上 下
692 / 1,026
連載

少年期[849]どうせなら経験者を

しおりを挟む
ゼルートが冒険者ギルドのクエストボードに貼られている、学園の生徒の臨時教師になって欲しいという依頼に興味を持ったその次の日……朝早くに、冒険者ギルドの方から泊っている宿に職員が訪れた。

「ゼルートさん、是非こちらの依頼を受けて頂けないでしょうか」

そう言いながら職員がテーブルの上に置いた依頼書は、先日アレナとルウナが見つけた内容のものだった。

「……これ、二人からそういった依頼があると教えられて、受けようと思っていました」

「そ、そうだったんですね! ありがとうございます!!」

その依頼は、元々特定の冒険者を指定されてはおらず、ある程度冒険者としての経験があり、学生に負けるような実力の低い者でなければ誰でも良かった。

しかし、ディスタール王国との戦争が行われ。
見事ゼルートたちが所属するオルディア億国は勝利を収めた。

そういった件があり、学園側としては実際に戦争を経験した冒険者が臨時教師として好ましいと思い始めた。

加えて、学園は戦争を勝利に導いた冒険者の一人であるゼルートがまだ他の街に旅立っておらず、王都に滞在しているという情報をキャッチ。

となれば、当然ゼルートを臨時教師として迎え入れたいという思いが強くなる。

「こちらが、報奨金額になります」

「……値段、上がってませんか?」

アレナから臨時教師の依頼の報奨金に関しては既に聞いていたが、その値段とギルド職員が提示した金額全く違っていた。

とりあえず桁が一つ違っており、ゼルートは目をぱちぱちさせる。

「短期間とはいえ、英雄と言っても遜色ない方をお呼びするのですから、これぐらいは当然かと」

「そ、そうですか」

英雄と呼ばれることに対し、未だに照れを感じる英雄本人。

しかし……この時まだ、ゼルートは知らなかった。
以前から仮の二つ名として呼ばれていた、覇王戦鬼という二つ名が確実に定着してしまっていたことを。

「それでは、三日後に馬車が到着しますので」

「分かりました」

諸々の最終確認が終了し、ゼルートたちが臨時教師の依頼を受けることが決まった。

「ゼルート、いい加減に慣れたらどう?」

「何をだ」

「英雄って呼ばれることよ」

「……普通、慣れるか?」

自分が先の戦争で、それだけの活躍をしたという認識は持っている。

だが、ゼルートにとってそれはそれ、これはこれという話。
元々冒険者として色んな場所を見て周って冒険し、強い敵と戦いたいという思いは持っていた。

それでも、冒険者として功績を積み重ね、英雄と呼ばれたいとは考えていなかった。

「冒険者として実績を重ね続ければ、普通は慣れるものよ」

奴隷に落ちる前、冒険者として非常に順調な道を進んでいたアレナは、過去の仲間と共にと街の危機を救うこともあり、当然その街の住民からは英雄と呼ばれる。

アレナも最初こそ恥ずかしいと感じることもあったが、今ではあまり気にならなくなった。

「ゼルートの場合は、悪獣との一戦で既に英雄となっているからな。もう少しその辺りも、自信持って良いのではないか」

「ルウナの言う通りよ。横柄な態度を取る様にならなければ大丈夫よ」

英雄であっても、その態度によっては同業者や民から嫌われることはある。

そこさえ間違えなければ、ゼルートは確実に理想の英雄となるだろう。
その点に関しては、アレナとルウナも心配していなかった。

(そういうもんか……とりあえず、臨時教師になるんだから適当のアドバイスを考えとかないと駄目だよな)

幼馴染と呼べる四人に会えるのも楽しみだが、依頼である臨時教師という仕事内容はきちんとこなさなければならない。

当日までの三日間、父と母たと別れ……以前知り合った大手クランのメンバーと交流を行いながら考え続け……ようやくその日を迎えた。

臨時教師となる当日、少々早い時間に三人が泊っている宿へ、学園からの使者が到着した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。