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少年期[872]食欲に従う

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王都を去った後……ゼルートたちはとある場所に向かっていた。

その場所は、ホルーエン。
一年を通して、よく雪が降る街。

何故そんな街に行くのか?
ダンジョンなどはない。
しかし、その街周辺ではウィルッシュバニーというモンスターがよく現れる。

ランクはCと、バニーやラビット系モンスターの中では、かなり強い。
そんなウィルッシュバニー肉は……非常に美味い。

ホルーエンに向かう理由は、たったそれだけだった。

「今更だけど、とんでもない理由ね」

「何がだ?」

「ホルーエンに向かう理由よ」

「あぁ、それか。いや、ウィルッシュバニーの肉って、超美味しいだろ」

雪原などに出現するウィルッシュバニーには、ガレンが治める領地では滅多に現れない。
なので、ゼルートも今まで数えるほどしか食べたことがない。

ただ……超美味いということだけは、記憶に刻まれている。

「そうね、それは知ってるわ」

「羨ましいな。私は……おそらく知らない」

アレナは奴隷になるまえの冒険者生活で、何度か食したことがある。

ルウナは王族ではあるが、それは随分前の話。
奴隷の身に落ちてからは、全く食べていない。
高貴な身分であったのが随分前なので、その頃に食べたことがあるか否かなど、全く覚えていない。

因みに、ゲイルたちもウィルッシュバニーの肉を食べたことがあり、よく覚えている。

(創造は、こっちの世界の物は生み出せないからな)

生み出せるのであれば、魔力の消費を気にせず生み出し、腹が満たされるまで食べ続ける。

「食欲ってのは、人間が有する大きな欲求の一つだろ」

「解ってるわ。でも、その理由一つで雪原に行くか、って話よ」

アレナの言うことは、最もだった。

冒険者たるもの、何かしら目的を持って街から街へ動くのが一般的。
今回は目的を持って行動しているが……食べたいモンスターの食材を理由に、厳しい環境に自ら向かう者は少ない。

「マジックアイテムはきっちり購入してるし、問題無いだろ」

「……そうね。そうよね」

パーティーの中で一番常識人であるルウナだが、リーダーである少年には、その常識が通じない。

こういう時に、改めてその事実を思い知らされる。

マジックアイテムに関しては、ホーリーパレスで見つけた宝箱の中から手に入れ物がある。
ダンジョンの特徴的に、寒さなどに耐性が高いマジックアイテムは中々手に入らないが、大量に宝箱をゲットしたこともあり、少なからず手に入れていた。

ただ、不安に思ったゼルートは、王都のマジックアイテム店で足りないと思った分を購入。
いさかか、金を使い過ぎでは? そう思う金額を消費したゼルート。

しかし、今回に限っては完全に冒険に対する投資。
冒険者が冒険に対する渋るのは、どう考えてもおかしい。
という訳で、アレナは止めようとしなかった。

「それに、雪原に現れる強敵と戦うのもありだろ」

「うむ! それはそうだな」

「楽しみですね」

「…………」

結局はそれか! と口に出したいが、解っていた事なので、そのまま飲み込んだ。

「なんだかんだで、ゼルートは経験があるのでしょ」

「雪原での戦いか? ん~~……全く経験がないってわけじゃないけど、基本的に森の中で動いてたから、雪原とはちょっと勝手が違うと思うんだよな」

勝手が違わなくとも、ここ数年は雪の上で戦っていない為、いきなり十全で戦えるとは断言出来ない。

「接近戦に関しては、慣れるまで全力は出せないかもな」

「全力は出しちゃ駄目に決まってるでしょ。地形が変わってしまうじゃない」

冗談ではなく、ゼルートが接近戦で全力を出すような事があれば、真面目に地形が変わってしまう。
そうなれば……その地を治める領主とぶつかるかもしれない。

ただ、最近得たゼルートの立場や名声を考えれば、向こうが仕方ないと諦める可能性も、無きにしも非ず。

「へいへい、それは解ってるって。でも、やっぱり慣れておいた方が良いよな」

なんて考えてると、頭が悪い盗賊たちがゼルートたちに奇襲を仕掛けた。
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