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少年期[863]選びはすれど

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「ゼルートさん、で宜しいですよね」

「ゼルートですけど……あなたは、誰ですか」

自分に声を掛けてきた男性に対し、ゼルートは一瞬で今までの記憶を振り返ったが、全く印象がない人物。

ただ……目の前の男が、変装していることだけは直ぐに解った。

(変装のマジックアイテム使てる、よな。正体がバレたくない人物ってことか?)

警戒しなければならない相手だと認識し、そのオーラが零れる。

「私はあなたと敵対するつもりはありません。ただ、少しお話をしたいと思いまして。代金はこちらが払いますから、カフェにでも行きませんか」

「…………分かりました」

「ありがとうございます」

男は丁寧に頭を下げ、とあるカフェに向かう。

ゼルートはこの後、特に予定はないので一先ず男の後に付いて行くことにした。

(私やルウナよりは弱い……でも、戦えないって訳じゃなさそうね)

(変な匂い……いや、薄い?)

リーダーが決めたことであれば、特に文句を言わずに付いて行く。

普通に考えれば、少しは悩んだ方が良いと進言する場面かもしれないが、二人には何があっても……とりあえず、ゼルートに声を掛けてきた人物に戦闘で負ける気はなかった。

そして男はあまり人気のない場所に入り、ある建物の前で足を止めた。

「こちらになります」

そう告げ、建物の中へと入る。

ゲイルたちは一応と思い、人の姿に変化してから中へと入る。

(……ただのカフェって雰囲気じゃないな)

男が店員と思しき人物に話している間、他の客たちがゼルートたちの方にチラッと目を向ける。

中にはびっしりと深い斬り傷が顔に入っている者もおり、全体的に客層が普通ではない。

「二階に行きます」

元々予約していたのか、男はゼルートたちを個室に案内。

その個室には盗聴系のマジックアイテムなど一切なく、完全防音の個室。
部屋で話す声は、絶対に外に漏れない仕様となっている。

「まず、私について説明させていただきます」

男が自身について軽く説明行う。

男の正体は……以前、ゼルートの姉であるレイリアを自分の妻にしようとし、結果的に裏の人間を使い……人生を捨てることになってしまった。

その時に雇われた裏の組織の者。

「あぁ、あの時の……で、そんな組織の人間が、俺に何のようですか」

そういった連中かもしれないという予想はしており、その予想が当たり、一気にオーラが冷たくなる。

「先程も伝えた通り、私たちはゼルートさんたちと敵対するつもりはありません」

基本的に冒険者……そして今は男爵であるゼルートにとって、裏の連中はなるべく潰しておきたいと思う存在。

「こちらの書類をどうぞ」

男から渡された書類を鑑定で確認してから、ゆっくりと手に取った。

「ここ最近、その書類に書かれている男がオルディア王国に入ってきた、という話が届いてます」

書類にはとある男の情報が記されていた。

書類に記されている男の名は……サリハン。
その名前を見た瞬間、アレナは震えあがり……鳥肌が立った。

「嘘でしょ」

「アレナ、知ってるのか?」

「逆に知らないの……って言いたいところだけど、ゼルートやルウナはあまりそういうのに興味ないものね」

アレナは書類に記されている名前、サハリンについて多少ではあるが情報を持っていた。

「ディスタール王国でトップクラスの有名暗殺者よ」

「暗殺者……あなたたちと同業、ってことか」

「近い関係ではあります。ただ、その男は文字通り自分たちとレベルが違います」

「その人の言う通りね。冒険者じゃないのに、黒葬という二つ名を持ってるの」

二つ名を持っている。
ゼルートはその意味を直ぐに理解した。

「なるほど。マジで侮れない人物ということか……貴族や騎士、商人……高ランクの冒険者も殺してるんだな」

「仕事は慎重に選んでいると思いますが、達成率は百パーセントです」

同業者から恐れられる人物。
そんな暗殺者がオルディア王国に入国……ではなく、侵入してきた。

極秘も極秘中の内容。
では、何故そんな情報をゼルートに伝えたのか……本人は十秒ほど考え込み、目の前の男が在籍する組織が何を考えているのか把握した。
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