩きづらい。
しかし、アレナはなんて事はない、といった表情で平然と歩く。
「アレナは結構慣れてるんだな」
「慣れてるというより、体が覚えてるんでしょうね」
頼りになる先輩だと思うゼルートだが、アレナはゼルートたちは直ぐに慣れると期待していた。
「ふむ、これはこれは……面倒だな。ゼルート、お前の日でここ一帯を溶かすのはどうだ」
「えっ。いや、それはちょっとな……」
ゼルートがやんわり断ると、アレナがルウナの頭に軽くチョップを下ろした。
「何するんだ、アレナ」
「あなたがあんまりにもバカな事を言うからよ」
どの部分が馬鹿なのか分からず、ルウナは首を傾げる。
「雪を溶かしたら水になるでしょ」
「そうだな」
「この辺り一帯は、放っておけば水を凍らせる冷たさなのよ」
「…………なるほど、そういうことか」
本格的にバカという訳じゃないので、ルウナも何故辺り一帯の雪を溶かしては駄目なのか、納得した。
「そうなってくると、あまり強力な火魔法は使えないのか?」
「別にそんなことはないわ。属性の相性を考えれば、火魔法を使う場面は多い。だから、戦闘で使う分には同業者からどうこう言われることはない筈よ」
しかし、先程ルウナが口にしたような理由で溶かそうとすれば、大ブーイングを貰ってしまう。
「っと、お客さんみたいね」
「だな」
当然、雪原を歩いていれば魔物と遭遇する。
冬眠する魔物もいるにはいるが……大概は元気一杯、雪原を歩き回っている。
とはいえ、ホルーエンの周辺にはそこまで強力なモンスターは生息していない。
なのでゼルートたちの戦闘欲が実戦で満たされることはない。
本日に限れば……せいぜい、スノーグリズリーとの戦いは手加減すれば、多少楽しめるといった程度。
「買取をお願いします」
「か、かしこまりました」
ホルーエンの冒険者ギルドにも、ゼルートやパーティーメンバーであるアレナやルウナが、戦争でどのような活躍をしたのか、情報は届いている。
ただ……周囲が雪原ということもあり、魔物を倒してその場で解体するのは向かない。
なので、全てが解体された状態で素材をカウンターに置かれ……その光景に驚くのも無理はなかった。
「よし、飯だ!!」
生意気にも、既に雪原という環境に適応し、成果を出している。
そんなゼルートに嫉妬しない者が……当然いる。いるが、もう簡単に絡める存在ではなくなった。
善意を持って、ただ話してみたいという気持ちであれば、ゼルートも普通に対応するだろう。
ただ、心に悪意を持っていれば、待っているのは電流地獄か金的潰しか……もしくは、情けなく失禁させられるか。
戦争で過去に例を見ない戦果を上げ、独立した貴族となったゼルート。
立場だけを考えれば、ダル絡みした結果……ボコボコのボコボコにされても文句は言えない。
最近のゼルートはなるべく会話で解決するメンタルを身に付けたが、それが出来ない事はないのだ。
その結果、そういった視線を向けられるだけで、絡まれることはなかった。
「ふふ。何人かゼルートに唾を吐きたそうな奴らがいたな」
「そうね。色んな意味でゼルートに嫉妬してるのよ」
「一応貴族にもなっとしな……まっ、俺がいないところで俺に対する不満や愚痴とかで盛り上がるんだろうな」
良い気はしないが、それぐらいはしょうがないと思っている。
いちいちそんな事でキレていれば、禿げるのも時間の問題。
加えて、冒険者たちにも負の感情を口で吐き出せる機会、場所がなければ何をやらかしてしまうか分からない。
そういう部分まで理解しており、ゼルートは微かに耳に入ってきた陰口に対して、特に詰め寄ることはなかった。
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