冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［８５３］もう一度、冷静に考えてごらん

「そこまで」

イーサンが模擬戦終了を宣言。

一対十六の模擬戦は……当然、ゼルートの終了で幕を閉じた。

「とりあえず、俺が臨時教師に相応しい力があると納得してくれたかな」

ゼルートの言葉に、何人かの生徒が軽く頷く。

他の生徒たちはこの結果に納得していない？
そういう訳ではなく、自分たちが言い訳出来ない程圧倒的に負けたという現実は理解している。

ただ……一対十六で負けた。
この結果を簡単に飲み込むことが出来ず、項垂れてしまう生徒が多数いた。

（こうなるのは当然なのだけど、上を向ける気力はあるかしら？）

アレナからすれば、ゼルートが生徒との模擬戦で圧勝するのは目に見えていた。

誰かがゼルートに攻撃を掠らせることが出来れば大金星とすら考えていた。
しかし今回の模擬戦、ゼルートは一度も生徒の攻撃を受け止めることすらなく、勝利を収めた。

（負けた……負けた……俺たちが負けたん、だよな）

生徒たちが味方の数の多さが仇となり、連携が酷いことになったりはしていない。
寧ろ、連携の練度に関しては、外から見ていたアレナやルウナも少々驚いた。

誰かの攻撃は味方にぶつかることは一度もなく、生徒たちは最後まで果敢に攻め続けた。
それでも生徒たちの攻撃は掠りすらせず躱され、受け流される。

やろうと思えばもっと長い時間模擬戦を続けられたかもしれないが、ゼルートが軽く殺意を乗せた攻撃を急所に添える。
すると、今自分は殺された……そう錯覚した生徒たちは地面にへたり込み、次々と戦線離脱していった。

そして最後に残った生徒もあっさりやられ、全滅。

「君たち、まだ冷静にこの結果を受け止めることが出来ていないかもしれないが、受け入れない限りは前に進めないぞ」

「……それは、分かってます」

上には上がいる。
それは学生である以上、同級生や上級生にもタイマン勝負で敵わない強者がいる。

故に、この学園に入学してから……人によってはそれ以前から、イーサンが言う通り、現実を受け入れなければ前に進めないという事実は解っている。

それでも……今回の結果は直ぐに飲め込めない。
担任であるイーサンからの言葉であっても、はいそうですね気持ちを切り替えられない。

「いや、解っていない。ゼルートさんが君たちと同じ歳ということもあって、本能的にこの結果を受け入れられてないだろ」

自分たちの心を見透かされ、一瞬怒りの感情が湧き上がったが、直ぐにそんな思いは無駄だと把握し、速攻で捨てた。

「今まで数々の強敵と戦い、それらの戦闘を乗り越えてきた。六十層もあるダンジョンを攻略し、ダンジョンから溢れ出した大量の魔物を仲間と一緒に倒し続け、最後は一人でＳランクの魔物に挑み、勝利をもぎ取った」

さすがに誇張し過ぎだろ……今まで心のどこかでそう思っている部分があった。
その生徒たちも、自分たちが束になっても敵わなかった現実を考えれば、実話なのかもしれないと思い始める。

「単純に言ってしまえば、君たちとは身体能力や技術、経験数が違い過ぎるんだ。君たちは冒険者候補としてはエリートかもしれないが、ゼルートさん現役の冒険者。冷静になって考えて見なさい……スライムが何十、何百集まってもドラゴンに勝てると思うかい？」

「いいえ、無理です」

自分をスライムに例えられたことに関して、僅かな怒りがあった。
しかし、イーサンが怒鳴らずに淡々と事実を解りやすく説明してくれたお陰で、徐々に今体験した現実を受け入れられるようになってきた。

（俺が言ったところで、絶対に生徒たちから怒りを買うだけだっただろうな）

ゼルートはイーサンの生徒たちに対する丁寧な説明に感謝し、チラッと友人たちの方に目を向けた。

「それじゃあ、そっちの四人は……ルウナ、やってみるか？」

「良いのか！」

お前じゃないのかよ！！　

これからゼルートと四人で挑むと思っていたスレンたちは、思わズッコケそうになった。